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こんな書評を書いた。

まず、全ての原著に和訳が付されているのが素晴らしい。
本邦の免疫学の系譜には大いなる先達・北里柴三郎に始まり、利根川進先生、審良静男先生、本庶佑先生を始めとした免疫学の「煌くようなスター」が多数いるが、「原著論文に和訳を付したものがAmazonで購入できる(分冊版あり)」のは、僅かに山中伸弥先生のiPS細胞・ノーベル賞受賞論文にとどまるのではないだろうか。
(利根川進先生に至っては、名前でAmazonを検索すると「人生を逆転する名言集」がサーチに引っ掛かる。利根川違いである)

製本も立派である。ちょうど気管内挿管を行う際に、患者さんの後頭部にこの本を敷くと適切な高さとなって、喉頭鏡を使用すると口腔から声門が視認できるようになるはずだ。

採り上げられた論文について、その年代と、掲載誌ならびにインパクト・ファクターを付記してみると………
差し障りあるので省略
………研究の質の指標はインパクト・ファクターが全てではないが、何かを雄弁に表しているように思えるのは評者のみであろうか。

マウスの免疫を研究してわかることはヒトの疾患のうちのごくごく一部である。マウスでは問題なく投与された薬剤がヒトを対象とした場合、激烈な副反応を起こすこともある(例えば PMID: 16908486 参照)。自己免疫的な機序で発症する1型糖尿病モデルマウス(NODマウス)を治療する薬は100以上あるが、ヒトの1型糖尿病「そのもの」を治癒させる薬はなく、依然としてインスリン療法が主体である。

この著者の論文と、それに付されたコメントを見ると、マウスの免疫を研究して得られた(多くは1990年台後半の:ということは一応坂口志文先生のCD4+CD25+Tregの論文よりは後だが、その知見は踏まえていない)相関関係を「因果関係」と混同し、尚且つその理論で臨床現場の事象を牽強付会に解釈していることがわかる。
そういった「◯◯理論」の生まれる背景がわかる、という意味でも、本書は貴重と思われる。
ちゃんと訳して出版してくれるお弟子さんと関係者がいるんだもん、素晴らしいとしか言えない👍

著者は「自己免疫疾患や腫瘍も身体ストレスに対する合目的的反応である」と言う。養老孟司流の議論をすると、そのような「目的」を見出すのは著者の「脳のクセ」であり、自然はそんなこと涼しい顔で無視し、今日も移り変わっていく。
評者も著者個人の「脳のクセ」に付き合うのはこれぐらいにして、「生老病死という自然の有為転変」に向き合うことにする。

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今日、Negativeな批評をネット上では公開しづらくなっているが、かといって上記の文章をこのままお蔵入りさせるのも惜しく、noteに公開してみた。

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