Seven Steps to Listening to Jazz

はじめに


みなさん、ジャズはお好きでしょうか?
私は大好きです。
というのも、この記事は前記事同様こちらのアドベントカレンダー企画に寄稿するものなのですが、選んだテーマが(discord上で自分の建てた)ジャズ(のスレッド)なんですね。めちゃくちゃ好きということです。

で、でもですよ。私はこんなにジャズのことが好きなのに、世間はまだまだジャズのことを全然好きになってくれない。
いや、ストリーミング配信のおかげで若者のライトなリスナーたちにとってもジャズが身近になってきているわけではあるんですが、私は「さらに」を望んでしまうわけです。だって好きなものはみんな(大きな主語としての「みんな」ではなく、本当の「みんな」)に好きになってもらいたいし。

そのためにできることは……と考えると、「ジャズの聴き方」についてちょっと紹介してみるのが良さそうだ、という発想に至りました。
ジャズ題材でなにか文を書くにあたって、あんまりオタク的な知識の押し付けとか名盤紹介なんかで終わってしまうのは個人的に納得が行かなかった……という理由もあります。

前置き長くなりました。
本記事は「Seven Steps to Listening to Jazz」と題して、ジャズを聴くにあたり、意識してみると楽しさが増す7つのTipsを紹介してみるものです。
「フン、知ってらァ」と一蹴するもよし、「そんなもん従ってやんないよーだ」と一蹴するもよし、あくまで一意見として気軽に捉えていただければと思います。



1st Step : スウィングを感じる


スウィングというのはいわゆる「ハネる」リズムのことで、最も「ジャズらしさ」を担保している要素の一つです。

こちらの動画を見れば一発でその特徴がお分かりになるでしょう。

この「ハネ」がキモたる所以はジャズの根源にあり、それは「ジャズ=ダンスミュージックである」という今や意外にも聞こえるジャズのいち側面です。

ジャズを聴いていておもわず体を揺らしたくなる瞬間は、この事実をご存知でなかった皆さんにも一度は体感したことがあったでしょう。
この「踊れる」リズムを、そうと意識することが、「ジャズでノる」という聴取スタイルを可能に、あるいは一段階上に押し上げます。

また、それぞれのプレイヤーたちがどのようにスウィングを解釈し、それぞれの身体で表現しているかも、ジャズの聴きどころのひとつです。
スウィングを保ったまま演奏をこなすことは容易ではなく、そこにこそプロフェッショナルの技が表れます。

スウィングしなきゃ意味ないね」なんて曲もあるくらいにジャズと密接に関わっているスウィングリズム、長大なジャズ史中の膨大なバックナンバーの中には、もちろんイーブンの曲/演奏もありますがそこはそれ、やはりスウィングがジャズを表す最も重要なキーのひとつであることに疑いようはないのです。


2nd Step : フォームを把握する


ジャズの難解さを最も感じる要因のひとつに「ソロ」の存在があります。最もおいしい部分でもあるわけですが。
高速で不可解なフレーズが続いて、何やら全貌がよくわからなくなってしまったまま曲が終わってしまった……なんてことは、はじめてジャズを聴く際に起こりがちなハプニングです。

ジャズのフォームは「テーマ(曲ごとに決められたメロディ)→アドリブソロ→テーマ」!
これだけ覚えればもう迷うことはありません。
ソロの尺がプレイヤーのやる気次第でめちゃくちゃ伸びたり縮んだりすることはあれど、「モダンジャズ」と呼ばれるジャズ全盛期の50~60年代の曲群を聴くにあたって、この形式はほとんど破られません。

これを意識すれば、「ここからソロだな……」と身構えることもできるし、「お!テーマに戻った!」と身構えを解くこともできます。
つまりは緊張と緩和ですね。

もちろん、自由な音楽であるところのジャズがいつまでもこの「形式」に縛られるわけはなく、なんならモダンジャズ期から早々にフォームからの逸脱を図ろうとする試みは盛んでした。
(後期のジャンルになりますが、)フリージャズとか、ジャンル名からしてプンプン匂っています。

それらを聴くにしても、「まずフォームがあった」ことを事前に知っていれば、「これは『脱構築』をやっているんだな」という姿勢をとって臨むことができます。


3rd Step : スタンダードを学ぶ


ジャズの特徴のひとつとして、カバー演奏が他ジャンルと比べて格段に多いことが挙げられます。
中でも、古くから親しまれ、カバーされ続けてきた「歴戦」の曲群を「スタンダード」と総称し、ジャズミュージシャンたちは、300曲を超えるこれらの膨大なスコアを暗譜し、弾きこなせるようになることからそのキャリアを始めます。

当然のように彼らはオリジナルアルバムにもカバーを録音するため、スタンダードの曲名やメロディを覚えることはジャズを聴くにあたってとても有意義です。
アレンジのセンスやソロの内容はプレイヤーによって千差万別であり、その差を十分に楽しむのに、元のメロディを覚えておくことは大変役立ちます。

前述した「テーマの安心感」も、メロディを覚えているとより強く感じることができます。
見知ったメロディから→見知らぬ新しいソロ→そしてまたいつものメロディに戻る……というフローが完成するわけですね。

幸いにも「スタンダード」の多くは1930年代以降の流行歌です。映画の主題歌だったりします。
つまりはメロディは当時のポップスそのままというわけなので、口ずさめる程度に馴染みやすいメロディばかりなのです。

白雪姫の「いつか王子様が」なんかは最も有名なスタンダードのひとつですね。

もちろん、ビバップという、とにかく難解な、到底口ずさむことなど不可能そうなメロディをテーマにした曲が多く存在するジャンルもあるのですが……逆に一発で曲を認識できてしまえるほどのインパクトがあるとも言えます。


4th Step : ジャンルを整理する


100年の歴史を持つジャズは、弟ジャンルであるロックにこそ劣りますが、広範なサブジャンルを持つデカすぎる世界です。
ほとんど境界が無いように見えるほど似たジャンルもあれば、全く違うジャンルもあり、どれか一つが合わないだけで全体を諦めてしまうにしては惜しい、そんなジャンルがジャズです。書きながら「そんなの音楽全体に言えることじゃん」と思ったけれども。

↓ここにちょうどいいジャンル配置図があればいいのになあ……

↑無さそうでした(笑)
チッ……

ということで、素人がざっくりと適当な分類を行った上で、代表曲っぽいもののリンクをぶら下げておきます。
と、したいところだったのですが、「ざっくり」でもバカみたいに文量が膨れ上がってしまったので、別記事を建てることにしました。二転三転しております。
詳しくは以下まで。

https://note.com/preview/n3af25971021b?prev_access_key=9fe7857681052ceb3caef56ae6378c6d


5th Step : パーソネルを知る


ジャズは楽器のプロフェッショナルたちによる音楽です。
パーソネル(プレイヤーそれぞれ)に注目することで、ジャズの楽しみは、正しく数倍は高まることでしょう。

そして、何よりおすすめしたいのが、気に入った作品のサイドマンたちの作品を掘ること。
Miles Davisとその周辺人物なんかは好例ですね。
彼は名実ともに「ジャズの巨人」であり、彼が後のジャズに与えた影響は計り知れないものがあります。
そして、まさにその彼とともに活動していたプレイヤーたちは、最も強く影響を受けた人物であると言えますね。
実際に名前を挙げれば、John ColtraneにWayne Shorter, Chick Corea, Bill Evans, Herbie Hancock, John McLaughlin,etc……。メロディ楽器の奏者に限定しても、どこかで名前を聞いたことがあるはずの錚々たる巨人たちが出てきます。(正確には、ジャズにおいてはピアノやギターはリズム楽器の立ち位置とされることが多いのですが。)

そして彼ら自身のアルバムにも、個性的かつ優れたサイドマンたちが携わっていて…….と繋げていくと、ねずみ講式に人と人、作品と作品が増えていきますね。
この連鎖こそがジャズの醍醐味のひとつでもあるのです。


6th Step : ライブを観る


ジャズは、ロックと同等かそれ以上に身体的な音楽です。
音で聴くだけと、演奏している様子を視覚しながら聴くのとでは体験として天と地ほどの差があるジャンルです。

管楽器ならば頬を膨らませて全力で吹く様を、打楽器ならば身体全体でグルーヴを生み出す様を、一度だけでも構わないので、観ながら聴いてみることをおすすめします。
一度観れば、その後永遠に、その様子を脳内で再現しながらリスニングすることができますからね。
ソロを回す際のプレイヤー間のアイコンタクトなどにも注意してみることも面白いかもしれません。

おすすめはEmmet Cohenというアメリカのピアニストが、Youtubeにあげているライブ映像です。

ホームセッションのリラックスした雰囲気が素敵ですし、プレイヤーたちのスキルももちろん素晴らしく、カメラワークもしっかりしている。ゲートウェイとしては理想的な演奏動画がたくさんあります。
演奏しているナンバーが全てスタンダードであることも嬉しいですね。

7th Step : スタンスを変える


そう書くと、少し偉そうかもしれません。
ですが、やっぱり「ジャズ=お硬い音楽」「ジャズ=”オトナの”音楽」といったステレオタイプは根強く残っているように思えますし、そのような偏見が、人々をジャズから遠ざけていると思うのです。

今年2月にBRUTUSから発行された「JAZZ is POP!」という特集。
このタイトルこそが私の主張です。
どうか、ポップスに対するのと同じ姿勢で、それくらいの気楽さをもってジャズに触れてみてください。


おわりに


ずいぶん長くなってしまいました。
本来は私が建てた他の2つの音楽系スレッドについての記事も書こうと思っていたのですが、この記事を書いていたらあっという間に期限になってしまいました。

この記事があなたとジャズを繋ぐものになったとすれば、これ以上嬉しいことはありません。
それではまた。

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