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ドレイクとのビーフ、ニッキーとの破局などを経たミーク・ミルの想いを読む。(Meek Mill - "1942 Flows")【後編】

前回は、Meek Mill(以下、ミーク)の"1942 Flows"の2バース目までを解読しました。

ドレイクとのビーフ、ニッキーとの破局などを経たミーク・ミルの想いを読む。(Meek Mill - "1942 Flows")【前編】

簡単に振り返っておくと、ドレイク等とのビーフを経ても、自分を止めることは出来ないぜと歌い、ラップだけではなく、自分のファッションブランドなどでも稼いできたハスラーっぷりをアピールする内容でした。

今回は後編ということで、3バース目から、さっそく解読していきたいと思います。

なお、今月(2017年8月)に定期購読を開始してくださった方は、前編も含めて、今月(2017年8月)アップされた記事は全てお読みいただくことができます。

3バース目

さっそく読んできましょう。

Bloggers in the frenzy, truck to the Bentley
Ain't doing no interviews, I'm busy, nigga we litty
So when you see me out don't ask me about no Nicki
Fuck I look like tellin' my business on Wendy
Niggas gossip like queens, we was servin' fiends

【意訳】
ブロガーたちはご乱心。トラックからベントレーに乗り換えた。
インタビューはしないぜ、俺は忙しいし、俺たちはイケてるんだ。
だから、俺を見かけたら、ニッキーのことなんて訊くんじゃねえぞ。
もし俺がWendy William's Talk Showに出演して、俺のビジネスについて語ったら、どんな風に見えるんだろうな。
どいつもこいつも女王みたいにゴシップばっかり。その間、俺たちは悪魔に仕えてた。

ミークは、ブロガーに対して、あまり良い想いを持っていないようです。『Wins & Losses』リリース後ですが、とあるラジオで、ブロガーが彼に正当な評価を与えていないことや、彼のアルバムを十分に取り上げていないことについての文句を言っています。ブロガーとなるとインターネット界隈の人間が多いため、前回ドレイクとのビーフのところでも触れたように、ミークにとっては相性が悪いタイプの人たちなのでしょう。

インターネットやソーシャル界隈でどれだけ批評家やドレイク信者のような人たちが自分をバカにしようと、リアルな世界で生きている自分には関係がないといった姿勢が改めて感じられます。

また、世界的なスターとなったニッキー・ミナージとの交際・破局を経たミークですが、日常生活やゴシップについてのインタビューに辟易している様子が伺えます。Playatunerさんでも、いかにメディアがラッパーに対して音楽活動の話をせずに、私生活の話ばかりを訊くようになったかについて触れられています。

Wendy William's Talk Showというのはテレビ番組で、ミークの前にニッキーと12年間交際していたSafaree Samuelsという男が、2017年の3月に同番組に出演し、交際していた頃の話をしました。ミークは、前の彼氏までもが、のこのことテレビに出てきた上に、プライベートの話をする状況にうんざりしており、もし自分が同番組に出て、本来するべき音楽活動や自分のビジネスの話をしたら、みんなは一体どんな反応をするんだろうと疑問を呈しているのです。Instagramを中心としたSNSがシーンの中で大きな役割を果たすようになっていく中で、アメリカのヒップホップシーンが音楽そのものではなく、私生活やゴシップに侵されている様子が伝わってきます。

.40 bust your windows out, Jazmine Sullivan
They told 'em pop Mollys, I told 'em to be kings
Sipping 1942 like it's lean

【意訳】
.40S&W弾のように、お前の窓をぶち壊してやる、Jazmine Sullivanさ。
あいつらはMDMAで楽しめという、俺はキングになれと言う。
Don Julio 1942をコデインみたいに飲んで酔う。

見栄や虚構で覆い尽くされ、ティーン化やキャラクター化が進むシーンに対して、ミークがどんどん本気になっています。

まず、.40というのは、おそらくSmiff & Wesson社製の弾丸、.40S&W弾のことです。それで、くだらない虚構を映し出すシーンの窓をぶち壊してやると言っています。ミークは、1バース目で歌っていたように、実際に自分で麻薬を売っていた時期もあるし、聴いていて分かるように、真面目でハードワーカーです。そんなミークからすると、今のシーンは嘘ばかりでリアルさが感じられないのでしょう。また、「Bust Your Windows」という表現は、ミークの客演経験もあるシンガーソングライターのJuzmine Sullivanの一曲の名前でもあります。客演経験のあるシンガーソングライターの曲名をリファレンスして、今のシーンに苦言を呈しているのです。

ノリで「ドラッグで楽しもうぜ」というシーンに対して、ミークは「そんなことより、勝ち上がって、キングになれ」と訴えます。コデインでぶっ飛んで時間を無駄にするのではなく、1942年産のDon Julio(テキーラの名前)で酔うような大人になれということでしょう。

I done seen all these niggas try to down play my dreams
So I'ma give it to 'em every time I'm on the scene
Pull up, Ghost, Ghost, Wraith, Wraith when you see me
Some suckers wanna be me and some suckers wanna live me, I know it

【意訳】
こいつら全員が俺の夢を軽視してやがった。
だから俺はシーンにいる間、いつだって、俺が達成した夢を見せ続けてやる。
俺はいつだってロールスロイスのGhostやWraithで現れる。
ダサい奴らは俺になりたがったり、俺みたいに生きたがったりする、俺は知ってるぜ。

バカにされながらも夢を達成した自負があるミーク。それにしてもロールスロイスが好きなんですね。前のバースではPhantom、今度はGhostやWraithです。

I go through it, don't' show it
I told niggas who wrote it, ain't taking back what I quoted
Started off with a quarter, flipped that to a half, turned that to an ounce

【意訳】
俺は見せるだけじゃなくて、本当の現実の中を潜り抜けるんだ。
みんなに誰が書いてるかをバラしてやった、俺は吐いた唾は飲まないぜ。
クオーターから、ハーフ、やがては1オンスになった。

最初のラインは、YoutubeやInstagramでだけ、イケてる生活を演じてみせるラッパーと、本当に成功している自分との差を言っているのでしょう。

続くラインは、もちろんドレイクとのビーフの件ですね。ドレイクがゴーストライターに歌詞を書かせていることをツイッターで暴露し、それがどんどん大事になっていったことは、ミーク自身も驚いたと語っていますが、自分のケツは自分で拭くという姿勢を明確にしています。

Got some shit in the stash, nigga say that he gon' rob me, put a brick on his ass
Now every killer in my city tryna look for his ass
And one thing 'bout Meek Milly, I'ma get to a bag

【意訳】
隠れ家に大事なものが置いてある。
あいつがそれを持って行ってしまうって言うやつらもいるけど、あいつのケツにレンガをぶつけてやる。
今では、俺の街の全ての殺し屋が、あいつのケツを探してる。
ミーク・ミルについて、ひとつ教えてやる。俺はカバンごと手に入れる。

ここでの「あいつ」もドレイクのことでしょう。ドレイクとのビーフが本格化して、みんなミークが不利で、ドレイクがミークの人気まで奪ってしまうと言っていたけれど、自分は戦い抜いて、お金や名声を手に入れると歌っています。

Had to starve all day just to get to it fast
Like Ramadan, totin' K's like it's Palestine

【意訳】
1日中、断食をして飢えを凌がないと、そこに早くたどり着けなかった、まるでラマダーンみたいに。

1行目は言葉遊びになっています。「fast」は早いという意味と「断食をする」という意味があります。早く成功までたどり着くためには、目先の我慢が必要だったということを「fast」という言葉を使って表現しています。

2行目の後半は、パレスチナ人みたいにKを運ぶといった意味なのですが、調べてみたのですがKが何かわからず、省略させていただきます。(ご存知の方がいらっしゃったら、ぜひメールやコメントいただけると嬉しいです。)

Real niggas in my ambiance, bottom line
Ever since I met Ross and signed a dotted line
I gave my mama ten thousand at least a thousand times
Do the math on it

【意訳】
俺の周りには、最低限でもリアルなやつらばかり。
俺がリック・ロスに会って、契約にサインした日から、俺はママに1万ドルを1,000回は渡したぜ。(俺がどれだけ稼いでいるか)計算してみな。

自分の周りにはリアルなやつしかいないし、稼ぎまくっているということですね。

ちなみに1万ドル(2017年8月のレートで約110万円)を1,000回なので、少なくとも11億は親に渡しているし、そのくらい稼いでいるということになります。

4バース目

Talking, this my cocky flow
Damn Daniel, why you selling Mr. Miyagi though

【意訳】
これは俺の生意気なフロー。
おい、ダニエル、なんでマリファナを売ってるんだ?

Mr.Miyagiはマリファナのスラングであり、Karate Kidという映画に出てくる師匠でもあります。その弟子がDanielです。

どうしてマリファナなんて売ってるんだ?というのと同時に、どうして師匠を裏切るようなことをしてるんだ?という意味も込められているのでしょうか。

This that rose gold Patek, call me like '94
Mean nothin' to me, I tell how I gotta go rain slick
On that corner when the block was slow

【意訳】
これはPATEKのROSE GOLD。94年みたいに俺を呼んでくれ。
俺には何の価値もないぜ。俺はどうやって滑らかに進むかを教える。
あの街角で、上手くいかなかったときに。

1994年のROSE GOLDのPATEKはこちらです。

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しかし、ミークはそんなものよりも、自分の生きてきた道に自身を持っているということを歌っているのではないでしょうか。


Everybody was tryna trap, we started poppin' though
Heard that bitch say she cut me, I was like adiós
In the field, knock 'em down, it look like dominoes, young nigga


誰もがトラップしようとしてたというのは、ミークを罠にはめようとしていたというのと、ヒップホップシーンでみんな「トラップ」と呼ばれるジャンルばかりやっているのが掛かっているのでしょう。そんな中でも、ミークは弾けて成功しました。

ミークを捨てたビッチというのは誰のことでしょう。もしかするとニッキーのことかもしれませんが、曲中で「ニッキー」と名前で呼んでいる箇所もあるので、ここで突然ビッチ呼ばわりするのも変な話に感じます。過去の苦労しているときに、ミークを見捨てた嫌な人間がいたのかもしれません。そんな中で、敵をバタバタとドミノのように倒していったという表現は爽快ですね。

I turn my Impala to a Wraith, when you get a dollar they gon' hate
Bought my mom the crib with that gate
Private school for all them babies
Now they straight, nigga

【意訳】
俺はインパラをロールスロイスのWraithに乗り換えた。
金を手にすると、嫌うやつらが現れる。
俺はママにゲート付きの豪邸を買ってあげた。
子どもはみんなプライベートスクールに通わせてる。
みんな真っ当な人間になれたのさ!

インパラは、おそらくChevrolet Impalaでしょうか。

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これをロールスロイスのWraithに乗り換えた、要は成功したということですね。それにしてもロールスロイス大好きだな。

そして、お金を手にすると、忌み嫌う人たちも現れるけど、自分は家族を幸せにすることが出来たと自分の成功を誇っています。

母親には家を買い、その子どもたち(ミークの兄弟?)はプライベートスクールに通わせていると歌っています。ラッパーとして成功して得たお金をストリップクラブで湯水のように使うのではなく、自分の身の回りの人を貧困から脱出させるために使っているミークの男らしさが見えてきます。

まとめ

ということで、2回に分けて、ミークの"1942 Flows"を解読してきました。

ドレイクとのビーフや、ニッキー・ミナージとのゴシップネタなどで、インターネットやメディアでの扱われ方に疲弊することもあっただろうミーク・ミル。

しかし、自分の現実の人生は成功しており、身の回りにいる仲間や家族を幸せにできているし、大好きなロールスロイスも買えている、インターネットやメディアでどう扱われたって、自分のハードワークが報われていることは変わりないし、リアルな人生を大切にするんだという姿勢が見えてきます。

今回解読してみて改めて思ったのは、ミーク・ミルは男らしくて、真っ直ぐで、マッチョで、ボス気質だなということです。それから、良い意味でドラッグ感がないというか、シラフ感が溢れるラッパーですよね。

コンシャスというよりは物質的でありながら、ドラッギーではなくて、リアルでマッチョイズムでハスラー気質(ビジネスして稼ぐぜ!)なラッパーって、王道なようで、意外と今の時代多くないのかなと考えると、ミーク・ミルのポジショニングが見えてきますね。

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