見出し画像

ことばに殺されそうだ

最近は、誰かに話を聞くという行為を生業にしている。
それは人のことばをくすねる行為である。それは善意によって成り立つ窃盗に近いため、誰かに向けたことばはそれ相応のものでなければならない。


行ってらっしゃいと見送ったことばが、あなたに捕まらなかった。
破裂する。場を支配するのは、他ならぬ静寂である。昨朝の微睡を憎んだ。
いつからか、ことばは静寂を刺し殺すための道具になった。そうなるともう厄介だ。そこにあるのは暴力だ。

ことばに雁字搦めになり、ついに行き場をなくした私に彼は言葉をかけた。それは炎だった。人殺しの道具ではなく、誰かを戒めるそれとして生きることを選んだ炎だった。

「元気でね」
そう呟くように言った彼の吐息から、微かに煙草の匂いがした。それは希望だった。

暖かい地と聞いていたのに、外は乾き、冷えている。



ことばに頼り過ぎた人間への戒め。ことばに殺されそうだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?