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かがり火は消えるか?【企画小説】

 果てのない深い夜の中。遥か上空の暗い彼方からあたりいちめん吹きつける風のゴウウゴウウという響きと、目の前の海、墨汁でできたような黒い海からの波音。
どこからが波音でどこからが風音か、ふたつが地響きとなっておれとカヤを揺さぶる。おれ達は吹きつける風に髪と服をもみくちゃにされながら海を見つめる。

 少し離れた場所に洞窟があり、入り口に大きなかがり火が焚かれ、風が鳴るたびに火の粉を撒き散らしながら燃え盛る。おれ達はすこし離れた砂浜の上に座り、火の番をしている。火の勢いが弱くなれば薪を足す。さっき洞窟の奥に積まれた薪の束から取ってきたひと山は、そろそろ尽きようとしている。

 カヤは座り込み海を見つめたままいっこう動こうとしない。おれは仕方なくまた立ち上がって洞窟の奥へと歩み入り薪をひと束取ってくる。それを火の側まで運んで砂の上に下ろすと、風がゴウッと鳴り炭のかけらと共に火の粉が派手に舞い散る。
 橙色に照らされたカヤの横顔、その目がこちらをチラリと伺う。おれの中の懸念は膨らみ胸を内側からぎゅうぎゅう押す。今にも言葉になって溢れそうになるそれを飲み込む。なぜ。なぜお前は。

「なぜだ」
 溢れてしまったかと思ったが、問いを発したのはカヤの方だった。カヤは言葉を続ける。
「お前はそうわたしに訊きたいのだろ」
 カヤの黒い瞳に橙色の光が煌めく。おれの言葉は問いにつられて腹から引きずり出され留まることができない。
「この火を絶やせば沖から陸の印が見えなくなる。タツノヒコも戻れなくなる。なのに動こうとしないのは……戻れなくてもいい。そう思っているのか」
「…………」
「そとからどう見えようとタツノヒコが本当に欲しがっているのはお前だけだ。他の女に触れるのは慰みのためにだけ。タツノヒコは、番(つがい)はカヤだけとそう言って」
「ウミヒコ」
 カヤはおれの言葉を遮った。
「お前はわたしが他の男のものになってもいいのか?」
「……村長に選ばれたのはタツノヒコだ」
「わたしが誰のものになるかは、わたしが決める。わたしの主はわたしだ」
「…………」
「女は男のものになり、番って子を産む。女は自分でものを考えてはいけない事になっている。なぜだと思う? 自分が鳥籠の中に居ると気づかれては男が困るからだよ」
 カヤの目が燃え上がった。
「それはわたしに死ねと言うのと同じことだ。わたしが生きるのは、わたしのためだ」


 カヤは常に怒っていた。その怒りは燃え盛る焔のように内側から彼女を輝かせていた。他の女が当然のように受け入れる村の掟のひとつひとつに彼女は抗った。
 大人はなぜ「従え、疑問を持つな」と言うのか?身近に彼女が居なければ、おれは、ルールに疑問を持つ、という事にすら思い至らなかった。そして一度疑問を抱くと、次の疑問、そのまた次と、海に沈めた錨を引き上げた時、一緒に絡まって引きづり出される海藻のように、疑問が顕れてきた。

 大人たち、特に政を司る歳のいった男たちは、カヤを危険だと考え始めたようだ。村で一番力が強く漁も上手いタツノヒコに、彼女を娶るよう働きかけた。大人達はカヤの型破りな行いに眉を顰めていたが、若い男たちは彼女の若い雌鹿のようなしなやかな肢体と強く輝く瞳に憧れと欲望の混じった目を向けた。

 タツノヒコからすれば手に入れるのが難しい獲物ほど調教のしがいがある、という処だろう。おれは違った。彼女が見ている世界を見てみたいと思った。できればその隣で。いつも思いもかけないことを言ったりしたりするカヤ。根っこのところから、おれとは何かが違うのだ。それは何だ?彼女の最奥に熱く息づく秘密に手を伸ばし、それに触れることができたらどんなにいいだろう。

「ウミヒコ。わたしと一緒に遠くへ行こう」
 カヤは立ち上がると、おれに歩み寄り手を差し出した。おれは手を伸ばす代わりに嗄れた声を出した。
「……この、風だ。おれ達が火守の仕事を放り出せば、船は戻れず、おれ達も罰を受けることになる。最悪、殺されるかもしれない」
「今すぐここを離れよう。明日の朝、火が消えていることに村の連中が気づくころには、隣の國まで行き着く。わたしは山を何度も歩いて、近道を見つけた。途中に食べ物を隠してある。皆、もう寝静まった頃だろう。タツノヒコと強い男たちも居ない。好機なんだ」

 おれはゴウウと鳴る風の音を聴き、眼を見開いて、おれに差し出された手、風になぶられた髪がカヤの顔にまとわりつくのを眺めた。タツノヒコと四人の男たちの顔が浮かぶ。今もなお、荒れ狂う波の中、必死で舵を取り、彼方に見える小さな灯にたどり着くために命をかけて闘っている彼ら。
「……なあ、この方法しかないのか、本当に? 男達を見捨てて逃げるしか道はないのか?」
「あるかもしれない。でも、ないかもしれない。タツノヒコが戻り、わたしが子を孕めば、村を離れることができるのはずっとずっと先になる。旅は、時間が経つほどに難しくなるだろう」
「おれには……」
「わたしだけが逃げて、お前が残れば、お前もただでは済まないぞ」
「…………」

 その時、強い風が吹き付けて、篝火から盛大に火の粉が湧き上がった。焔が膨らみ弾けて、くべられた薪の燃えさしがバラバラと飛ばされる。急激に勢いを弱める火におれは慌てて立ち上がり、浜に置かれた薪に駆け寄ろうとした。その腕をカヤが掴んだ。カヤの顔が歪み、おれと揉み合いになる。
「わたしはここだと、わたしのままで居られない。男達よりわたしを選んでくれ。タツノヒコがお前を虐げていたことは知ってる。なぜだ? わたしより奴の命が大事なのか?」

 おれは彼女の顔を見つめ、手を取って強く握りしめた。
──── 選ばなくてはならない。










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はいここで唐突に企画チャレンジのお知らせです!!

ここでの選択と結末はどうなるのか?
下記の選択肢から選んでコメント欄に投票して欲しい!のですよー
おおお〜カラス初の企画!いつも乗っかるばかりだったので、たまには誰かを乗せて走らないと、と思い立ったが吉日!?
一番多かったものを私が書きますー。ええ、たとえひとつだけだとしても……

【選択肢】
A. 男達を見捨ててカヤと逃げる。やっぱりダチより惚れた女でしょー
B. カヤにはついていかず村に残る。仲間を見殺しにはできない……
C. 理不尽に選択を迫るカヤに腹を立て彼女を殺す。選べないならいっそ…っ

D.どれでもない。私なら俺ならこうする!でもって自分で書いちゃうもんね!


Dだね……という猛者ども。その心意気やヨシ!!
コメント欄に「D」と書き、ハッシュタグ #かがり火の結末  と付けて、結末を書き、投稿して下さい。書いたら再びコメント欄に書いたよーの告知をお願いしたいです。ついでにURLを入れてくださるとすごくスムーズですw

そして図々しくもお願い①
5000文字以内で書いて貰えると助かるなぁ(*^^*)(すでに複数応募がある前提)

そしてお願い②夢オチは禁止。
実はウミヒコの、カヤの、単なる夢でした……はNGでお願いしたいっす。
ただし夢オチでも、一捻り加えてあればOKです。そこの解釈はお任せします。

ここまでの展開はシリアスですけど、そのカラーを引き継ぐ必要はありません。ギャグとかSFとか、はたまた青春展開とか……どれでもOKです。私の文章に合わせる必要もないっす。登場人物の名前だけ、踏襲してもらえれば問題なーし。


選択肢を選ぶ、投票期限は10/9。来週土曜日まで!
Dの表明と制作の期限は10/16。その次の土曜日まで!
Dの投稿終了後、多かった選択肢の結末を私が書かせていただきます。

……沢山のご応募お待ちしてます!今までカラスと絡んだこと無いしーって方、企画初めてなんですけどーって方、どうか遠慮せず来てくださいませですよ。
踊る阿呆に見る阿呆同じアホなら踊らにゃソンソン〜w
あ、感想のみのコメントも勿論OKです。

追記2021/10/21
企画は終了しております。22日か23日に投稿作品をまとめた紹介記事をアップします。
投稿頂いた皆様、ありがとうございました
😊💞

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