2014.3.25の毎日新聞、重要

2014年3月26日 · 推定所要時間: 1分

これは重要なのでノートで残しておきます。

(2014.03.25_毎日新聞3面)
内閣府、被ばく線量公表せず 「帰還ありき」露呈

内閣府原子力被災者生活支援チームが新型の個人線量計を使った被ばく線量調査の結果の公表を見送っていた問題は、住民の帰還を促したい政府の強い思いがこの調査に込められていたことを示す。調査結果の隠蔽(いんぺい)は、線量が低くなるように調査の条件を変える「データ操作」にまで至り、専門家は「『帰還ありき』では」と疑問を呈している。【日野行介】

◇不信感強める住民ら

支援チームの要請を受け、日本原子力研究開発機構(原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が新型の個人線量計を使い、避難指示解除を予定する福島県田村市都路地区▽川内村▽飯舘村で線量調査を行ったのは昨年9月。支援チームは当初、昨年9〜11月にあった原子力規制委員会の検討チームで調査結果を公表する方針だった。

しかし、10月3日の会合で提出されたのはこの調査結果ではなく、2012年度に福島県内6自治体が住民に配布した従来の個人線量計(ガラスバッジ)による測定値だった。6自治体の平均値は年0・2〜0・7ミリシーベルトで、航空機モニタリングの推計値の年0・7〜2・9ミリシーベルトと比べ著しく低い。

検討チーム委員の森口祐一・東京大教授(環境システム学)は会合で「『(実際の被ばく線量は)4分の1』と思われかねない。何か意図があるかのように誤解を受けかねない」と批判。支援チームの田村厚雄・担当参事官が「個人線量は同じ地域でもデータの分布があると示す趣旨だった」と釈明する一幕もあった。

関係者によると、ガラスバッジによる調査結果から、1時間ごとの線量を把握できる新型の個人線量計でも大幅にデータが低く出ると見込み、今回の結果を公表してアピールするはずだったが、一部で期待した数値とはならなかった。未公表資料を見て、森口教授は「(新型の)推計値は想定される通りの数字。特に問題があるようには思えず、伏せた理由が分からない。会議でも個人線量計で被ばくを低く見せたいという意図を感じたが、懸念した通りだった」と指摘した。

川内村の井出寿一・復興対策課長は「調査結果の報告を受けた記憶はない。調査で自宅を使わせてもらった村民もいるし、ちゃんと知らせてほしい。仮に線量が高かったから出さないというなら心外だ」と話した。

支援チームは大半が経済産業省職員。避難者の帰還促進に向け、新型の個人線量計を切り札と考えていたことは、調査の経緯からも浮かぶ。

関係者によると、支援チームが原子力機構と放医研に調査を依頼したのは昨年6月。避難指示解除準備区域がある6自治体での調査を求めたが、測定を急ぐため3自治体に限定。機構と放医研は9月上旬〜中旬、各自治体でそれぞれ数日間測定し、10月中旬にデータを支援チームに提出した。

調査を担当した放医研の取越正己・研究基盤センター長は「規制委の検討チームに間に合うようせかされた」と明かす。一方、支援チームの田村参事官は「検討チームでの公表は選択肢の一つで、そこに間に合わせてほしいとは言っていない」と指示を否定した一方、避難者の帰還に向けた対策を議論する検討チームに調査結果を提出するため、急いで公表用資料を作成したことを認めた。

個人線量計への期待が大きかった背景には、避難者が帰還に応じられる年間被ばく線量として、一般人の被ばく限度の1ミリシーベルト以下を挙げる声が各種調査で多数を占め、20ミリシーベルトを下回った地域での帰還を促す政府方針が信用を得られていない現状がある。政府は今月10日、都路地区の避難指示を4月1日に解除することを正式に決めた。だが、避難者の女性(72)は「帰っても山菜を採ることもできないし、喜んでいる人は少ない。でも『帰りたくない』とは口にしにくい」と語る。

調査結果の公表を見送ったことについて、女性は「あちこちで線量調査をしている。でも結果を見ることは少ない。都合良いものだけ見せるのでしょう。少なくとも私たちを守るためとは思えない」と、あきらめた様子で話した。

◇推計、強引に条件変更

調査結果の隠蔽(いんぺい)に加え、被ばくの推計値を出す際に一般的に使われてきた屋外8時間・屋内16時間という生活パターンを変え、推計をやり直した経緯にも専門家から疑問の声が上がる。

支援チームの田村参事官は、新型の個人線量計による調査について、「年間被ばく線量の推計に使った生活パターン(屋外8時間・屋内16時間)が実態に合っているかどうか精査が必要だったので公表しなかった。推計値が高かったからではない」と説明する。だが、支援チームはその後、住民の生活実態について独自の調査をしていない。持ち出したのは、NHKが5年に1回実施している「国民生活時間調査」。日本人の労働時間や睡眠時間などを調べており、2010年調査の場合だと、10歳以上の男女7200人に2日間の行動を調査票に記入してもらい、4905人から回答を得た。

これによると、農業や林業の従事者が屋外にいる時間は約6時間。この生活パターンで計算し直された川内村の農業従事者の年間被ばく推計値は、昨年11月の資料と比べ最大7割減となり、一部が1ミリシーベルト台となった。田村市都路地区も最大5割減で、飯舘村を除く2自治体は数値が下がった。保護者らの関心が高い通学生については、やり直された推計から項目が消えた。

経緯を振り返ると、被ばく推計値を低く抑えるという目的に適合する生活パターンの調査モデルを探し出し、データを当てはめただけとしか見えない。

木村真三・独協医科大准教授(放射線衛生学)は「自らの被ばく線量を把握し、行動の判断材料とするため個人線量計を持つこと自体は有用だ。しかし一般的に使われている屋外8時間・屋内16時間の条件で推計した被ばく線量が高かったからといって公表せず、条件を変えるというのでは、住民をとにかく帰還させるのが目的という印象だ。そもそも数日間の測定では十分なデータとは思えず、帰還促進を急いでいたのではないか」と話す。

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◇2013年夏以降の避難者帰還を巡る主な出来事

<2013年>

8月 1日 田村市都路地区で政府が認めた住民の長期宿泊が始まる。10月末まで

8月 8日 政府が川俣町の避難区域見直しを決め、避難区域の再編が終了

9月上旬  支援チームが川内村などで個人線量計に 〜中旬 よる調査を実施 

 9月17日 規制委の「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」の初会合

10月14日 政府が都路地区の避難指示を11月1日で解除する案を公表。住民の反対で撤回

11月11日 検討チームが個人線量計による線量管理を前提に20ミリシーベルト以下の地域への帰還を認める提言書をまとめる

自民、公明が早期帰還の促進を掲げる「福島復興加速化案」を安倍晋三首相に提出

12月20日 政府が住民帰還の支援を促進する復興加速指針を決定

<2014年>

2月23日 政府が都路地区の避難指示を4月1日に解除すると住民説明会で発表

3月10日 都路地区の避難指示解除を正式決定

http://sp.mainichi.jp/shimen/news/20140325ddm003040044000c.html


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