見出し画像

「第二回ひなた短編文学賞」開催前対談

23年6月に初開催「生まれ変わる」をテーマとした『ひなた短編文学賞』


フレックスジャパン(株)は、衣料品再生を主としたアトリエ「ひなた工房 双葉」を2023年7月に福島県双葉町に開業。その開業記念企画として、「生まれ変わる」をテーマにした短編小説を募る『ひなた短編文学賞』を開催し、全国から800件を超える作品が集まりました。

この度、第2回ひなた短編文学賞の開催が決定し、「生まれ変わる」と「ちいさな幸せ」をテーマに作品を募集いたします。
主催であるフレックスジャパン代表の矢島隆生さん、そして『ひなた短編文学賞』をプロデュースする小説家の塚田浩司さんのお二人に対談いただきました。



はじめての文学賞に寄せられた817篇の作品

――昨年、ひなた工房双葉開業記念企画として開催した『ひなた短編文学賞』ですが、はじめての開催を終えてみていかがでしたか?

塚田 感想としては、一番大きいのは、いい作品が集まってよかったなって。特に大賞の作品も良かったですし、応募作品も、どれもテーマに合っていて、ひなた工房であったり双葉町が伝えたい思いが伝わったんじゃないかなというのは感じました。冊子となった時に、それがもう一冊の本として成立するような面白い作品になったことも良かったです。矢島さんは作品を読んでみてどうでした?

矢島 素晴らしかったですね。テーマ自体が「生まれ変わる」というテーマであったがゆえかもしれませんけれど、胸にくるものが多くて、涙腺が緩むものもありましたけど、精神エネルギーをずいぶん増やしてもらえる作品が多かったな。

塚田 冊子一冊丸々読んだ時に、どれも人間の温かさが 一貫して入っているような感じがします。そういう作品を選んだっていうのもあるかもしれないんですけど、選んでない作品の中にもそういうのが非常に多かった。

矢島 いや、ものすごく多かったですよ。だから、最後の審査の時になって私、「すみません、審査員おります」って言ったじゃないですか。
私、選びきれないですもん。塚田さんのように 物を読むことのプロフェッショナルの方にはできるかもしれないけど、私みたいな素人であるとですね、それぞれに、もう感情の方が先に入っちゃうから、それぞれ全部素晴らしいから…

塚田 優しくて落とせなくなって、冊子がどんどん厚くなってしまうんですよね(笑)

矢島 そうなんですよね(笑)
作品を読ませてもらって、かなり多くの方たちというのは自分のために書いているなと。受賞するためでもないし、発表するためでもない。自分自身のために自分が書きたいからか、あるいは自分の気持ちを整理するためなのか。中には自分に対するエールだったりするかもしれないけど、それが書く上のモチベーションとして強いのかなと。
私自身が、書くことと非常に離れたところで、ずっと小さいころから「お前、なんで本読まないんだ」って怒られっぱなしできてますからね。
であるが故に、創作活動っていうのは必ずしも書くことだけじゃないと思うんですけど、こんなに素晴らしいことなんだなという風に思いました。

物語のもつ力を感じた文学賞に

――反響としてはいかがでしたか?

塚田 文学賞をやってみて、まさかこんなことが起きるかってことが結構ありましたよね。応募者の寿すばるさんという、佳作をとられた方なんですけど、ご自身で作品の中に出てくるドレスを作って寄贈してくださって。文学賞をやる前、まさかこんなことが起こるなんて思わなかったんで。

矢島 思わなかったですね。
寿すばるさんという方は、元々、布を扱うことを若いころちゃんと勉強された方なんですね。ところが子育てとかなんとかでそれからもう距離を置かれてしまった、という風に私は聞いているんですね。で、その中で亡くなったお父さんのシャツをリメイクして自分のウエディングシャツに仕立てるという作品を書いて、それが受賞作になったことをきっかけとして「作ってみようか」という話になったわけでしょ。
この話を聞いたある人が、「好きで服づくりを学ばれて、遠ざかってしまった人が、これがまた再スタートのきっかけになったって。それはその人にとって生まれ変わりみたいなものですよね」って。
これは、この文学賞に限らず、人の人生っていうものは何がきっかけでどうなるかわからない。いろんなとこで起こるんだろうけど、すごく楽しかったですね。

塚田 見ると感動しますよね。

寿すばるさん制作のウエディングドレス

矢島 それから、作品集をウェブで読まれた日本朗読検定協会の方が、ぜひボランティアで朗読会をやらせてほしいという風に申し込んでくださって。
双葉町で3月10日に毎年行われるキャンドルナイトの後に朗読会を開催したんですが、キャンドルナイトというのは、鎮魂であり、町のこれからの願いを込めてという厳粛なイベントであるわけです。
それで、朗読会を聞いてくださった地元の方たちが「救われた」って感想を述べてくださった。さっき言ったように、キャンドルナイトっていうのは鎮魂と未来への希望を込めたものではあるんだけども、被災した方にとってみると、それがやはりものすごく重い。
2011年の3月11日に引き戻される要素がすごく強かったんだろうなと。
そして朗読会っていうのは、そうじゃないわけですよね。そこに戻るんではなくて、 そこから先、そこから先というよりも、それと関係なく、 素直に楽しめた。 「素直に楽しめてほっとした」って。文学賞をやってよかったと本当に思いました。

2024年3月10日(日)、福島県双葉町の旧双葉駅舎にて開催した「ひなた短編文学賞朗読音楽会」

第二回の二つのテーマ「生まれ変わる」と「ちいさな幸せ」

――今回は、前回に引き続き「生まれ変わる」と、新たに「ちいさな幸せ」という二つのテーマになっていますがどのように出てきたのですか?

塚田 「ちいさな幸せ」については、自分が提案させていただいたのでお話しさせていただくと、去年、授賞式のため福島県双葉町に初めて行かせていただいて、やはり被災地というとちょっとネガティブというか、行く前もそんなに観光地に行くような気分で向かったわけじゃないんですけれど。いざ、行ってみて少し考えが変わったというか。もちろん津波とか原発の爪痕のようなところも目にして心に響くものがあったんですが、それ以上にポジティブな部分をすごく感じました。
ひなた工房のスタッフさんに双葉町を案内してもらった時に、「ここはやっとできた待望のコンビニなんです」「ここはこの前できたばかりの居酒屋です」「この自動販売機もやっとできたんです」って。そんな話を聞いたときに我々だと、そういうのって当たり前で何とも思わないんですけれども、こうやって街がどんどん生まれ変わっていく中で、それって本当に幸せなことなんだっていう風に、なんかすごくポジティブな気持ちになったんですよ。
それで、結局そういう小さな積み重ねが復興なんじゃないかなと思ったんです。そういう風にあの町を訪れて感じたんで。だから、今回の第二回にあたって新しいテーマをって時に、「ちいさな幸せ」がいいんじゃないのかなと、すぐに思い浮かんだんです。矢島さんからするとどうでしょうか。

矢島 これは死んだ父の言葉なんですが、「お前、なんで人間は幸せにならないか分かるか」って言うわけですよ。それは、「通り過ぎてしか幸せだったなって感じられないから人間は幸せになれないんだ」って。
実際そうなんですよね。そうじゃない方もいらっしゃるはずなんですけども、「なんか嬉しいなあ、幸せだな」と思って、幸福感で満たされていると感じる時なんてなんてあんまりなくて。ところがね、失ってみるとそれが本当に自分にとって大事な時間だったと気が付くんですね。言ってみれば人間にとっての不条理かもしれないですよね。
残念ながら、人間はありがたいことをありがたいと思い続けられるようにはできてない。

塚田 本当はそうであったら幸せなんですけどね。

矢島 双葉町というのは、何も無くなってしまった町なんですよね。なんにもない不自由なところで、「これこれができた、嬉しいな」って。それを日々感じながら生活されてるっていうのが、あの町のような気がするんですよね。ですから、双葉町発の文学賞のテーマとすると、非常にふさわしいテーマ。どこに住んでいようが、どんな恵まれた環境にいようが、それぞれのことを幸せだなと思えることが大事なんだっていうこと感じてもらえると、きっといいんじゃないかなと思いながら、今年のテーマはこれだなと思いました。

塚田 それで、引き続き「生まれ変わる」をテーマに、というのは矢島さんのアイデアだと思うんですけど、こちらはいかがですか?

矢島 「生まれ変わる」をテーマにした理由は、私たちが双葉町でスタートさせた事業自体が「もう着られなくなった衣料品を別の形に生まれ変わらせるという」テーマを正面に据えての事業だったということと、双葉町自体も、震災で多くが流されてしまって、それから原発事故を受けて、 実際に生まれ変わらなくてはいけない町なんですね。
人間にとっては、「生まれ変わる」っていうのはもう根源的で普遍的なテーマだと思うんですよ。したがって、これはこの文学賞のテーマから外すべきではないなという風に思いまして。どのテーマで書かれるかってのは、応募していただく方に決めていただいてもいいんですけど、これは外したくない。とはいえ、毎年毎年同じテーマでは、皆さんもね、次何にしようかって大変だろうから、 その年年、新しいテーマ設定が必要かなと思って。

塚田 だから、今回生まれ変わるでも小さな幸せでもどちらで書いてきてもいいですし、両方合わせた作品でも当然いいわけで。 応募者の方には、そのテーマと向き合って、素晴らしい作品を書いていただきたいなと思います。

求める作品とひなた短編文学賞が描く希望

――どのような作品を求めますか?

塚田 自分としては去年一年やってみて、本当にいい作品が集まったので応募者の方をある種信用していますので。あとは、双葉町やひなた工房のことも調べて、想いを汲んでテーマの中で自由に書いていただければと思います。矢島さんは?

矢島 うまいこと言ってくれましたね。私はですね、どういう作品ということに関しては実は望むものなんてのはないんですよ。クリエーションっていうのはその作者個人にしか作れないもので、私が希望するものでもないと思ったんですよ。
ただ、この文学賞を通じて 望むことということであればありまして、これをきっかけに、双葉町に興味を持ってもらえると嬉しいな。 興味を持ったその結果として、双葉町、1度お訪ねいただくと嬉しいなという風に思っています。
双葉町が復興していく上では、当然人が集まらないといけない。
人がどんどん住むようにならないといけない。でも、人が住むようになるという時には、まず人に関心を持ってもらわなくちゃいけない。したがって、まずは交流人口ですよね。自分自身の経験もそうですし、多分塚田さんもそうじゃないかと思うんですけど、ただの旅行者以上になるケースが多いような気がするんですよね。関係人口でそこの町に 特別な関心を持つ人になる可能性が非常に高いわけですよ。で、これは双葉町の復興にとって非常に大事なことなんですよね。
ですから、こういう活動を通じて双葉町というところに興味を持ってもらえる人が増えると嬉しいな。

塚田 実際行ってみると、自分みたいに見方が変わるってことあると思う。新しい発見できると思うので、本当にそれはそうだなって。

――矢島さん、塚田さん、貴重なお話をありがとうございました。


矢島 隆生
ひなた短編文学賞主催
フレックスジャパン株式会社代表取締役社長


塚田 浩司
ひなた短編文学賞選考委員長

第15回坊っちゃん文学賞 大賞
第2回ステキブンゲイ大賞 大賞
著者に「コイのレシピ」(ステキブックス)
5分後に意外な結末シリーズ(Gakken)にショートショート作品多数収録
短編映画「俺の海」原作担当
ちくま未来新聞にてショートストーリー連載中


第二回ひなた短編文学賞 の詳細・ご応募はこちら



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?