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コンプトンで立ち往生するバディの「トラブル」を読む (Buddy - "Trouble On Central")

Writer: @vegashokuda

もうすぐ8月も終わってしまいますが、皆さん、夏を満喫していますでしょうか?

今回、歌詞を解読するのは、夏にぴったりだと私が感じる、バディ(Buddy)のアルバム『Harlan & Alondra』収録の"Trouble On Central"です。

本題に入る前に、「バディって誰?」という方も少なくないのではと思いますので、簡単に彼のことを紹介したいと思います。

バディは1993年生まれの現在24歳。姉妹から「ブラザー」と呼ばれていたのが転じて「バディ」になり、そのままアーティスト名になったそうです[1]。

デビュー・アルバムである今作のタイトルに使われている「ハーラン(Harlan)」と「アロンドラ(Alondra)」は、いずれも彼の出身地・コンプトンを走るストリートの名前であり、バディはその辺りで育ちました。

コンプトンといえば、言わずと知れたギャングスタ・ラップのメッカであり、2015年の映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』も話題になったN.W.Aに始まり、DJクイック(DJ Quik)、MCエイト(MC Eiht)、ザ・ゲーム(The Game)など多数のヒップホップ・アーティスト、特にギャングスタ・ラッパーを生んできた街です。

最近では、その伝統を受け継ぐかのようにギャングスタ・ライフをテーマにラップするYGのようなラッパーもいますし、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)やテラス・マーティン(Terrace Martin)との仕事でキャリアを重ねてきて、クイックとのコラボ・アルバムをリリースしたプロブレム(Problem)のようなラッパーもいます。ギャングとは異なる善良な子供の視点から暴力の蔓延る街を描いてメジャー・デビューを果たしたケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)も同市出身です。

そうしたなかでバディはというと、やはりコンプトン、それもクリップスの縄張りで育ったこともあり、危ない目に遭うこともあったようです。が、そうした出自をあまり深刻には捉えず、それよりも日々好きなことをして楽しむことに、少年時代から重きを置いていたようです。

「毎日生活に怯えてたりはしなかったよ。みんな、そんなふうに見せかけたがるけど。もちろん危ないこともあるけど、そんなのどこでもあると思うんだ。俺はそれよりも人生のポジティブな側面に目を向けるね。笑って、楽しんで、友達と遊んで、音楽を作って。」

バディはそんな、人生に対する楽観的な姿勢をもって、子供の頃から演劇を学び、ラップをし、ファッション・ショウを開催するなどしてきました。そして16歳の頃にファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)と出会い、彼の主宰するレーベル〈i am OTHER〉と契約し(現在は離れて活動中)、ミックステープやEPをリリースします。

「自分を1つの箱に押し込めたくない」と語る彼の音楽は、ジャンルでいえばヒップホップ/R&Bに該当するものの、それ以外のジャンルの影響も多分に感じられるものです。

さて、そんな楽観的なバディ少年が経験した「トラブル」とは、どんなものだったのでしょうか?

歌詞を見ていきましょう。

1バース目

Just so good at being in trouble
Spending my days out in the ghetto
Mama say that I need to be careful
Going downtown on the Blue Line Metro

【意訳】
ただトラブルに巻き込まれるのが得意で
ゲトーで日々を過ごしてる
気を付けなさいって母さんに言われたな
メトロのブルーラインでダウンタウンに向かってる

歌詞の解読に入る前に、こちらをご覧ください。(Google Mapより)

画像1

LAのどこがどんなギャングの縄張りかを示す地図です。ハーラン・アヴェニューとアロンドラ・ブルヴァードが交差する辺り(コンプトン/ウッドリー空港付近)は、コンプトン市内でも西のほうにありますね。

画像2

バディはW/S Nutty Blocc Compton Cripsの縄張りで育ったのでしょう。それだけにトラブルに巻き込まれることが多く、お母さんにはよく気を付けなさいと言われたのだと想像できます。

LAメトロのブルーラインは、LAのダウンタウンから南を南北に走る鉄道です。コンプトンやスローソン、ロングビーチなど、ヒップホップ・ファンにはおなじみの土地を通っています。

Car overheated and I can't afford a rental (shit)
Broke down Chevrolet, sitting on Central
Turning on my headphones looking out the window
Lauryn Hill playing, it could be so simple

【意訳】
車がオーバーヒートして、レンタルする金も無い(クソ)
シボレーをダメにして、セントラルに座ってる
ヘッドホンを着けて窓の外を眺めてる
ローリン・ヒルを聴きながら、シンプルなはずのことさ

タイトルに登場する「セントラル」が2行目で出てきました。これはその名のとおり、LAのほぼ中央を南北に走る通りです。

4行目はローリン・ヒル(Lauryn Hill)の名曲"Ex-Factor"に因んだラインです。同曲には"It could all be so simple/But you'd rather make it hard"(とてもシンプルなことのはずなのに/あなたがそれをややこしくする)という歌詞があります。

Damn, I just can't wait 'til I get on
What the hell is taking so long?

【意訳】
ああ、成功するまで待てないよ
何にそんな時間が掛かってるんだ?

セントラル・アヴェニューで車をオーバーヒートさせてしまい、別の車をレンタルするお金も無いバディは、早くそんな日々から抜け出したいと願います。

サビ

I wish I had a girl by my side
Wish I had a brand new ride
I wish I had a light
I wish I had a private flight
I wish upon the stars sometimes

【意訳】
隣に彼女が居ればいいのに
新車を持ってればいいのに
ライターを持ってて
プライベート・ジェットも持ってればって
時々星に願う

バディは手に入れたいものを列挙します。

I wish I had a ride
I wish I had the finer things
I wish you wasn't so Cobain
I wish I had you (shit)
And I wish I wasn't stuck on Central

【意訳】
車があればな
もっといいものを持ってればな
君がそんなにコバーンでなければ
君がいれば(クソ)
それに、俺がセントラルで立ち往生してなければ

「コバーン」はおそらく、ニルヴァーナというロック・バンドのメンバーであったカート・コバーン(Kurt Cobain。発音的には「コベイン」のほうが近い)のことです。コバーンはうつ病と薬物依存に苦しみ、27歳の若さで自ら命を絶ちました。

最近ではデンゼル・カリー(Denzel Curry)が"CLOUT COBAIN"という楽曲を発表するなど、ラッパーにも言及されることが多いように思います。

ひょっとしたら、バディはここで、自殺により命を絶った大切な誰かを偲んでいるのかもしれません。

2バース目

Just so good at being in trouble
Spending my days out in the ghetto
Papa say that I need to be careful
Heard a nigga just got popped at the ARCO

【意訳】
ただトラブルに巻き込まれるのが得意で
ゲトーで日々を過ごしてる
気を付けなさいって父さんに言われたな
アルコで誰かが撃たれたって聞いた

アルコ」はガソリンスタンドのことでしょう。危険と隣り合わせにあるゲトーの日常を描写しています。

Pros on the hoe stroll, junkies on narcos
Long Beach, Compton, Watts to South Central
Damn, I just can't wait 'til I get home (shit)
That's when a cop had pulled me over

【意訳】
売春婦は歩き回り、ジャンキーはヤクをやってる
ロングビーチ、コンプトン、ワッツからサウスセントラルまで
ああ、家に着くまで待てないよ(クソ)
その時、警察が俺の車を止めた

"hoe stroll"は売春婦がお客さんを求めて歩き回る場所のことです。ロングビーチやコンプトン、ワッツ、サウスセントラルでは、たしかに売春婦や薬物中毒者が多く出歩いており、これもまたゲトーの日常といえるでしょう。ケンドリック・ラマーも、50セント(50 Cent)製作のドラマ『POWER/パワー』にジャンキー役で出演したことについて、「コンプトンで育ってああいう人たちを毎日見てきたんだ」と語っていましたね[2]。

一方で、ゲトーを特徴づけるものはそれだけではありません。警察の黒人に対する嫌がらせや暴力もたびたび問題となっており、バディもその標的たりうる一人です。

アウトロ

I wish I was in control
Really wish I wasn't stuck on Central
I still got so far to go, yeah
Won't be stuck here, not for long
Just hold on, hold on
Work late nights and early mornings
I'm on it, I'm on it
Trouble on Central with the homies
Oh no, oh no
Pretty soon we gon' take control
Just wait on it, wait on it

【意訳】
自分がコントロールできてればいいのに
本当にセントラルで立ち往生していなければいいのに
俺はまだまだだ、イェー
長くはここに留まらないぞ
持ちこたえるんだ、持ちこたえるんだ
朝早くから夜遅くまで働くんだ
やってやる、やってやる
ホーミーたちとセントラルでトラブル
ああダメだ、ああダメだ
すぐに俺らが支配するさ
待ってな、待ってな

バディはやはり自分の置かれた環境に満足しておらず、抜け出す日を夢見ています。

というわけで

セントラル・アヴェニューで車がオーバーヒートして立ち往生するという日常の一コマに、荒廃したコンプトンの環境から抜け出せないバディの現状を託したような曲でしたね。個人的には、こういうテーマながら曲の感じが重すぎず、適度に軽快なのがバディらしい部分かなと思います。

『Harlan & Alondra』には他にも社会から恋愛まで幅広いトピックを扱った曲が収録されています。ブロディ・ブラウン(Brody Brown)やテラス・マーティンらがプロデューサーとしてクレジットされており、ゲストもタイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)、カリード(Khalid)、スヌープ、エイサップ・ファーグ(A$AP Ferg)と豪華なので、未聴の方はぜひ聴いてみてください!

[1] Who Is Buddy? | Pigeons & Planes - YouTube
[2] Kendrick Lamar Talks Cameo On Next Episode Of 'Power' | HipHop-N-More

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