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オバマ大統領との会見を経た、J.Coleの人種差別問題に対する考えを読む。(J.Cole - "High for Hours")

今回は、J.Coleがシングル発売した「High for Hours」を解読していきたいと思います。

J.Coleは、ノースカロライナ州のファイエットヴィル出身のラッパーであり、Kendrick Lamarなどと並ぶ、現代のコンシャスなラッパーの代表格です。

J.Coleの育ちは、ラッパーとしては、少し変わっています。出身地からしても、ニューヨークや、カリフォルニア、シカゴ、アトランタといった地域ではありませんし、生い立ちも、どちらかというと中流階級で、J.Cole以外は全員が白人のクラスに通ったりもしていましたし、大学にも進学しています。

その後、Jay-Zと契約し、ヒットを飛ばしながら、ユースの共感を集めていきます。また、その作品は、アルバムのリリース毎にコンシャスさが増して来ています。

そんなJ.Coleの「High for Hours」、ハイになったJ.Coleは、世界の暴力や、人種差別問題に考えを巡らせます。

その内容について、読んでいきたいと思います。

イントロ

This is called being high as shit, for hours
That's the name of this song, nigga
"High as Shit for Hours"
Here we go, yeah

【意訳】
これは、数時間、めっちゃハイになるっていう曲だ。
それが、この曲の名前さ。
「数時間、めっちゃハイ」。よし、行くぜ。

テーマはハイなときの思考ということですが、J.Coleは、過去にインタビューで大麻を吸うのを止めたと語っており、実際には、今は大麻を吸っていません。

1バース目

American hypocrisy, oh, let me count the ways
They came here seekin' freedom
Then they end up ownin' slaves
Justified it usin' Christianity which saves

【意訳】
アメリカの偽善行為を、俺が数えよう。
あいつらは、自由を求めて、この土地にやってきた。
そして、結局は奴隷のオーナーになったのさ。
奴隷制度を認めるキリスト教を使って、それを正当化した。

ヨーロッパから自由を求めて渡ってきた人たちを祖先に持つはずのアメリカ人が、他人の自由を奪う行為である奴隷制度を正当化して続けていたこと、そのためにキリスト教が用いられたこと、ここには宗教や善、正義といったものが、いかに建前として使われるかが表れています。

Religion don't mean shit, there's too much ego in the way
That's why ISIS is a crisis
But in reality this country do the same shit
Take a life and call it righteous

【意訳】
宗教には何の意味もない。そこには人間のエゴがありすぎるのさ。
だから、ISISだって危機的な状況なんだ。
だけど、現実には、この国だって同じことをしてる。
命を奪っておいて、それを正義だって呼んでる。

J.Coleは、人間が宗教を自分のエゴのために使っているに過ぎないことを看破しています。宗教は、奴隷制度を正当化したり、ISISのように戦争を繰り返す口実に利用されているのです。

また、過去のアメリカやISISが宗教を理由に人の権利を侵害していることだけでなく、今のアメリカ合衆国もまた、正義を理由に人殺しをしていると責めています。

Remember when Bin Laden got killed, supposedly?
In a hotel lobby after a show, was noticin'
These white ladies watchin' CNN, coverin' the action
They read the headline and then they all started clappin'
As if LeBron had just scored a basket at the buzzer

【意訳】
ビン・ラディンが殺されたと推定されたときのことを覚えているか?
ショーの後、ホテルのロビーで、CNNを見ている女性たちに気付いた。
彼女たちは、ヘッドラインを読んで、みんなで手を叩いて喜び始めた。
まるでレブロンがブザービーターを決めたかのように。

アメリカのツインタワーにハイジャックされた飛行機が突っ込んだ9.11事件などを主導したとされるビン・ラディンが、オバマ政権時に殺害されたときのことを思い返しています。

レブロンは NBA選手のレブロン・ジェームズで、ビン・ラディン殺害のニュースを受けて、白人の女性たちが、まるでレブロン・ジェームズがタイムアップ(ブザー)ギリギリのタイミングでシュートを決めたかのような喜び方をしていたことが、印象に残っていると述べています。

I stood there for a second
Watched them high-five each other
For real? I thought this was "Thou shalt not kill"
But police still lettin' off on niggas in the Ville
Claimin' that he reached for a gun

【意訳】
俺は、そこにしばらく立っていた。
彼女たちがお互いにハイファイブをするのを見ながら。
マジかよ?俺は「汝、殺すなかれ」が正しい教えだと思っていた。
でも、警察は今でもFayettevilleで黒人に対して発砲している。
彼らが銃に手を伸ばしたと言い訳しながら。

J.Coleは、ビン・ラディンの殺害に喜ぶ人たちの態度に違和感を覚えています。聖書の教えには「汝、殺すなかれ」とあるからです。

どんな相手でも殺してはいけないというのが聖書の教えであり、様々な事情でビン・ラディンを殺害しなければならなかったとしても、それはレブロン・ジェームズがブザービーターを決めたかのように喜ぶことではないだろうというのが、J.Coleの考えです。

また、J.Coleは、この様子を故郷であるFayetteville(以下、Ville)で警察が黒人を射殺している状況へと連想させています。J.Coleの故郷であるFayettevilleでは、2013年にもShaqur McNairという16歳の黒人の青年が警官によって射殺されました。このとき、現場の警官は相手が銃に手を伸ばしたから射殺したと述べました。J.Coleは、アメリカが正義の名の下に自国民を殺害し続けていると感じています。

They really think we dumb and got a death wish
Now somebody's son is layin' breathless

【意訳】
あいつらは、俺たちが本当にバカで、自ら死を望んだとでも思ってるんだ。
こうして、また誰かの息子が生き絶えて横になる。

警察や多くの人が持つ、特定の人種への偏見について歌っています。

また、「誰かの息子」というのは、イエス・キリストを連想させる表現でもあります。イエスは神の子として地上に送られ、人間によって殺害されました。

When I was a little boy my father lived in Texas
Pulled up in Toyota, drove that bitch like it was Lexus
Put my bag in his trunk and headed off for Dallas

【意訳】
俺が小さな頃、俺の父親はテキサスに住んでいた。
トヨタに乗り込んで、まるでレクサスかのように運転してた。
俺のカバンを車のトランクに入れて、ダラスに向かった。

J.Coleはドイツ生まれですが、父親が家を出て行ってからは、母親とノースカロライナ州のVilleで育ちました。

父親はテキサスに住んでおり、J.Coleをテキサスのダラス群に連れて行ったことがあるようです。

Out there for the summer, feelin' just like I was Alice
Lost in the Wonderland where niggas still sufferin'
Just like they was back home, and that's wrong
So now it's "Fuck the government!"
They see my niggas strugglin'
And they don't give a fuck at all, and that's wrong, yeah

【意訳】
一夏をそこで過ごした。気分はまるでアリスのようだった。
不思議の国に迷い込んだ。そこでは黒人たちが未だに生活に苦しんでいる。
それは俺の地元と変わらない状況で、おかしなことだった。
だから今は「政府なんて糞食らえ!」なのさ。
政府は、俺たち黒人が生活に苦しんでいるのを知っている。
それなのに、あいつらは全くそんなことを気にもかけない。
それは間違ったことだろ。

父親に連れて行かれて、ダラスで過ごした一夏。

ダラスは南部有数の世界都市で、Villeと比べると、比較にならないほどに栄えています。その様子を、不思議の国にいきなり迷い込んだアリスに例えています。

しかし、J.Coleは、そんなに栄えているダラスでも、黒人だけは、Villeと同じように生活に苦しんでいることに気がつきます。人種によって、生活のランクが違うことに、子どもの純粋な心で、世界は間違っていると感じたのでしょう。

また、政府はそのことを知っていても、状況を改善しようとしません。そのことをJ.Coleは批判しています。

サビ

The type of shit that make you wanna
The type of shit that make you wanna let go
The type of shit that make you wanna
The type of shit that make you wanna let go

【意訳】
もう手放したくなってしまうようなこと。そんなことさ。
もう手放したくなってしまうようなこと。そんなことさ。

世界中の様々な間違いに、希望を捨ててしまいたくなるような気分になっていることを述べています。

2バース目

I had a convo with the President, I paid to go and see him
Thinkin' about the things I said I'd say when I would see him
Feelin' nervous, sittin' in a room full of white folks
Thinkin' about the black man plight, think I might choke

【意訳】
俺は大統領と会話を持った。俺は自費で彼に会いに行った。
会ったら、どんな話をしようかと考えていた。
ナーバスな気分で、白人だらけの部屋に座らされた。
黒人の窮状について考えていた。窒息しそうな気分だった。

2016年に、J.Coleだけでなく、 Nicki Minaj、Pusha-T、Common、Busta Rhymes、Alicia Keysなど、多くのミュージシャンでオバマ大統領の元を訪れたときのことを、振り返っています。

主に刑事司法の話と、オバマ大統領が主導するMy Brothers Keeperというイニシアチブについて、会話が持たれたようです。

My Brothers Keeperというのは、若者たちを正しい道に止まらせ、広い視野を持って育たせようというイニシアチブです。聖書のカインとアベルの逸話で、弟のアベルを嫉妬から殺害したカインが、神に「アベルはどこか?」と聞かれたときに、「知りません。私は弟の番人でしょうか。」と答えたという話から来ています。自分たちの仲間である若者をしっかりと見守って育てようというものでしょう。

Nope, raised my hand and asked a man a question
Does he see the struggle of his brothers in oppression?
And if so, if you got all the power in the clout
As the President, what's keepin' you from helpin' niggas out?

【意訳】
いや、俺は手を上げて、男に質問した。
彼は本当に、彼の兄弟たちが抑圧に苦しんでいる現状を知っているのだろうか。
もし知っているなら、そして多大な影響力を持っているなら、
大統領として、どうして黒人を助けられないんだ。

J.Coleは、My Brother's Keeperなどのイニシアチブが形だけではないか、本当にブラザーの窮状が分かっているのなら、大統領なのにどうして現状を変えられないのかと憤り、質問をしたようです。

Well, I didn't say "nigga," but you catch my drift
He looked me in my eyes and spoke and he was rather swift
He broke the issues down
And showed me he was well-aware

【意訳】
まぁ、実際には「ニガ」とは言ってないよ。でも言いたいことは分かるだろ。
彼は、俺の目を見て、早口で話した。
この問題を分解して、どういう現状なのかについては、よく分かっているということを示してくれた。

I got the vibe he was sincere and that the brother cared
But dawg, you in the chair, what's the hold up?
He said, "There's things that I wanna fix
But you know this shit, nigga: politics."

【意訳】
俺は、彼が誠実で、本当に黒人問題について解決したいと考えていることは分かった。
でもよ、お前は大統領の椅子に座ってるじゃないか。ホールドアップが何かって分からないだろう。
彼は言った。「私には、直したいことがある。でも、知っているだろ。政治っってものがあるんだよ。」

本当にこのような会話がオバマ大統領との間で持たれたのかは分かりませんが、J.Coleはオバマ大統領が黒人問題について誠実に考えてはいても、既存の政治のシステムの中で、それを変えることが難しいことを知った様子を描写しています。

Don't stop fightin' and don't stop believin'
You can make the world better
For your kids before you leave it

【意訳】
戦いを止めるな。信じることを止めるな。
お前が死ぬまでの間に、子どもたちのために、世界をもっと良い場所に変えることは必ずできる。

Change is slow, always has been, always will be
But fuck that, I'ma bust back 'til they kill me
Change is slow, always has been, always will be
But fuck that, I'ma bust back until they kill me—feel me?

【意訳】
変化はゆっくりだ。いつだってそうだった。これからもそうだ。
でも、糞食らえ。俺は殺されるまで撃ち返すぜ。
変化はゆっくりだ。いつだってそうだった。これからもそうだ。
でも、糞食らえ。俺は殺されるまで撃ち返すんだ。共感してくれるか?

J.Coleは、たとえ黒人であるオバマが大統領になっても、一朝一夕で問題が解決することはないということに気付かされました。

それはサビで繰り返されるように、希望を投げ捨てたくなってしまうような出来事です。それでも、希望を捨ててはいけないと訴えています。住みやすい世の中にするための変化というのは、簡単なことではなく、少しづつ前進していくものだからです。

3バース目

Here's a thought for my revolutionary heart
Take a deeper look at history, it's there to pick apart
See, the people at the top
They get to do just what they want

【意訳】
これは、俺の革命的な心のための思考だ。
歴史をもっと深く見るんだ。いつだって分解して見られるだろ。
その中で、トップにいる人たちを見てみろ。
あいつらは、いつだって、何でもしたいことをできるようになってるんだ。

J.Coleは、先のオバマ大統領との会見を経て、より深く思考します。歴史に立ち返って、人間の行いというものを考えてみます。

'Til after a while the people at the bottom finally get smart
Then they start to holla "Revolution!"
Tired of livin' here, destitution
Fuck that lootin'! Can you tell me what's the best solution?

【意訳】
そのうちに、下層の人たちが賢くなっていく。
そして「革命だ!」と叫び始めるのさ。極貧の中で生きることに疲れて。
略奪されてたまるか!、何が一番いい解決策が教えてくれるかい。

いつだって、世の中では支配と革命が繰り返されて来ました。権力者が好き放題し、そのうち被支配者が疲れ果てて、革命を叫びます。

しかし、それが本当に最適な解決策なのかと、J.Coleは考え始めます。

I used to think it was to overthrow oppressors, see
If we destroy the system, that means we'll have less of greed
But see, it's not that simple
I got to thinkin' about the history of human nature
While this instrumental played

【意訳】
俺は、抑圧をはねのけることが解決策だと、ずっと思っていた。
システムを壊してしまえば、俺たちは欲が少なくなるはずだと。
でも、そんなに簡単な話ではなかったんだ。
人間という存在についての歴史に考えを巡らせるようになった。
このインストが流しながら。

もともと、J.Coleは、システムを攻撃して、黒人への抑圧を跳ね除けることが、現状を解決するための、最も良い方策だと考えていました。

しかし、歴史について考えを巡らせるうちに、それが必ずしも最適な解決策ではなく、また、それがそんなに簡単な話でもないということに気付き始めます。

Then I realized somethin' that made
Me wonder if revolution was really ever the way
Before you trip and throw a fit over these words I say
Think about this shit for a second, you heard the way

【意訳】
それから、俺は、革命が本当に取るべき道なのかと疑うようになった。
ぶっとんで、俺の言葉に憤慨する前に、少し考えてみてくれ。

J.Coleは、このように物理的な革命行為が本当に最適かと疑い始めた自分について、普段から自分の曲に共感してくれるファンたちに、憤慨する前に、少し話をきいて考えてくれと訴えます。

The children in abusive households grow up
Knockin' girlfriends out cold—that's called a cycle
Abused becomes the abuser and that's just how life go

【意訳】
虐待のある家庭に育った子どもは、大人になって、ガールフレンドに暴力を振るうようになる。それが「サイクル」と呼ばれるものだ。
虐待された人間は、虐待する人間になる。それが人生ってもんだ。

続いて、世の中のサイクルについて思考を巡らせます。虐待を受けて育った子どもは、他人にも暴力を振るうようになります。

世の中は繋がっていて、あらゆる物事は巡っていくのです。

So understand
You get the power, but you know what power does to man?
Corruption always leads us to the same shit again

【意訳】
だから、理解してくれ。
お前は力を手に入れる。だけど、力が何をするか分かっているか。
力の腐敗はいつも俺たちを同じ問題に導くんだ。

そのようなサイクル、世の中の輪廻というものを考えるとき、「権力は必ず腐敗する」という考えに、J.Coleは行き着きます。つまり、権力を打倒することは、根本的な解決にはならないのです。

So when you talk 'bout revolution
Dawg, I hear just what you sayin'
What good is takin' over
When we know what you gon' do?
The only real revolution happens right inside of you
I said, what good is takin' over
When we know what you gon' do?
The only real revolution happens right inside of you, nigga

【意訳】
だから、お前が革命について語るとき、お前が言いたいことは分かる。
良いものは占領されてしまうんだ。
お前が何をするか、分かっているというのに?
本当の革命は、お前の中でこそ発生するんだ。
俺は言った。良いものは占領されてしまうんだ。
お前が何をするか、いつ分かるっていうのに?
本当の変化は、お前の中でこそ発生するんだ。

世の中のサイクルを考えたとき、権力は必ず腐敗するということを、J.Coleは先ほど述べました。

だから、物理的な革命で権力を打倒したとしても、次の権力が、次の抑圧を生むだけだと。J.Coleが革命を起こしたとしても、権力を手にした人たちが次に何をするかは、J.Coleにとっては、もう見えてしまったことなのです。

J.Coleは、システムや権力者を打倒して、いまの問題を解決するのではなく、自分自身が変わることで、少しづつでも世界を変えようというポジティブなメッセージを発しています。

まとめ

ということで、「High for Hours」を解読してきました。

オバマが大統領になっても変わらない、黒人が抑圧された状況に苛立ちながらも、最終的には、自分たちが内面から変わることでしか、世の中を本当に良い方向に持っていくことはできないという結論に達したJ.Cole。

その思考の過程を、J.Coleと一緒に辿ることができる曲となっていました。

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