読書記録R6-32『木』

幸田文著
新潮文庫令和四年三月新版発行
(平成四年六月新潮社より刊行)

幸田文(1904―1990)
東京生まれ。幸田露伴次女。1928(昭和3)年、清酒問屋に嫁ぐも、十年後に離婚、娘を連れて晩年の父のもとに帰る。露伴の没後、父を追慕する文章を立て続けて発表、たちまち注目されるところとなり、54年の『黒い裾』により読売文学賞を受賞。他にも多数受賞歴あり。
(以上は本の表紙裏より一部抜粋)

幸田文氏の作品は歯切れが良くて好きだ。読むと姿勢が良くなる気がする。憧れにも似た気持ちがあった。
このエッセイ集は知らなかった。

しかし、読んでみると以前とは異なる印象を受けた。
意外と意思が強いらしい。
好奇心旺盛でいろんな人や事に関心を寄せ、繋がりを大切にされている。
こちらが歳を重ねたからよく分かる部分もあり、また分かるだけに社会の変化という意味で幸田文氏のこだわりが気になる。こだわりを持つのはいいが疲れるのだ。

noteの老婆の日常茶飯事さまの投稿記事で教えて頂いた。
いつもありがとうございます。

解説の佐伯一麦氏によると
本書には木にまつわる十五のエッセイが収められているが、はじめの「えぞ松の更新」が発表されたのが1971年1月、最後の「ポプラ」は1984年6月だから、13年6ヶ月の長きに渡って飛び飛びに書き継がれたことになる。それは幸田文にとって、憑かれたように日本中を見て歩き出会った木をどうやって自分の心に納めるか、という粘り強い努力の日々であったと思われる。
(以下略)

たまたま新聞の読書欄に能楽師有松遼一氏の筆による本書の紹介記事があった。
「語らぬ草木に言葉を重ねる」と題された文章。

「木は黙して生き、存在するだけ。あとは人がどう看取するか。能舞台の背景には必ず老松を描く。(略)演者はいつも「誠実」であれと背中から見られている気がする。自分は信ある言の葉を語る人間であるか、どうなのか。問う声が聞こえる。」

こちらもこの本が繋いでくれた真摯な文章だ。

えぞ松の更新

ひのき

木のきもの
安倍峠にて
たての木 よこの木
木のあやしさ


材のいのち
花とやなぎ
この春の花
松 楠 杉
ポプラ

目次をかき並べただけ。
完全に自分の備忘録のために。
なんと杉が三度も…。
最初のは屋久島の縄文杉。なんと樹齢7200年、根回り28m、樹高30m。

二番目の杉は杉の形。
真ん中が高く尖ったその樹形。新潟の海岸にあるテトラポットに話が飛ぶ。

最後のは福島県岩代、杉沢の大杉。高々とすっきりと立上がった大樹。
夕立に合い、雨が止んだ後も杉の下は傘がいるほど。
枝振りの外に出れば、杉は全身の翠に水滴を飾り、夕陽は水滴を飾ってダイヤモンドにしていた。

美しい描写だ。
私が彼女の文章が好きな所だ。
しかし、こう続く。

杉の老大樹が、ダイヤの装身具をつけて見せてくれようとは、どこをどう押したって私の貧弱な脳味噌には、とてもとても発想できるものではない。わざわざ逢いにきてくれれば杉ももてなしてくれるし、夕立もおてんとう様も
おみやげを下さったのかと思う。(以下略)


ちょっと最後が長い気がするのです。
最後まで書き切るのがいいのか…分からない。





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