カニエ&キッド・カディ「俺たちはまだ愛を感じる」。(KIDS SEE GHOSTS - "Feel the Love")
writer:@raq_reezy
今回は、カニエのフルプロデュースでG.o.o.d. Musicから次々とリリースされている7曲入りのアルバム3作目となる『KIDS SEE GHOSTS』から「Feel the Love」の解読をお送りします。
『KIDS SEE GHOSTS』はカニエ・ウェストとキッド・カディのコラボ作品ですが、基本的にはカニエがプロデュースしています。
キッド・カディは、2009年にカニエの創業したレーベルであるG.O.O.D. Musicと契約をしたラッパーです。2013年にはキッド・カディがレーベルへの不満から離脱したため、二人の間には少し緊張が漂っていましたが、今は再び仲が良くなっています。カニエはキッド・カディの独特の歌声を大変気に入っているようで、たびたび自身の楽曲のサビなどを依頼しています。キッド・カディもカニエを自身の楽曲にたびたび呼んでいます。
カニエもキッド・カディも自身で楽曲のプロデュースからラップまで出来るミュージシャンですが、今回のアルバム『KIDS SEE GHOSTS』はカニエがフルプロデュースをしたということで、キッド・カディの浮遊感のある世界観というよりは、全体的にカニエ色が強いゴージャスなサウンドになっています。
キッド・カディの世界観を楽しみたい方は、彼の最新のソロアルバム『Passion, Pain & Demon Slayin'』もおすすめです。
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さて、それでは中身を見ていきましょう。
コーラス(Kid Cudi)
I can still feel the love
I can still feel the love
I can still feel the love
Feel the love
【意訳】
俺はまだ愛を感じることができる
俺はまだ愛を感じることができるぜ
俺はまだ愛を感じることができる
愛を感じるぜ
「俺はまだ愛を感じるぜ」と歌われています。
これは今回の曲のタイトルにもなっているように、曲のメインテーマなのですが、ここにはいくつかの背景を読み取ることができます。
まず、カニエもキッド・カディも鬱病に苦しんだ過去があります。
カニエはオピオイド中毒による奇行が確認されたために入院しました。
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キッド・カディもまた2016年に自殺衝動のために入院しています。
彼らはラッパーという強い人間のイメージが重要な業界で、それぞれ精神面の問題で入院するというナイーブさが見られたけれど、それでも音楽業界が自分たちを受け入れてくれるところに「俺はまだ愛を感じる」と歌っているのです。
また、カニエは度々の問題発言を繰り返しては炎上しています。直近でも「奴隷は選択だった」と発言したことが問題となっています。ちょっとした「お騒がせセレブ」のようになっているのです。
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しかし、そんなカニエも、新作がリリースされると、アルバムに収録されている7曲がiTunesのシングル・ランキングで1位〜7位を独占。カニエの普段の言動をみんなが叩いていたとしても、彼の音楽はみんなに愛されていることが証明されました。
この曲、カニエのアルバムのリリース後に作られたのではと思えるほどです。
バース(Pusha-T, Kid Cudi & Kanye West)
さて、「俺はまだ愛されている」という曲のテーマは、上述したような背景から設定されたものと思われます。
しかし、今回の曲のバース部分では、そうした内容が歌われているわけではありません。曲全体が重くなってしまうからという配慮からでしょうか、代わりに、同じくG.O.O.D. MusicのラッパーであるPusha-Tが客演として呼ばれて、唯一のバースを蹴っています。内容としては、なんとも一般のラッパーらしいセルフ・ボーストとなっています。
カニエは過去にも「Runaway」という曲で、Pusha-Tを呼んで、いかにもラッパーらしい(少しバカっぽい)バースを蹴ってもらうという方法を使っています。曲のテーマが少し真面目だったりしたときの、カニエなりの照れ隠しなのかもしれません。
We not worried 'bout no other niggas, we them other niggas
You bust down a Rollie, I bust down a brick, then I flood it, nigga
I am not to be compared to you rappers, Eazy-Duz-It, nigga
I am more Eazy, you tryin' your best to become me, nigga
【意訳】
俺は他のやつらのことなんて気にしない、俺たちは特別な人間だ
お前らはロレックスに宝石を散りばめる
俺はレンガに宝石を散りばめて、水に流してしまうのさ
お前らと比べられるような人間じゃない、『Eazy-Duz-It』さ
俺はもっと気楽にEazy-Eの影響を受けているけど
お前らは必死に俺になろうとしている
というわけで、ここからは、Pusha-Tのバースを見ていきましょう!笑
まずは、今どきの流行りのラッパーたちと自分の違いを説明しています。
最近のラッパーたちはロレックスに宝石を散りばめて喜んでいるけれど、そんなものは自分にとっては水に流してしまう程度のものだと。
そして、Pusha-TはDr.Dreも所属していたクルーN.W.A.のメンバーであったEazy-Eに影響を受けたことを公言していますが、ここでも触れられています。『Eazy-Duz-It』はEazy-Eのデビューアルバムです。
「I am more Eazy」は、俺はお前らよりもEazy-Eに近いぜというアピールと、みんなが必死なのに対して自分は気楽にやっているというダブル・ミーニングになっています。
She like them bottles with bubbles in it
Buy her Loewe and other linen
Why would I wait when there's other women?
Why would I hate? We in love with winnin' (ooh!)
【意訳】
ボトルみたいな体型の彼女は、シャンパンが大好き
彼女にはLoeweとリネン素材の服を買ってあげる
他の女性がいるのに、俺は何を待つっていうんだ
俺は勝利と愛し合っている、何も妬むものなんてない
こちらでも、「She like them bottles」という部分に、「彼女はボトルが好き」という意味と、「彼女の体型がボトルみたい(スタイルがいい)」という意味と、ダブル・ミーニングになっています。
Loeweはマドリッド発の、Pusha-Tのお気に入りのブランドです。
Buy her bundles, fly her out, bring her friend, I try her out
Ain't no worries findin' out, the details is ironed out
Easily they plays along, hopin' that I play a song
Love to fuck to trap music (feel the love)
【意訳】
彼女にバンドルを買って、颯爽と連れていく
彼女の友だちも連れて来させる、そいつも試してみる
みんな簡単に俺と遊ぶ、俺が曲を流すのを期待してる
俺はトラップの音楽を流しながらセックスするのが好き(愛を感じる)
bundlesは、見てもらったほうが早いと思うので、写真をご参照ください。
トラップの音楽というのは、最近のアメリカのメインストリームのサウンドです。強調されたベースや、半分のBPMで打たれるスネア、連打される高音スネアやハイハットなどが特徴です。
また、そもそもトラップというのは「トラップハウス」(麻薬の売人が、麻薬を製造する基地)が語源であり、Pusha-Tはバージニア州の麻薬の売人だったことからも共通点が見て取れます。
Grrrat-gat-gat-gat-gat
Dope money just came along (woo)
【意訳】
グラッタッガッガッガッガ
薬を売った金がちょうど入ってきたところさ
(このあと、グラタタタタタといった怒鳴り声が続きますが、解読上は不要なので省略します)
サビ前(Kayne Wet)
Where the chorus?
【意訳】
コーラスはどこだ?
コーラス(Kid Cudi & Kanye West)
I can still feel the love
I can still feel the love
I can still feel the love
Feel the love Woo!
I can still feel the love
I can still feel the love
I can still feel the love
I can still feel the love
I can still feel the love
Ba-ba-ba-ba-ba-ba-ba
Ba-ba-ba-ba
Rude-rude-rude-rude-woo!
【意訳】
俺はまだ愛を感じるぜ
俺はまだ愛を感じることができる
俺はまだ愛を感じることができる
愛を感じるのさ、ウォウ!
俺はまだ愛を感じるぜ
俺はまだ愛を感じることができる
俺はまだ愛を感じることができる
俺はまだ愛を感じるのさ
俺はまだ愛を感じる
バババババババババ
ババババ
俺は無礼者!無礼者!無礼者!Woo!
ここも再びコーラスの繰り返しとなっています。
ということで、今回はバースとしては、Pusha-Tの1バースだけでしたが、カニエとキッド・カディならではのテーマ選びとなっていたのではないでしょうか。
キッド・カディやカニエの力強い歌声も気持ちがよいので、ぜひ音源を聴いて、音楽として楽しんでいただければと思います。
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