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津野米咲・赤い公園の音楽 23. NOW ON AIR

「NOW ON AIR」は「サイダー」に続く2枚目の配信オンリーシングルとして2014年8月27日に発売されました。 プロデューサーは初めての顔合わせとなる蔦谷好位置さん。 

iTunes Storeで販売された配信版のジャケット

 2枚目のフルアルバムとなる『猛烈リトミック』が1ヶ月後に発売になるタイミングであり、こちらも「サイダー」と同じようにアルバムのプロモーションの為のリリースと思われます。 同日にティザービデオが発表され(サビの部分が聞ける)、フルバージョンのPVはアルバム発売の1週間ほど前に公開されています。

「NOW ON AIR」ができたことで、アルバムが完成したように思います。アルバムを作っていく中で、ただただ、「NOW ON AIR」みたいな曲だけが足りないなと思っていて。こういう曲が1曲ないと、いいアルバムじゃなくなってしまうと思って、作った曲なんです。 これはもう、バンドとしてとか、私は好きとか、おもしろいとか、そういうことをぜんぶ超越して、とにかくいい曲をかけたらいいなと思っていて。それが一番難しいことなんですけれど、それに近づけたのではないかな、と思います。 

Fanplus Music 2014年9月28日

 上記のインタビューの”バンドとしてとか、私は好きとか、ぜんぶ超越して”という言葉の真意は分かりませんが、赤い公園の曲と、他のミュージシャンに提供する曲をはっきりと分けて考えていた津野さんが、そう言ったものも超えてとにかく自分ができる限りのいい曲を書いた、という意味でしょう。 それまで”自分が作りたい、自分の中から自然に出てくる曲”から始まり、”注文されて提供する曲”、”タイアップ等である程度の条件を与えられた上で赤い公園の為に作る曲”に取り組んできた津野さんとしては、さらに一段階上の”職業作曲家”として制作した初めての曲、と言う事になると思います。
 
 ボーカルの佐藤さんはインタビューで、”津野からデモを聴かされて、すごくポップだなと思いました。あと、蔦谷(好位置)さんにアレンジを加えてもらったら、かなりロック・テイストになって、“これは赤い公園、だいぶ新しいぞ”と思いましたね”と語っています。 今となっては想像するしかありませんが、津野さんのデモは、後にラジオで流された”お家からNow On Air”に近いものだったのかも知れません。

 前作「サイダー」での変化も大きなものでしたが、ひとつ前の「絶対的な関係」のキーをメジャーにして明るい内容の歌詞にしたものと捉えられない事もない基本はシンプルなバンドサウンドでした。 一方で「NOW ON AIR」はキーボードを含む非常に豪華なアレンジに加えて、所謂王道のポップミュージック(J-POPという枠を超えていると思います)そのものの曲は、それまでの赤い公園の曲とは大きく違って響きます。 「風が知ってる」のリリース時、”どういう曲を作れば売れるかは分かっているつもりだから、逃げずにそれに挑戦する”と言っていた津野さんですが、この曲こそまさにその狙い通りの曲になっていると思います。


1. 「NOW ON AIR」の特徴

構成 

BPM 143固定(ゆらぎゼロ)。
4/4拍子
イントロ (G Major) →Aメロ (G Major)→Aメロ繰り返し→Bメロ(G Major)→サビ(G major)→Aメロ (G Major)→Bメロ(G Major)→4分の2拍子一小節→サビ(G Major)→間奏(ギターソロ G major )→サビ(オスティナート G major)→サビ(G Major)→アウトロ(G Major)

 2度目のサビの前に4分の2拍子が1小節挿入されている以外変拍子要素はなく、調性もあきらかなG Major、転調も全くなく、普通Gのキーで出てこないような特殊なコードも全く無いと言う、それまでの赤い公園の曲では考えられないような王道的な曲になっています。 ベースラインも基音以外の音を弾く事は殆ど無い上、基本的には音階にそって上行、下行、あるいは上下行する、これも珍しい(赤い公園としては)パターンです。
 Aメロのバッキングのベースラインを基にして全曲に統一感を与える為に採用したアイデアではないかと思います。

ラジオスターの悲劇 / Digital Love

 バッキングのパターンだけを取り出して聞くと分かりやすいのですが、Aメロのコード進行はバグルズの1979年の大ヒット曲、「ラジオスターの悲劇」(The Buggles / Video killed the Radio Star)から引用されているようです。

  一方で、サビの後半部分で繰り返されるリフは、Daft Punkの「Digital Love」からほぼそのままの形で引用されているのでは、というご指摘をいただきました。  この曲も、当初から「ラジオスターの悲劇」のオマージュと言われていたようですが、確かにこのリフは、上記のフレーズを逆行させて作られているようで、原曲との近似性を強く感じます。 つまり、結果として「NOW ON AIR」では、Aメロとサビの後半で同じフレーズ(の逆行形)が使われており、それが曲に統一感を与えています。
 津野さん、或いはプロデューサーであり編曲を担当した蔦屋さんにどこまでこの二曲から引用をしようという意識があったかは分かりません。 ただ、サビで使われている「Digital Love」のフレーズはあまりに近似しているので、意図的な引用と考える方が自然なように思えます。 

ベースライン

 Aメロのベースの上行音型は全曲を統一するキーになっています。

Aメロの上行するベースライン


 Bメロでは逆にベースは音階にそって下降し、G majorの基音であるソの音まで下がると再度上行を始めてドミナントのDまで上がり続けます。

Bメロの下行後上行するベース

 
 サビのベースは再度上行、下行し、採取的にドミナントのDまで上行(コードの構成音と音型のMix)。

サビのベース

サビのメロディ

 サビではベースの動きに沿ってコードも頻繁に変わる為動きが激しい印象がありますが、メロディはかなり特徴的であり、また緻密に作曲されている事が分かります。

 下記はこのメロディの中で基音であるソの音をハイライトしたものですが、メロディを構成する全ての音の約半数がソの音。

サビのメロディ ソの音をグリーンで表示

さらに、G majorの主和音であるソ、シ、レの3音をハイライトしてみると、これ以外の音は殆ど無い事に気がつかれる事と思います。

サビのメロディ ソ、シ、レをグリーンで表示

 また、メロディ全体は基本的には二つの短いパターン(動機)から構成されています。  一つは特徴的なレ→ソソという形で、これは全く同じ形が3回繰り返されますが、3回目はフレーズの中での位置が最初の2回とは違う為実際には繰り返されているように感じません。 また、3回それぞれバッキングのコードが変わっている為(G→C→Am)、同じ音型でも全く違った響きになっています。
 もう一つはソラシラソの音型(白盤黒盤でも何度も出てきた音型)が一部の音が省略されたり、それ以外の音が追加されたりしますが基本的な形を保ったまま計5回繰り返されています(譜例)。

サビで繰り返される二種の音型

 このような作曲法はかなりクラシック的な物だと思うのですが、津野さんの中からこのようなメロディが自然に生まれてくるのか、あるいは短いフレーズ(動機)のアイデアをもとに1小節ずつ時間をかけて作っていくのか。 前者であるならば本当に素晴らしい才能を持って生まれたと思いますし、後者であるならば作曲に向ける真摯な姿勢に改めて頭が下がる思いです。 結果として、このメロディは非常に覚えやすく、また歌いやすい(最高音の高さは別として)ものになっています。

 

2. 「NOW ON AIR」の位置付け

 この曲は旧体制の赤い公園にとっては間違いなく、また赤い公園のキャリア全体を通して見た場合も所謂”代表曲”だと思います。 ライブでは佐藤さんが歌詞にライブ開催地の地名を入れて歌ったり、間奏部のパーカッションのリズムに合わせて会場がハンドクラップしたり、”いつもありがと”の部分で津野さんと藤本さんが揃って客席にお辞儀をしたりと言ったお決まりのルーティンがあり、旧体制最後のライブ『熱唱祭り』のアンコール一番最後に演奏されたのもこの曲でした(そして、『熱唱祭り』は「NOW ON AIR」発売から3年後の同じ8月27日に開催されています)。 
 一方で、新体制になってからはごく初期を除いてライブで同期を使わなくなった事もありCD版とは大きく違ったアレンジで演奏され、曲数が少ないフェスティバルでは仕方ないにしても、かなり重要な意味を持っていたと思われる配信ライブ”SHOKA TOUR 2020 "THE PARK" ~0日目~”でも演奏されていません(この日は”交信”他で同期を使っているので、旧体制同様のアレンジで演奏する事も物理的には可能だったはず)。

「勇敢なこども」、「消えない」との音楽的共通点

 詳細については後に文章を書く機会があれば触れたいと思っていますが、この二曲と「NOW ON AIR」には音楽的に類似している点があるように思えます。
 「勇敢なこども」はキーが同じG majorであることには深い意味はないかもしれませんが、特にサビの部分でコード進行や、コードに対するメロディの配置がかなり近いように感じられます。 旧体制最後のアルバムとなった『熱唱サマー』の最後に収録されたこの曲が、その時点での代表作となんらかの関係があるとすると、その意味について考えてみる価値があるように思っています。
 もう一方の「消えない」は新体制で最初に発表された曲であり、間に1年ちょっとのブランクはありますが、「勇敢なこども」の次に音源として発表された作品です。 この曲は前の2曲と同じGで書かれ(こちらはG minor、赤い公園でminor keyの曲は比較的珍しい)、中間部でドラムが特徴的な(NOW ON AIRとほぼ同じ)リズムを叩き、その上でボーカルがサビを歌うところなど構成が非常に似ています。 実際、ライブではこの中間部のドラムのリズムに合わせて聴衆がハンドクラップをする事になり、まるで「NOW ON AIR」に変わる代表曲を作りたいという意志があるかのように思えます。 佐藤さんの脱退が発表された時、『熱唱祭り』開催後、そしてボーカルが見つかる前に3人でライブを行った際等の津野さんインタビューから読みとる限り、佐藤さん脱退のショックの大きさは想像に難く無いと思いますが、その佐藤さんが最後に赤い公園として歌った曲、またある意味彼女のトレードマークのようになっていた曲である「NOW ON AIR」。 自身が繰り返し良い曲だと語り、”職業作曲家”として自他共に大成功と認めるこの曲は、作曲に行き詰まった時には、きっと津野さんを励ましてくれた事でしょう。 「消えない」の歌詞に出てくる”いつでも励ましてくれたのに初めてうるさく感じたお気に入りの曲”とは「NOW ON AIRなのではないか、と想像しています。
 
 『猛烈リトミック』は全15曲のうち、津野さんのセルフプロデュースは既に発表されていた「ひつじ屋さん」を入れても3曲しかありません。  その他の曲は、程度の差はあるようですが、アレンジのみならずコード進行までプロデューサーによって津野さんのデモから変更されているものもあるようです。 この傾向は3枚目のフルアルバムである『純情ランドセル』でさらに強くなり、全14曲中セルフプロデュースは1曲だけになり、曲もアレンジもよりストレートなJ-POPになっていきます。 この変化と直接関係はないかも知れませんが、4枚目のフルアルバム『熱唱サマー』リリースの前に佐藤さんの脱退が発表され、前述のように「勇敢なこども」がオリジナルメンバー四人による最後の作品となりました。 石野さん加入後の赤い公園は再度結成当初のように津野さん自身が全曲をプロデュースする体制に戻ります。 その意味では、「NOW ON AIR」は旧体制の”終わりの始まり”と言う位置づけとも言え、その曲と、本当の終わりになった”勇敢なこども”の間に曲として共通点が見られるのはやはり偶然では無いと思います。