無双

柏レイソルがJ2無双する理由

Jリーグは毎シーズン、各クラブの経営決算データを開示しています。

「Jリーグの決算数値ほどいい加減なものはない」

なんていうお話を聞くことも珍しくないですが、Jリーグが「対外発表用」として公式サイト中で開示しているデータですので、深い関心を持たれている方も多いでしょう。

Jクラブ個別経営情報開示資料(平成30年度)」←ココをクリックしてください。

かく言う私も、単なる印象としてだけではなく、数値データとしてJクラブを客観視出来るこうした情報に興味が沸かないはずもなく、数字そのものに対する信憑性はさておき、Jリーグに対して私が抱いている思いや推測、それらの裏付けに使える数字であればどんどん積極的に取り上げていきたいと考えたりもするわけですが、今回はその中でもJクラブが「人件費」として開示している数値データをもとに、各クラブがJリーグ全体の中でどんな立ち位置であるのか、それを少し深掘りしてみたいと思います。

と、少々まどろっこしい書き方になってしまいましたので、もう少し端的に書いてみますと

「Jクラブの人件費と戦績の相関関係」

ズバリ、これなのです。

そして、どうしてこの「相関関係」を調べてみたいと思ったかと言えば、それは「Jリーグで一番コストパフォーマンスの高いチームはどこなのか?」を知りたくなったからなのです。

日常的に流れてくるJリーグのニュースを見ていても、どこが勝ったとか負けたとか、あそこが優勝しそうだとか降格しそうだとか、そういう「結果論」に限りなく近い情報がベースになっていて、じゃあそうした「結果」を生んでいる原因として何が考えられるのかといったことについては、実際にはそれほど深掘りはされていないように思います。

でもここで「Jで一番コストパフォーマンスの高いチーム」を把握しておけば、全ての原因が理解出来ないまでも、今シーズンのJリーグを見ていく上で、各クラブの戦績を生みだしている背景の一部については、その理解を少しだけ深めることが出来るかも知れません。

つまり単純にリーグ順位だけを見て評価するのではなく、実際その戦績を作り出すのにどれくらいの資金を投入しているのかが分かっていれば、リーグ順位が1位のチームより10位のチームの方が「コストパフォーマンス高え!頑張ってるな!」と取ることも出来るかも知れませんし、それとは逆に「このチームヤバいだろ、こんなにカネ掛けてるのに降格圏かよ」といったケースもあるでしょう。

いずれにせよ「だれかれが好調だ」「だれかれがケガをした」「監督が最高だ」「最低だ」以外の指標を持ちながらリーグを見つめることで、確実に楽しみのポイントを増やせるはずですので、私なりにそのポイントをいくつか、グラフと表を使いながら挙げてみたいと思います。

J1 2018シーズン チーム人件費

先ずはJリーグが開示している各クラブの経営決算データ(2018シーズン)の中から「チーム人件費」という科目だけを抽出したグラフをカテゴリー別に見て頂きましょう。

このグラフで顕著なのは、何と言ってもヴィッセル神戸の数値です。

2位以下を大きく引き離して断トツの1位。と言いますか、神戸だけ別次元でチーム人件費を掛けています。

では次に、この「チーム人件費」を各クラブが2018シーズンに挙げた勝ち点数値で割って「勝ち点1あたりに掛かったチーム人件費」をランキングにした表をご覧ください。

勝ち点1あたりに掛かったチーム人件費ランキング

リーグ順位では最下位に終わったV.ファーレン長崎が「勝ち点1あたりに掛かったチーム人件費」の最も少ないクラブ、つまり「J1で最もコストパフォーマンスの高かったチーム」になってしまうという非常に皮肉なランキングになっております。

そして長崎とともにJ2降格の憂き目にあった柏レイソルが「勝ち点1あたりに掛かったチーム人件費」が2番目に高いクラブ、つまり「J1で2番目にコストパフォーマンスの低かったチーム」となっているのも非常に面白いポイントです。

そして、ここで覚えておいて頂きたのが、長崎814(百万円)柏2806(百万円)というそれぞれのクラブが2018シーズンに掛けたチーム人件費の数値です。

では、同じスタイルでJ2、J3を続けて見て頂きましょう。

J2では大宮が圧倒的

J2にも神戸のように圧倒的なところがありますね。

大宮アルディージャのチーム人件費はJ2屈指。J1の神戸がそうであったように2位以下を大きく引き離して断トツです。

ただ、その数値は1915(百万円)と、J1の中に入れば平凡な数字です。それでもサンフレッチェ広島よりも大きな数値ですので、大宮はACL出場してもおかしくないくらいチーム人件費を掛けているクラブと言うことも出来ますが、いずれにせよ、J2では規格外にカネが掛かっているチームではあります。

また、リーグ2位になりJ1自動昇格を果たした大分トリニータの数値、482(百万円)にも驚かされます。

この数値はJ2でも半分より下、大宮は当然としてジェフ千葉、アルビレックス新潟、徳島ヴォルティス、アビスパ福岡など、大分の2倍近くチーム人件費を掛けているクラブを蹴散らして自動昇格権を勝ち取ったのですから、2018シーズンの大分は「J2で最もコストパフォーマンスの高かったチーム」と言いたいところですが、実際その座に君臨したのはFC町田ゼルビアであり、水戸ホーリーホック、ツエーゲン金沢に続き、大分は第4位。

J2の魔境っぷりがこんなところにも表れていますね。

そして、先で「覚えておいて下さい」と書きました長崎と柏のチーム人件費数値をここで思い出して見て下さい。

長崎は814(百万円)でしたから、J2でも辛うじて上位グループに食い込めるかくらいの規模、対する柏の2806(百万円)は、大宮の1915(百万円)をも凌駕するような規模。

もちろん、これらの数値は全て2018シーズンのデータですので、2019シーズンについても同規模のチーム人件費が発生しているか否かは現時点では分かりませんが、それでも柏については、そのチーム編成を見ても高額年俸の主力選手が残留し、監督もネルシーニョですから、2018シーズンと同規模のチーム人件費を掛けているであろうことは容易に予想がつきますし、だからこそ、2019シーズンのJ2において、シーズンも後半戦に入った時期になる頃から圧倒的な強さを発揮しはじめたのだと考えるのが正しいでしょう。

J3では琉球が凄い

では最後にJ3です。

J3になると、チーム人件費の数値が一気に小さくなります。

最も大きいのが長野パルセイロで293(百万円)で最も小さいのがY.S.C.C.横浜の44(百万円)。

ただ、そんな経営規模の小さなJ3にあって、2018シーズンにJ2昇格を勝ち取ったFC琉球はJ2からJ1に昇格した大分同様に「コストパフォーマンスの高かったチーム」だと言うことが出来ます。

何しろ勝ち点1を得るのに1.5(百万円)しか掛かっていません。同じくJ2に昇格した鹿児島ユナイテッドが勝ち点1を得るのに3.1(百万円)掛けていますので、琉球の選手たちは非常に燃費のいい選手たちだったと言えるでしょう。

神戸が勝ち点1を得るのに掛かったおカネが99.5(百万円)ですから、琉球の1シーズンと神戸の1勝は資金的には同等と言えてしまうかも。

いずれにせよ、2018シーズンの琉球は凄かったのには違いありません。

なかなか一番を挙げるのは難しい

こうして全Jクラブの「チーム人件費」をもとに「Jリーグで一番コストパフォーマンスの高いチームはどこなのか?」を知ろうとしてみたものの、なかなか「一番」を挙げるのは難しそうです。

そして何よりもJクラブの価値は単純にチームの戦績、獲得した勝ち点だけでは測ることが出来ませんし、ヴィッセル神戸のように一見コストパフォーマンスが物凄く低そうに見えながらも、親会社の楽天が潤えばそれでOKな場合もあります。

また、数値上はコストパフォーマンスが高いように見えても、実際は選手を含めたチーム関係者に正当な報酬が支払われていないケースもあるわけですから、一概に「勝ち点1あたりに掛かったチーム人件費ランキング」で上位に入ることが素晴らしいことだとは言い切れません。

ただこれだけは改めて書きましょう。

『現在柏レイソルがJ2で無双状態に入っているのは、J1上位並みのチーム人件費をJ2であっても投資出来る日立製作所という世界有数のグローバル企業が親会社として付いているから』

「選手や監督、ファン・サポーターが本気でJ1に戻りたいと思っている」とかだけではなくて、そもそも他のJ2クラブとは経営規模が異なっているからこその戦績であって、本気なのは日立製作所も一緒だと言うことです。

『フットボールでより多くの人々の生活に彩りを生み出せたら』 と考える、フットボールライター(仮) 2017年、25年続けたフラワーデザイナーの仕事に別れを告げ、日本サッカーの為に生きることを決めてしまったが、果たしてその行く末は!?