第20回 福島県「県民健康調査」検討委員会 甲状腺エコー先行調査結果についての考察

2015年12月2日

 H27年11月30日に第21回県民健康調査検討委員会が開催されましたが、先行調査に関しては口頭での追加発表しかありませんでした。その内容はガン・ガン疑い患者は1名増加し114名となり、手術例は2名増えどちらも乳頭がんが確定したそうです。本来ならば、ペーパーで発表すべきところですが、個人情報の問題があり今回は見送ったそうです、、、
今回はこれ以上の情報は出ていませんので、第20回の時点でどのようなことが言えるのか、少し検討してみました。次回第22回県民健康調査検討委員会では、先行調査についてもしっかりとした発表がなされると大津留氏が予告されていますので、その結果を待ってさらに内容を更新したいと思います。
第20回 福島県「県民健康調査」検討委員会 甲状腺エコー先行調査結果についての考察
 平成27年8月31日に第20回県民健康調査検討委員会において、先行検査として行われた一巡目の甲状腺エコー検診の結果が集計され公開されました。しかし、この時点のデータは平成27年6月30日現在確定したものであり、先行検査の2次検査は現在進行中で2次検査結果未確定者・2次検査未受診者を合計すると238名存在します。また、全てのデータが公開されている訳ではなく、個人情報保護という名目で部分的な情報しか公開されていません。公開された限定的なデータで放射能の影響や地域別の罹患率等を検討してもあまり正確な検討は出来ず、市民側と県立医大側の主張は情報格差により平行線となっています。不十分な情報で放射能の影響を議論することは困難と思われるため、現段階で明らかにされている情報から検討することが重要と思われます。
 また、鈴木眞一氏は県民健康調査検討委員会の中で、「現在見つかっている小児甲状腺がんは放射能の影響ではなく、スクリーニング効果である。」「過剰診療ではなく、手術の必要な患者を手術している。」と主張されました。もしそれが正しいと仮定すれば、以下の事実が浮かび上がってくると思われます。

画像1

2次検査対象者   2294名
2次受診者     2108名
2次確定者     2056名
2次検査未受診者  2294-2108=186名
2次検査未確定者  2108-2056=52名
第20回県民健康調査検討委員会
「甲状腺検査(先行検査)」結果概要【確定版】 資料2−1より
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129302.pdf 
 平成27年6月30日現在2次検査結果が確定している2056名中、113名のガン・ガン疑いの患者が発見されています。(113/2056×100≒5.5%)2次検査未受診者と2次検査未確定者の合計(238名)から同じ比率で発見されるとすれば、238×0.055≒13.1名のガン・ガン疑いの患者が発見されるはずです。となると2次検査が全て完了したと仮定すれば平成27年6月30日までに1次検査受診した300476名中、全員が2次検査を受診し結果が確定した場合、113+13.1=126.1名(約126名)のがんまたはがん疑い患者が発見される可能性があると考えられます。
 ここまでの計算で、1次検査を受けた300476名全ての2次検査の結果が出たとすれば、126.1名(約126名)のがんまたはがん疑いの患者が発見されるとなると、全体としての罹患率は0.042%(10万人に対し42人)になります。とすれば、全対象者367685名に対し同じ比率でガン・ガン疑いの患者がいるとすれば、154.2名(約154名)のガン・ガン疑いの患者が発見されることになると思われます。

画像2

 しかし、16〜18歳の年齢層の全体の受診率は52.7%と悪いために、年齢的な部分を加味する必要があります。113名に対する当時16〜18歳の年齢層の割合は、57/113です。となると、126名に対し57/113を掛けて63.6名が1次検査全対象者が終了した場合の16〜18歳の年齢層におけるガン・ガン疑い患者数になります。

画像3

16〜18歳の年齢層の受診者は34554名であるため、この年齢層の罹患率は63.6/34554×100=0.1841%(10万人に対し184人)になります。全対象者は65574名であるため、65574×0.001841≒121名がこの年齢層全員が受診したときに見込まれる患者数となります。同じように0〜15歳までを計算すると、1次検査全対象者に対する見込み患者は126×56/113=62.44名。受診者に対する罹患率は、62.44/265922×100=0.0235%(10万人に対し23.5人)になります。そして、全対象者302111名に対しては、302111×0.000235≒71名が見込み患者数になります。

画像4

 全年齢層を合計すると、121+71=192名が全体に対するガン・ガン疑い患者の見込み数になります。10万人に対する罹患患者数について、事故以前の発症率と比較することの是非もよく言われることですが、ここではその議論はせず事実関係のみで検討したいと思います。
 ここで大事なことは、がん発見には年齢的な偏りがありそれを計算に入れると192ー154=38名見込み患者数が増加するということ。また、16〜18歳の47.3%(31020名)が1次検査未受診であり、その中に約57名の患者が見込めるということです。
 鈴木眞一氏は平成27年3月31日までのガン・ガン疑い患者104名について、「手術の適応症例について」という資料を提出しています。全手術例は97名ですが、1名の良性結節を除く96名について報告しています。96名中63名は腫瘍径10mm以上で、10mm以下33名中、リンパ節転移、軽度甲状腺外浸潤、遠隔転移が疑われるものが8例。残りの25名中22名は気管や反回神経に近接もしくは軽度の甲状腺被膜外への進展が疑われるとのことです。つまり、手術例の約97%が手術妥当ということです。残りの3名は経過観察も可能であったが、本人の希望で手術を行ったとのことです。そして、未だ手術を行っていない7名は、おしどりマコさんの取材によると全員将来手術予定であるとのことです。その理由は子どもの甲状腺癌の治療としては、経過観察という手段を試しても良いという経験則がないからだと思います。
(第9回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-09/ext01.pdf 隈病院宮内医師の資料参照)
 結論としては、現在鈴木眞一氏が主張されるように「現在見つかっている小児甲状腺がんは放射能の影響ではなく、スクリーニング効果である。」「過剰診療ではなく、手術の必要な患者を手術している。」ということが正しいと仮定すれば、事故当時16〜18歳の子どもたちで未受診の約3万人の検査を速やかに行わなければ、何らかの障害が残る可能性のある若者が少なくとも名55名程度(96名中93名が手術妥当なので、見込み患者57名の約97%)存在するかもしれない。リンパ節転移、遠隔転移や甲状腺外浸潤症例も同程度でてくる可能性もあり、4〜5名は生命に関わる危険性がある可能性もあります。そのため、早急に事故当時16〜18歳の未受診者に対し、1次検査を受ける様広く広報することが重要と思われます。
 また、「放射線の影響では無い」ということが正しいとすれば、日本全国でかなり多数の手術必要な若年者甲状腺ガンが存在するということにもなります。
 多くの批判を受けて2013年4月17日に県民健康管理調査の目的は「早期発見・早期治療」に変更されたはずなのですが、残念ながら県民健康調査検討委員会では早期発見のために有効な対策を話し合っているとは思えません。それどころか県民健康調査検討委員会ではエコー検査が過剰医療につながる可能性があるため、今後検診自体を続ける事が本当に良いことなのかという本末転倒の不可解な議論をしているように思えます。原発事故という大きな問題への対策として行われている検診であるため、一般的な住民検診やガン検診の弊害と同一視して検討する事は正しく無いと思います。他方、一部の市民側は限定的な情報しかなく不確定な中で、感情的に放射能汚染の影響ありと強く抗議しています。本来の「早期発見・早期治療」の目的を考えるならば発信しなければならない情報は、被曝時16〜18歳の年齢層に早期受診を勧めることだと思います。市民側の方々にも県民健康調査検討委員会の方々にもそれぞれの主張があると思いますが、不毛な平行線の議論を行うのではなく、「早期発見・早期治療」という福島県内の子どもたちの利益になる正しい議論をお願いしたいと思います。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?