『ヴィンランド・サガ』俺の中にあるトルフィンとアシェラッドの話していい?

俺の中にあるアシェラッド一行に乗り込んでからのトルフィンの話していい?

トルフィンはアシェラッド一行に紛れ込んで、原作ではいつの間にか一端の戦士になっていたわけですが、そんなのそこまでに何もないわけがない。どうやって強くなったのか? 何故放り出されなかったのか? アシェラッドの傭兵になるのに抵抗はなかったのか? など。

私が思うにですね。最初は海に捨てられかけたけど、トールズとの約束があるから死なせるわけにはいかない、次どこかの港で下ろしたらいーじゃねェかとかアシェラッドが言って、実際その予定だった。

でもそれまでに、トルフィンが大人しくしているわけがなく、何度もアシェラッドを殺そうとして、あしらわれて、怪我もしたりして、バカにもされて、そうするうちに戦士として正々堂々と勝たなくては意味がないと気づくわけだ。

ではどうすればアシェラッドが決闘に応じてくれるかーーなんて思う前に、そもそもお前の食い扶持は、ハンストしているなら船賃は、俺らの稼ぎにおんぶにだっこなんだが? ってアシェラッドじゃなくても誰かが言うよね。そうすると、船の仕事を手伝うようになる。その延長で、他の連中が嫌がるような下働きの見返りに、きっと最初のアシェラッドへの挑戦権を手に入れる。

しかし勿論勝負にもならず伸される。

その夜だ。トルフィンはかつて父のものだったその船の竜頭の下で悔し涙を流す。そうするうちに、心の中に語りかけてくるのは偉大なる父ーー本当の戦士トールズだ

それは幼い少年が自分を保つために生み出した幻なので、その頃は彼に都合のいいことしか言わなかったかもしれない。お前は強いよ、とか次は勝てるとか。じゃあどうすればといつ問いには、在りし日の父の勇姿が答えになった。

しかしその幻を、もう1人見ていた男がいた。もうわかると思うけど、それがアシェラッドだ。

幻そのものが見えたわけではないけれど、少年トルフィンの心にある最強の戦士の姿が、きっと彼にも見えたんじゃないだろうか。そしてそれをもうしばらく、見ていたいと思ったんじゃないだろうか。だって彼も本当は、ずっと1人きりで戦っていたから。

それからだ。アシェラッドは、トルフィンを戦士にすることを考える。負ければ泣くようなクソガキがものになるとは思ってなかっただろうが、彼の中にだけ未だ残る、偉大な戦士を失くすのは惜しいと思ったはずだ。

それにクソみたいなヴァイキングどもの中で、1人だけでも戦士の誇りなんて青臭いことをほざく奴でもいないと、心は腐っていく一方だ。アシェラッドにとってトルフィンは、自分の来た道、失くしたもの、望む未来ーーそれらを思い出させてくれる存在だったのかもしれない。

そこからは、魚心あれば水心。強くなりたい少年はその純粋さゆえに疑うことなく、戦いの中で成長した。

いや、本当は心のどこかで気づいていた。人を殺すこと。強さとは。本当の戦士とは。自分の戦う意味とは。しかし生きるためにも強くなるためにも、そんなことで悩んでいる暇はなかった。

ただ、憎い仇にこてんぱんにやられた夜は、そんな迷いが暗い海の底から首をもたげるのだ。父の姿を借りて。

戦うごとにトルフィンは精神的にも本当の戦士として形成されていく。普段はそれを鎖で雁字搦めに縛りつけているだけなのだ。後に幻の父が少しずつシビアな現実を説くようになるのは、彼の成長ゆえである。

決闘の中で、トルフィンの本当の戦士としての成長が見られれば、アシェラッドの心もいくらかは躍っただろう。逆に他の凡百のクソどものような戦い方をすれば、大事なものが穢されたように腹が立ったのではないだろうか。

そういう、ここにはいない偉大な戦士を挟んでしか関われない2人なんだよ! トルフィンとアシェラッドはな! ジョーと白木葉子のようにな! 関係性は悟空と悟飯とピッコロさんだけどな!

トルフィンは父のことも、父の仇でありもう1人の父であるアシェラッドのことも、死んでからやっと理解できるという業を背負った子なんだよなあ…。

で、次はトルフィンとクヌートの話ししていい?

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