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創作意欲が再燃中のマックルモアが考える「真の成功」とは。(Macklemore - "Glorious" feat. Skylar Grey)

今回は、押しも押されぬスターとなったマックルモアの3作目のアルバム『Gemini』から、先立って公開されている"Glorious"を解読したいと思います。

マックルモアといえば、アメリカ北西部のワシントン州という、ヒップホップ的には中心地とは言い難い場所から登場し、古着で安くオシャレする楽しみをテーマにした「Thrift Shop」の大ヒットで成功しました。このいわゆる「ヒップホップ」っぽくないところが、マックルモアの味だと言えると思います。

そんなマックルモアの"Glorious"は、Skylar Greyをフィーチャリングした、ポジティブでやる気溢れる一曲となっています。

マックルモアが3作目のアルバム制作に、どのような気持ちで望んだのか、マックルモアの音楽活動の動機はどういったところにあるのか、そしてマックルモアの考える「真の成功」とは何か、曲を読み解いていきたいと思います。

1バース目

You know I'm back like I never left
Another sprint, another step
Another day, another breath

【意訳】
分かるだろう、俺は帰ってきた。まるで1度もここを後にしてないように。
新しいスプリント、新しい一歩。新しい1日、新しい息吹。

多くのラッパーが新しい作品をリリースするときに「帰ってきた」というように、マックルモアも新作アルバムで「帰ってきた」ということを表現しています。ただ、その間もツアーだなんだと、音楽シーンで忙しく活動していて、名前もたびたび目にするので、ファンからすると、あ、そっかリリースは久々なんだっけと(笑)。そういう表現になっています。

Been chasing dreams, but I never slept
I got a new attitude and a lease on life
And some peace of mind
Seek and I find I can sleep when I die

【意訳】
夢を追ってきた、だけど一度も眠っていない。
新しい態度を身につけた。それから活気も取り戻した。心の平和もな。
探せば見つかるもんだ。死んだら、いくらでも眠れるから、今は必要ない。

ファーストアルバム『HEIST』の大ヒット、グラミーでのベスト・ラップ・アルバム賞の獲得と飛躍したあと、様々な批判にも面して、ドラッグにも依存したマックルモア。セカンドアルバムでは、心の悩みも表現したマックルモアですが、今は、仕事が楽しくて楽しくて仕方がないモードに入っているようです。休んでる暇はないと(笑)。

Wanna piece of the pie, grab the keys to the ride
And shit I'm straight
I'm on my wave, I'm on my wave
Get out my wake, I'm running late, what can I say?

【意訳】
パイを一欠片頬張って、鍵を持って、ドライブに出かけたい。
俺はストレートなんだよ。
俺は波に乗ってる、波に乗ってるのさ。
俺のつくった水面の乱れを邪魔するな、遅刻してるんだよ、何て言い訳しよう。

「I'm on my wave」から「Get out my wake」の流れでは、「Get out my way(邪魔だ、どけ!)」と普通なら言うところを、前のwaveを受けて、言葉遊びがされています。wakeというのは、水面を船などが通り過ぎたあとの波の乱れのことをいいます。

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こういうのです。

マックルモアが、やる気に満ち溢れて、早すぎるので、俺の前からどけ!ではなくて、俺の後ろから離れてろ!と、そういうことになっております。

I heard you die twice, once when they bury you in the grave
And the second time is the last time that somebody mentions your name
So when I leave here on this earth, did I take more than I gave?
Did I look out for the people or did I do it all for fame?

【意訳】
人間は2回死ぬって聞いた。1回目は墓に埋められたとき。2回目は誰も俺の名前を話さなくなったときさ。
だから、俺がこの地球を去るとき、俺は与えた分が多いだろうか、貰った分が多いだろうか。
俺は、みんなのことを気にかけて生きただろうか、それとも名声のためだけに生きただろうか。

人間が2回死ぬと考えたとき、一度目の肉体的な死を避けることはできません。でも、2回目の死を避けて、人々の中に長く生き続けたいと願うとき、自分の生存中に多くを手に入れて、自分のためだけに生きるよりも、多くを与えて、人々のために生きることができているだろうか、とマックルモアは自問しています。

Legend it's exodus searching for euphoria
Trudging through the mud to find the present, no ignoring us
Got 20,000 deep off in the street like we some warriors
My mama told me never bow your head, woo!

【意訳】
伝説、それは幸福感を探すための旅立ち
今を見つけるために、泥の中を突き進む、俺たちを無視できないぜ
地中20,000キロまで潜った、まるで戦士のように
俺の母親が教えてくれた、頭を下げるなってな!わお!

地中20,000キロまで潜る戦士というのは何かの映画や小説の参照があるんでしょうか。(分かる方がいらっしゃれば、ぜひ教えてください!)

サビ(Skylar Grey)

I feel glorious, glorious
Got a chance to start again
I was born for this, born for this
It's who I am, how could I forget?

【意訳】
私は栄光を感じる。栄光よ。
もう一度、スタートするチャンスを手に入れた。
私はこのために生まれた。このために。
それが私という人間よ。それをどうして忘れることができるっていうの?

I made it through the darkest part of the night
And now I see the sunrise
Now I feel glorious, glorious
I feel glorious, glorious

【意訳】
夜のいちばん暗いところを、潜り抜けたわ。
そして今、太陽が登るのを目にしている。
いま、私は栄光を感じるわ。栄光よ。栄光を感じるのよ。栄光よ。

Skylar Greyは、サビで、マックルモアの心の声を歌っています。

音楽をつくるために生まれてきたという、シンプルで強いモチベーションを歌っています。

以下は、ツアー終了時にマックルモアがインスタグラムに投稿したコメント部分です。

When I finished touring last fall, I wanted to keep making music. I didn’t know what that would look like but I had an immediate urge to write. To record. Not out of a desire to “keep up” with the music industry – or out of some self-imposed pressure – but rather to create for the sake of creating.

【意訳】
俺はこの秋にツアーを終えたとき、音楽を作り続けたいと思った。その音楽がどんな音楽になるかは分からないけれど、今すぐにでも歌詞を書きたい、レコーディングをしたいという気持ちが湧いたんだ。それは音楽業界での存在感を保つためや、自分自身へのプレッシャーがあってなんて話じゃなくて、とにかく何かを創り上げるために、創作活動をしたいという気持ちさ。

2バース目

I'm feeling glorious
The crib looking Victorian (oh yes it is)
You know that we been going in
Since we hopped out that Delorean (Delorean, yeah we win)

【意訳】
俺は栄光を感じている。
俺の家はヴィクトリア様式みたいに見える。(そうさ、その通り!)
あのデロリアンから飛び出したときから、俺たちが前進し続けてきたって、知ってるだろ。

ヴィクトリア女王がイギリスを治めていた時期の家に似たような家に住んでいるようです。「俺は栄光を感じている」から「イギリス皇室」の連想でしょう。

そして「デロリアンから飛び出したとき」というのは、ファーストアルバムに収録されていた「Thrift Shop」の大ヒットのことを言っています。マックルモアは「Thrift Shop」の大ヒットで、一躍、メインストリームに飛び出しましたが、その「Thrift Shop」のPV内で、まさにデロリアンが登場します。

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En garde, things are just things
They don't make you who you are
Can't pack up a U-Haul and take it with you when you're gone

【意訳】
警告だぜ、物は、物にすぎない。物がお前をお前たらしめることはないのさ。
死ぬときに、U-Haulに全部詰めて、一緒に持っていくことはできないだろ。

U Haulは、貸し倉庫などを提供している会社です。その輸送に使われているトラックも借りられるようです。

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このトラックに、自分の持ち物を詰めて、あの世に持っていくことはできないということをマックルモアは伝えています。

また、1バース目の内容から考えると、自分の肉体的な死後には、自分がどれだけお金や物質的な豊かさを得ていたかということで、人々が自分を評価するわけではありません。死後も語り継がれるかどうかは、物質的な成功とは無関係なのです。

We posted on the porch, my family's glasses to the stars
My grandma smiling down on me like woo, that boy got bars
Okay, okay, yes I do

【意訳】
俺は玄関に手紙を入れて、家族で乾杯できる生活を手に入れた。
俺のおばあちゃんは、俺を誇りに思ってる。「私の孫はいい歌詞を書くね!」って感じ。そうさ、その通り、俺はいい歌詞を書く。

マックルモアの成功によって、家族も良い生活に導かれたということを歌っています。

そして、ここは前のU Haulのラインを受けています。U Haulの会社のキャッチコピーは「Moving Families to Better Lives Since 1945」(家族をもっといい生活へ導く。1945年から。)です。

I said amen and hallelujah, let me testify too
Another morning, a morning, don't let self get in my way
I got my breath, I got my faith and I remember why I came

【意訳】
俺はアーメンと言った。ハレルヤとも言った。証言もさせてくれ。
新しい朝、新しい朝さ。エゴに邪魔させちゃいけない。
俺は、自分の息を取り戻した。信仰も持っている。そして俺が来た理由を思い出したのさ。

1バース目の最初の、新しい感情で創作活動に励むという環境が整ったというところに戻って来ています。

ブリッジ(Skylar Grey)

We gon' be alright, put that on my life
When I open my eyes, hope I see you shine
We're planting a flag they don't understand
The world is up for grabs

【意訳】
私たちは大丈夫、そんな気持ちを持って人生を歩むのよ。
私が目を開けるとき、あなたが輝いていることを願っているわ。
私たちはいま、彼らが理解できない旗を掲げてるのよ。
世界は誰だって掴むことができるわ。

旗を掲げるというのは、"Can't Hold Us"のPVの描写を取り入れているのでしょう。PVでは、1stアルバム『THE HEIST』の旗が掲げられていました。

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「up for grabs」は、「誰でも無料で持っていってください」ということを表現するフレーズのようです。

「世界を手に入れる」というとき、一般的には物質的な成功や、立場的な成功を思い浮かべる人が多いでしょう。

しかし、マックルモアは、真の成功は物質的な成功ではなく、自分の創作活動に打ち込み、自分が生み出せるものや持っているものを人に与えることで、みんなの意識に長く生き続けることがと考えています。

そのように「成功」を解釈しなおしたとき、世界を手に入れるような成功は、限られた人だけが掴めるものではなく、誰でも掴めるものだということを伝えています。

アルバム『Gemini』の発売日は9月22日

この「Glorious」という曲が収録されているアルバム『Gemini』の発売日は、今年(2017年)の9月22日です!

前向きになれるアルバムとなっているのではないでしょうか。

発売が楽しみです!

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