読書記録R6-63『さみしい夜にはペンを持て』

古賀史健著
絵:ならの
ポプラ社2023年9月第六刷
(2023年7月初版)

古賀史健
1973年福岡県生まれ。1998年出版社勤務を経て独立。

ならの
1995年生まれ。大阪府出身、徳島県在住。幼児教育を専攻し台湾で1年間保育士として勤める。その後イラストレーターとして独立。

この本はとても良くできていると思う。その理由は以下で。
そして、ならの氏の絵に負うところも大きいと考える。

主人公はタコジロー。中学3年生。
クラスではイジメられっ子。
泡のように消えてなくなりたい…とすら思う。
ある日とうとう学校へ行けず、終点でバスを降り、お婆さんに優しく声をかけられる。でも事情なんか話せない。

公園でヤドカリのおじさんに合う。
そして話をする内に徐々に変化が…。

そう、その世界は海の中!
不思議な海の中の生物たちの擬人化の世界!

おじさんはタコジローの話を聞きつつ自分の世界に誘導していく。

1章 「思う」と「考える」は何がなに違う?
と問いかける。
「自分の思いを書く。文章にする。このとき、泡のように不確かだった『ことばにならない思い』はかたちを持った『考え』に変わる。」
「考える」とは答えを出すこと。
書きながら考えていく。そうすればいつか自分だけの答えにたどり着く。

おしゃべりと文章の最大の違い。それは消しゴムの存在。書いて、読んで、「こうじゃない」と消しゴムを入れて、また書いて。それをくり返す中で、僕たちは答えに近づいていく。

2章 自分だけのダンジョンを冒険するために

文章が心から離れてゆく理由。それはことばを決めるのが早すぎるから。

例えば「感動」。
一言ではくくりきれない、たくさんの感情が沸き起こったはず。なのに「感動しました」「びっくりしました」「面白かった」とかのよくあることばですませてしまう。パッと思いついただけの、なんにでも使える便利なことばで片づけている。もう少し時間をかけて自分の気持ちにピッタリのことばを探せたはず。 

そしておじさんは日記を書くよう勧める。
日記を書くには様々なことに注意を向ける。具体的にどうするか?

ダラダラ書いてもつまらない。
書きたいことはメモしておく。

スケッチするように書く。
そのためには多くの色鉛筆や太さの異なる筆記具を用意する
それらを使い、丁寧に書くことで豊かな内容になる。
それと同じことはボキャブラリーを増やすことでできる。

例えば「たくさん」を表現するにも様々な言い方ができる。
たくさん、たっぷり、山ほど、すごく、ものすごく、ふんだんに、大量に、いくらでも、いっぱい、しこたま、潤沢に、数多く、ありあまるほど、めちゃくちゃ、履いて捨てるほど、ごまんと、相当、数えきれないほど、山盛りに、腐るほど、わんさか、豊富に、十分に、十二分に、星の数ほど、膨大に、果てしなく、あふれるほど、べらぼうに、たいそう、かなり、いくらだって、けっこう、十分すぎるほど、とんでもなく、途方もなく、でたらめに、あまた、うんと、無限に、やばいくらい、びっくりするくらい、半端なく、なみなみと、たんまり、無数に、がっつり、ざらに、どっさり、ごろごろ、おびただしく、売るほど、たんと、ぎょうさん、おどろくほど、枚挙に暇がないくらい、無尽蔵に、どれだけでも、めっちゃ、ずいぶん、とてつもなく、笑っちゃうほど、砂の数ほど、わんさと、ありえないくらい、ごまんと、尽きることなく

これはなにに似ているか。
そして似ている感動を見つけたら、どこが似ているかを考える。
「すごい」とか「きれい」だけでなくそれに似た過去の感情を思い出す。
自分だけの進むべき道を知るために。

あるいは主語を変えて表現する。
一人称の「僕は」から、個人名にする。と、距離感が生まれ、作品らしくなる。

単に文章を繫げるのではなく、自然な流れを整える。

何度か会ううちに、おじさんは日記を継続して書くことを勧める。これは自分との約束。最低10日は続けること。

6章では「書くもの」だった日記が「読むもの」になっていく日。
続きを読みたいから、書いていく。

この本は私達に文章を書くことのコツやポイントを教えてくれている。
一言でいうなら文章教室。
私も毎日noteに投稿したりコメントしたりする。もう少し考えて自分の気持ちにピッタリのことばを探そう。そのためにはボキャブラリーや表現の幅を増やしたい。

物語としては変化があり、タコジローの小学生の頃仲良しだったサッカー部員のイカリのケガによりクラスの勢力図が変わる。

体育祭で無理やり宣誓を押しつけられたタコジロー。また皆のからかいのマトになるのか。

やがて、ヤドカリのおじさんは警察から追われるる不審者となってしまう。
車を乗り換えるように貝殻を取替えて…カーチェイスが始まり、タコジローがとった行動は…?

物語としても波乱万丈!

約半年、待ったかいがあった。
次に待つ人のために早く図書館に返してこよう。


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