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ケンドリック、同調圧力に流される人間の姿を描く。(Kendrick Lamar - "Swimming Pools(Drank)")

writer:@raq_reezy

今、アメリカのヒップホップシーンを代表するラッパーは誰かと考えたとき、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)を外すことは出来ないでしょう。

メジャーデビュー作『Good Kid M.a.a.D City』で話題を掻っさらい、2ndアルバム『To Pimp a Butterfly』、3rdアルバム『Damn』では、ビルボードで最高1位を獲得しています。『Damn』に至っては、2017年にテイラー・スウィフトのアルバムの次に最も売れたアルバムだと言われています。

ケンドリックは、圧倒的なラップスキルを持つラッパーであり、またGameが「西海岸のNas」と評したように、優れた物語を語るストーリー・テラーでもあり、多くのラッパーやリスナーから尊敬を得ています。

とはいえ、これまで、本マガジンではケンドリックを取り上げて来なかったので、ケンドリックを取り上げるにあたり、まずは彼をメインストリームに押し出した『Good Kid M.a.a.D City』からのシングル曲"Swimming Pools"を見てみたいと思います。

この"Swimming Pools"という曲は、ケンドリックが子どもの頃に大人たちがお酒に溺れていた様子を見てきたことにインスピレーションを受けて製作された曲であり、曲中では今度は自分自身が大人になったケンドリックが、もっと派手にお酒を飲むようにと煽られて、頭の中で葛藤している様子が描かれています。

「お酒を飲むかどうか、葛藤するだけの曲??」と思われるかもしれませんが、実はこの曲は、先述の『Good Kid M.a.a.D City』の中で、重要な立ち位置を占めている曲でもあるのです。

なぜなら、『Good Kid M.a.a.D City』は、コンプトンという多くの若者がギャングに入ってしまう街で、その同調圧力を受けながらも、音楽の道を進んで成功するK.Dotという少年についての物語を描いた、半自叙伝的なアルバムになっているからです。

つまり、お酒をもっと飲めと言われて葛藤するケンドリックという構図は、コンプトンという街で育つ中で、お前も仲間に入れよ、悪くなろうぜ、という誘惑や同調圧力を受けて葛藤するケンドリックとの比喩にもなっていると考えられます。

そうしたことを踏まえた上で、曲の内容を見ていきたいと思います。

ブリッジ

Pour up (drank), head shot (drank)
Sit down (drank), stand up (drank)
Pass out (drank), wake up (drank)
Faded (drank), faded (drank)

【意訳】
注いで(酔っ払う)、ショットを煽る(酔っ払う)
座って(酔っ払う)、立ち上がって(酔っ払う)
意識が飛ぶ(酔っ払う)、目を覚ます(酔っ払う)
意識が薄れる(酔っ払う)、意識が薄れる(酔っ払う)

過激に飲むパーティーがどのような様子かを端的に描いています。

とにかく記憶が飛ぶまでアルコールを煽っているのが伝わってきます。

1バース目

Now I done grew up 'round some people livin' their life in bottles
Granddaddy had the golden flask
Backstroke every day in Chicago

【意訳】
さて、俺は、アルコール瓶の中で生きている人たちの周りで育った。
俺のおじいちゃんは金色のフラスコ瓶を持っていた。シカゴで、毎日が背泳ぎさ。

このシーンは、子どもの頃を思い返して描かれています。

ケンドリックの祖父は酒飲みで、常にフラスコ瓶を持ち歩いており、お酒のプールで毎日背泳ぎをするという比喩から分かるように、お酒に浸っていたのでしょう。

Some people like the way it feels
Some people wanna kill their sorrows
Some people wanna fit in with the popular, that was my problem

【意訳】
酔っ払って気分が良くなるのが好きな人もいた。
悲しみを取り除きたくて飲んでいる人もいた。
みんなと馴染むためにお酒を飲む人もいた、それが俺の問題だったんだ。

ここでは、人がお酒を飲む理由について述べられています。

気分が良くなりたい人や、悲しみを忘れるために飲む人もいますが、中には、お酒を飲んで盛り上がっている仲間たちの中に馴染んで居場所を見つけるために飲んでいる人もいます。

そして、ケンドリック自身は、最後の「仲間と馴染もうとして飲む人がいる」というところに位置していたのでしょう。

I was in a dark room, loud tunes
Lookin' to make a vow soon
That I'ma get fucked up, fillin' up my cup I see the crowd mood
Changin' by the minute and the record on repeat
Took a sip, then another sip, then somebody said to me

【意訳】
俺は暗い部屋にいた。爆音で流れるチューン。
もうすぐ「自分を台なしにする」という誓いを立てようと、部屋を見渡す。
カップをお酒で満たす。
俺はみんなのムードが毎分変わっていくのを見ている。
同じ曲が何度も再生される。
一口飲んで、さらにもう一口飲んだ。
そうしたら、誰かが俺にこう言ったんだ。

シラフでは馴染めないパーティー中の環境で、今日もまた酔っ払おうと決断する瞬間のケンドリックが描かれています。

「今日は酔っ払うまい」と最初は思っていたのかもしれませんが、どんどんムードが変わっていく部屋のみんなを見渡しているうちに「もういいや、酔っ払って楽しんでしまおう」と雰囲気に飲まれて、お酒を飲み始めます。

サビ

Nigga, why you babysittin' only two or three shots?
I'ma show you how to turn it up a notch
First you get a swimming pool full of liquor, then you dive in it
Pool full of liquor, then you dive in it

【意訳】
おい、何を二杯や三杯程度のショットをちびちびと飲んでるんだよ。
俺がどうすれば酔っ払いきれるかってのを教えてやるよ。
まずは、アルコールでいっぱいのプールを用意して、そこに飛び込むんだ。
アルコールでいっぱいのプールに飛び込むのさ。

酔っ払ってしまって良いかどうか悩みながら飲んでいるケンドリックのところに、一人の参加者がもっと飲むように煽りにきます。ここでアルバムのテーマとなっている同調圧力が表現されています。「そんな飲み方じゃ足りねえぞ、もっと派手に飲め」と。

I wave a few bottles, then I watch 'em all flock
All the girls wanna play Baywatch
I got a swimming pool full of liquor and they dive in it
Pool full of liquor, I'ma dive in it

【意訳】
俺はいくつかのボトルを振ってみせる。あいつらが群れてくるのを眺める。
女の子はみんなBaywatchを演じたがっている。
俺はアルコールでいっぱいのプールを用意して、あいつらはそこに飛び込む。
アルコールでいっぱいのプールに飛び込むのさ。

続いて、アルコールをケンドリックが見せると、みんなが集まってきます。

Baywatchは、セクシーなライフガードが登場するアメリカの番組のようです。女の子たちは、ライフガードが人工蘇生をするように、口移しでアルコールを飲みたがっています。

誰もが、我を忘れて、酔っ払っています。

2バース目

Okay, now open your mind up and listen me, Kendrick
I am your conscience, if you do not hear me
Then you will be history, Kendrick
I know that you're nauseous right now
And I'm hopin' to lead you to victory, Kendrick

【意訳】
いいか、目を覚まして、俺の声に耳を傾けろ、ケンドリック。
俺はお前の良心だ、俺の声が聞こえなければ、死んでしまうぞ、ケンドリック。
お前は今、吐き気を催しているって知ってるぜ。
俺は、お前を勝利に導くことを望んでいるんだ、ケンドリック。

2バース目では、ケンドリックの良心が語りかけてきます。

とんでもない飲み方をしているせいで、死に近づいているケンドリックに対して、ストップをかけようとしているのです。

If I take another one down
I'ma drown in some poison, abusin' my limit
I think that I'm feelin' the vibe, I see the love in her eyes
I see the feelin', the freedom is granted
As soon as the damage of vodka arrived

【意訳】
もし、もう一杯飲んだなら、限界を超えた乱用で、毒に溺れるだろう。
だけど、俺はバイブスを感じている。
彼女の目の中に俺への愛を感じる、彼女の気持ちが見て取れる。
ヴォッカが意識を奪えば、自由が叶う。

ケンドリックが、かなり危ないところまで来ていることが見て取れます。

しかし、危ないところまで入り込めば入り込むほど、ケンドリックは妙な自身を覚えてしまっています。

お酒に溺れることで強くなった気分を覚えるケンドリックの描写は、ギャングの世界に足を踏み入れることで強くなった気になるコンプトンの若者の様子ともシンクロしています。

This how you capitalize, this is parental advice
Then apparently, I'm over-influenced by what you are doin'
I thought I was doin' the most 'til someone said to me

【意訳】
こうやって酔いを利用するのさ、ここからは未成年には不適切だぜ。
そして明らかに、俺はアルコールの仕業に影響されすぎている。
俺は、もう誰よりも飲んでいると思っていたが、誰かがやってきて、こう言うんだ。

酔いを利用して、先ほどの女の子と楽しもうとしていますが、同時にアルコールによって限界を迎えています。

サビ(繰り返し)

サビは繰り返しのため、省略します。

ブレーク

I ride, you ride, bang
One chopper, one hundred shots, bang
Hop out, do you bang?
Two chopper, two hundred shots, bang

【意訳】
お前が乗るなら、俺も乗るぜ、バンッ!
銃が一丁、それから100杯のショット、バンッ!
もうここを飛び出すか、バンッ!
銃が二丁、それから200杯のショット、バンッ!

ここでの銃は、テキーラボトル等の比喩でしょう。そこから次々とテキーラのショットが繰り出されます。

間奏

Aw man… where is she takin' me?
Where is she takin' me?

【意訳】
ああ、なんだよ、彼女は俺をどこに連れていくんだ?
俺をどこに連れていくんだよ?

3バース目

All I have in life is my new appetite for failure
And I got hunger pain that grow insane
Tell me, do that sound familiar?
If it do, then you're like me

【意訳】
俺の人生にあるのは、新しい失敗への欲求だけだ。
空腹痛が、とんでもなく痛みを増すばかり。
教えてくれ、お前も親近感を覚えるか?
もし覚えるなら、お前は俺みたいな環境にいるんだな。

「新しい失敗」、誘惑や同調圧力から抜け出せない毎日に対して、辛さを覚えるケンドリック。同じような感情を持っている人たちへと呼びかけています。

Makin' excuse that your relief
Is in the bottom of the bottle and the greenest indo leaf
As the window open I release
Everything that corrode inside of me

【意訳】
安堵感は、ボトルの底と、最も緑色のマリファナにあると言い訳をして。
窓が開けて、俺は吐き出すぜ。自分の中で腐食したものを全て解き放つ。

マリファナとアルコールに頼らないと、安堵感を覚えられないと言い訳をして毎日を過ごすケンドリック。

ここでは吐き気を催して、窓の外に吐こうとしています。

I see you jokin', why you laugh?
Don't you feel bad? I probably sleep
And never ever wake up
Never ever wake up, never ever wake up
In God I trust, but just when I thought I had enough

【意訳】
お前がジョークを言っているのが見える。なんで笑ってるんだ?
俺が苦しんでいるのに、気分が悪いと思わないのか?
俺は眠ってしまうだろう、そして二度と目を覚まさない。
絶対に、二度と目を覚まさない。二度と目を覚まさない。神に誓って。
でも、もう充分だと思った、そのときに...

吐き気を催すケンドリックを見て、先ほどまで「もっと飲むように」と煽っていたパーティーの参加者たちはゲラゲラと笑っているようです。ケンドリックは、お前たちが飲ませて、俺が苦しんでいるのに、何を楽しそうに笑っているんだと不満を覚えます。

そして、限界を超えたアルコールの摂取によって、酔いの中で、死の危険を覚えています。

この後、曲に続いて、ケンドリックの仲間たちが敵対するギャングのメンバーを殺害しようとする中で、仲間の一人が撃たれて亡くなってしまうという物語が続きます。

完全にお酒に飲まれてしまう(同調圧力によって悪い道に進んでしまう)かに思えたケンドリックですが、この友人の死によって、自身を見つめ直し、アーティストとして世間に良い影響を与えていくことを自身の使命として認識するというアルバム構成になっています。

もし、まだ『Good Kid M.a.a.D. City』を聴いていない方は、もしよければ是非チェックしてみてください。

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