ベイビー・キームが約束する、 「君」と「俺」のこれからのこと (和訳:Baby Keem - "16")
written by @vegashokuda
今回は、ベイビー・キーム(Baby Keem)のアルバム『The Melodic Blue』より、「16」の歌詞を読み解いていきます。が、今回はリリックに繰り返しが多く和訳・解説が短いので、同曲のレビューと共にお届けします!
レビュー
普段めったにビートに印を付けないというケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のハードドライブには、なぜか赤くマークされたDJダヒ(DJ Dahi)のビートがあった。再生ボタンを押すと、それは自らのアルバム『DAMN.』(2017年)で使おうと考えるほどに気に入っていたものの、結局お蔵入りになったものだった。そのことが判明した瞬間、ケンドリックはベイビー・キーム(Baby Keem)を認めざるをえなくなった。赤のマーキングは従兄弟のキームの仕業であり、彼はそのビートをくすねて「俺だったらできなかったであろうことをやってのけた」(ケンドリック談)からだ。—そんなエピソードが明かされたのは、2020年10月のi-Dにおける両者の対談であった。
それから約1年が経ち、デビュー・アルバム『The Melodic Blue』がリリースされると、キームは上述の曲が「16」であることをTwitterで明かした。
『DAMN.』収録楽曲でダヒがプロダクションに関わったものといえば、その一つにリアーナ(Rihanna)を客演に迎えた「LOYALTY.」がある。「16」のビートのポップさ加減から察するに、ケンドリックは「LOYALTY.」同様、いわばイヤー・キャンディ(耳を楽しませる曲)として「16」のビートを使った曲を『DAMN.』に入れることを考えていたのではなかろうか。80年代を思わせるくすみ具合ときらびやかさが同居する同曲のポップさは、これまでそのコンプトンのラッパーが意図的に避けてきたもののようにも思えるだけに、これを意外に感じたファンも多いにちがいない。しかしながら、同時に、それだけに上述の彼の言葉に納得したファンも多いだろう。まさにK・ドットの言うとおり、キームは彼にできなかったであろうことをやってのけたのだ。
存命する最も偉大なラッパーの呼び声も高いケンドリック・ラマーを親戚に持つことは、ギフトでありカースでもある。しかし、キームは「16」によってその従兄弟のお墨付きを得たばかりでなく、彼を親戚に持つことのカースをはねのけてみせたといえよう。その若干21歳の若者がすでに独自のジャンルを確立した、などと評するのは、さすがに早計だろう。しかし、少なくとも「16」の青くさくも飾らないリリックと、軽やかに哀愁を感じさせるデリバリーは、彼が「ケンドリック・ラマーの従兄弟」としてでなく、まさにベイビー・キームとして歩を進めていることを、穏やかにしかし雄弁に語っている。
今回解読する曲
Baby Keem - "16"
Produced by DJ Dahi & Jeff Kleinman
リフレイン
Born into status
Tell nobody that you never had it
Don't tell nobody that you was abandoned
I'm the only one that know about your tragedy
和訳:
恵まれない境遇に生まれて
誰にもそう言えずに
置き去りにされたとも言えない君
俺は君の悲劇を知る唯一の人
【解読】
ここから先は
¥ 300
「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」を読んでいただき、ありがとうございます! フォローやSNSでのシェアなどしていただけると、励みになります!