夏休みの読書感想文 「やがて君になる」

こんにちは、菜々河です。

この夏、私の住む地域では土砂災害を引き起こす程の大雨が降りました。雨が止み、涼しくなるかと思いきや猛暑が再び顔を覗かせ、家に籠る日々が続いています。もう8月も終わるというのに

疫病までもが猛威を振るい、外出自粛が叫ばれる昨今。理由はどうあれ家でゆっくり過ごすことが糾弾されることは無いだろう、とこの夏はひたすら漫画を読み、アニメを視聴し、希死念慮から目を背けて生きておりました。

今回はその中で最も衝撃を受けた作品 『やがて君になる』を視聴・読了した感想を書いていこうと思います。

作品紹介

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『やがて君になる』は2015年4月~2019年9月の4年半に渡り『月刊コミック電撃大王(KADOKAWA)』にて連載された、仲谷鳰氏の連載デビュー作品です。全45話、単行本は全8巻。

『誰のことも特別に思うことが出来ない』高校一年生の主人公・小糸侑が遠見東高校の生徒会に所属し、高校二年生で次期生徒会長候補、才色兼備の七海燈子と出会い、物語は展開していきます。

Wikipediaに詳しいあらすじは載っているのですが、詳しすぎて最終話までのネタバレを含んでしまっているので、今後この作品を手にとって楽しみたいという方には公式サイトのストーリー紹介ページを見ることをお勧めします。

所感

この『やがて君になる』という作品、非常にロジカルな構成となっています。

「誰のことも好きになれない」侑と「自分を好きにならない侑が好き」という燈子の関係は一見噛み合っているように見えて最初から破綻しています。
偏った言い方をすれば燈子の搾取だし、侑は人を好きになる感情を知りたいのに、燈子のことを好きになった瞬間に燈子は侑のことを好きじゃなくなるという『詰んでる』状態からのスタート。

あちらを立てればこちらが立たないこの状況をどう打開するのかが物語のキーであり、『好き』とは何か、というごくありふれたテーマにそれぞれの登場人物が向き合うことで各々の解を導き出していきます。

燈子は、『好き』という言葉は「相手の好きな部分に対し、変わらないでと縛る言葉」であると認識していたため、自分のことを好きにならない侑の前では繕う必要なく振る舞えることに救われていました。

しかし物語終盤、燈子は佐伯沙弥香とのやりとりを経て『好き』という言葉に対する認識を改めます。

結果として、燈子は…この先はネタバレになってしまうのでやめておきますね。

『燈子の結論』には個人的に思うことが多くあったので、最後にまとめて書きたいと思います。

漫画としての『やがて君になる』

まず、本当に絵が綺麗です。
各キャラが可愛く描かれているのもそうですが、細部まで描き込まれているため情景描写の奥行きが深いです。

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お気に入りのシーンから二箇所抜粋させていただいたのですが、ひとつ情景描写の技法として『燈子の髪のツヤベタ』という点に注目しました。

容姿端麗な燈子は基本的に髪の毛もサラッサラなのでツヤベタを多く用いて描かれています。
しかし、そのシーンの明るさ、テンションによってこのツヤベタの描き込みが変化します。

ツヤベタはオブジェクトでは無いため、注意して見ないと目に入りません。故に一切のわざとらしさも無く読者に対してシーンの(燈子の)感情をサブリミナルに伝えることを可能にしています。

対して、侑はクールなキャラですが表情豊かに描かれており、目だけでなく眉毛や口の形もよく動きます。このクールな振る舞いと豊かな表情のギャップが侑の魅力であり、惹かれた読者も多いのでは無いでしょうか。

その他にも、さりげなく描かれた背景から陽の高さ(=時間帯)を感じ取らせることでよりこの世界への没入感を深めるなど、非常に高度な技術で読み手を引き込む工夫が1ページ1ページに盛り込まれています。

アニメ作品も本当に素敵ですが、アニメだけを視聴したという方も今一度原作を買って読むだけの価値がこの作品にはあると感じました。

まとめ

『やがて君になる』はそれぞれのキャラに魅力があり、役割があり、世界観からストーリーまでとても洗練された作品です。

百合が好きな人だけでなく、キャラが好きという人、ストーリーに深みを求める人、恋愛に関する悩みを抱える人…誰もがこの作品を通して何かを感じ取ることが出来るのでは無いでしょうか。


最後に

ここからは自分語りなので読み飛ばしてもらって構いません。

僕はVtuberです。(最近配信も動画投稿も出来なくてすみません)
活動を停止している理由ですが、冒頭で希死念慮なんて言葉を使ったように以前から患っていた精神病が悪化してしまい、生きるのがやっとの状況でその日その日を乗り越えています。

活動を半年以上続けてきて、多くの人に「Vtuber向いてない」「Vであることで損をしている」なんて言葉をいただいたのは、僕がロールプレイングをこなせていないからでしょう。どうしても素が出ちゃうんですよね…

『やがて君になる』を初めて読んだ時に感じたことは燈子に対する憧れと諦めという身も蓋もない感情でした。
燈子は周りに求められるキャラを完璧に演じ、誰からも好かれていました。
繕い、そうでありたいと振る舞う姿になることは簡単ではありません。
実際、燈子は努力によってその振る舞いを獲得しています。

燈子は侑と出会うことで本来の自分を曝け出しつつも受け入れられることで自分自身への認識も改めていきます。しかし、それは侑という稀有な存在と出会うことで得られた偶然の産物とも言えます。

有難いことに、僕も今の僕を受け入れてくれるリスナーさんに恵まれています。僕は燈子のように完璧には振る舞えませんが、侑のように温かいリスナーの方々に恵まれました。

今のままの自分で満足することはできません。僕は今からでも変わりたいと願い、振る舞いを変えていくと思います。燈子が姉を目指したように、尊敬する真澤千星さんが常に前進を試みているように。

それでも、もし自分が変わって行っても、今の僕を見てくれている方々にずっと見ていて欲しいと願うのは、何あろう僕がリスナーさんの一人一人のことを好きでいるからに他なりません。

今後も共に歩んで行けたら、と思います。復活までもう少しお待ちください

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