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シカゴの女性ラッパーによる、妊娠の中絶を選んだ母親のための歌。(Noname - "Bye Bye Baby")

昨年2016年のアルバムになりますが、Noname(元 Noname Gypsy)の『Telefone』に収録されている”Bye Bye Baby”という曲を紹介します。

Nonameはシカゴ出身の女性ラッパーで、本名はファティマ・ワーナーといいます。もとは詩人であり、図書館で詩の朗読をしていたそうですが、チャンス・ザ・ラッパーの作品への参加などを通じて、世間にその名が知られていき、2016年にサウンドクラウドで10曲入りのアルバムを無料公開しました。

Noname 『Telefone』(SoundCloud)はこちら

聴いてみていただくと分かると思うのですが、ああ、チャンス・ザ・ラッパーの周辺だなと分かる、穏やかで落ち着きのあるサウンドになっています。子守唄効果も抜群かと思われます。

ちなみに、Nonameですが、今年2017年の10月に来日ライブが決定しています。(チケットぴあ

そんなNonameの『Telefone』は、全体的に落ち着いているものの、内容はドープな曲も収録されています。

今回は、Noname自身がお気に入りの曲だとインタビューでも述べており、Shiho Watanabeさんもプッシュされていた「Bye Bye Baby」を解読してみたいと思います。

1バース目

まずは1バース目を読み解いていきたいと思います。

1バース目は、ある女性の視点から描かれています。

【英語】
Interview, interlude in the nude with my boo thang
Got the flu with the tea remedy for my boo thang
My baby needs some milk and honey
My baby needs some milk and honey

【日本語】
好きな人と、裸で幕間のインタビュー。
彼のために、お茶の治療でインフルエンザにかかったのよ。
私の赤ちゃんは、ミルクとハニーが必要。
私の赤ちゃんは、ミルクとハニーが必要なのよ。

「boo thang」というのは、「付き合ってはいないけれど好きな人」を意味するスラングです。言い回しがポエティックで意味が分からない部分もあるのですが、どのくらいその人のことを好きかを歌った後に、「My baby needs some milk and honey」と続きます。その好きな人との間に赤ちゃんを授かったものの、赤ちゃんは、愛情をかけて、世話をして、育てなければなりません。というのが一つの解釈です。

【英語】
I swear he love me
My tummy almost got ready
For biddi-baby spaghetti
And teddy bear in my window now

【日本語】
彼は私のことを愛してるに決まってる。
私のお腹はもうすぐビディ・ベイビー・スパゲッティのために準備万端。
それから、窓際にはテディベアを置いたわ。

ここも解釈が難しいため、まずはRap Geniusにつけられたアノテーションをもとにした解釈を書いてみます。

1バース目の主人公の女性は、先ほどの好きな人(「boo thang」)は、きっと私のことを愛していると信じています。biddi-baby spaghettiというのは、自分の赤ちゃんを可愛く呼んでいるのだと思います。赤ちゃんが生まれてくるのを楽しみにして、窓際にはテディベアを飾っているという描写です。

続いて、これは全く正しいかは分からないですが、僕の解釈を書いてみます。

主人公は赤ちゃんができたときに、産みたいという気持ちがあり、でも現実的には年齢や環境を考えると難しい中で、悩んだのでしょう。産みたいという気持ちから、将来を想像してテディベアを買ってきて窓辺に飾ったりもしましたが、最終的には堕胎手術の期限までに、中絶を選んだときの描写だという解釈です。

Nonameが中絶した母子の間のラブソングだと発言していることからも、「almost got ready」という歌詞からも、その方が整合性が取れるかなと思います。その場合は、以下のような和訳になります。

【日本語】
私の赤ちゃんは、私のことを愛しているに決まってるわ。
ビディ・ベイビー・スパゲッティのために、私のお腹が準備万端になるまで、もう少しのところまで悩み抜いたのよ。窓際にはテディベアだって置いたわ。

【英語】
Golden child, always smile
Before you leave, don't look down
God will help you spread your wings

【日本語】
きらきら輝く私の子、いつでも笑っていてね。
あなたが去ってしまう前に言っておくわ。
下を向かないで。神様は、あなたが翼を広げるのを助けてくれるわ。

ここでは、天国に旅立つ赤ちゃんに向けて、いつでも笑っているように、下を向かないように、神様が天使にしてくれるから、とエールを送っており、中絶を選んだものの、赤子を天国に送り出すように、最後まで大切に思っている様子が描かれています。

2バース目

続いて、2バース目を読んでいきたいと思います。

【英語】
Ask me why she said goodbye
Why baby dyin' white walls
Cigarette's over skyfall
Writing this life, this my song

【日本語】
どうして彼女はさよならを言ったのか、僕に訊いてよ。
どうして赤ちゃんが白い壁の中で死んでいくのか。
スカイフォールを覆うタバコ。この人生について書いてる、これは僕の歌だ。

彼女というのは、1バース目の女性のことです。ということは、2バース目は、堕胎手術を迎える赤ちゃんの視点から歌われています。

【英語】
Ask me why she hesitated
Almost waited, waiting room
Play date up to heaven soon

【日本語】
僕に訊いてよ、何で彼女がためらったのか。
待合室に足を踏み入れるのを躊躇したのか。
もうすぐ天国に遊びに行く約束をする。

ここでは、1バース目の主人公である母親が、中絶のために病院を訪れたものの、待合室に入るのをためらった様子が描かれています。その理由は何なのか(僕は知ってるから)僕に訊いてよ、とお腹の中の赤ちゃんは歌っているのです。

【英語】
Soon I will see the King
He reminds me
Some give presents before they're even ready

【日本語】
もうすぐ僕は王様に会う。
王様は、僕に思い出させてくれる。
まだ準備が出来てないときにプレゼントが渡されることもあるんだって。

王様とは、天国の神様のことでしょう。

赤ちゃんは中絶の手術を経て、1バース目で母親が歌ったように天使になって、天国に行くわけですが、そこで神様に会うと、神様は赤ちゃんに思い出させてくれるのです。

何を思い出させてくれるのかというと、母親は、決して妊娠を嫌って中絶したわけではなく、お腹の中の自分の子どもを愛していたけれど、まだ子どもを育てられるような環境ではなかっただけなんだよ、ということです。

【英語】
I could see that she loves me
I know her heart is heavy

僕には分かるんだ、彼女は僕のことを愛してる。
彼女の心が重いのだって、分かってるんだよ。

赤ちゃんは、妊娠によって自分が生命を授かったことを、母親が疎ましく思って中絶することを選んだわけではないことを知っています。今はまだ産んで育てられる環境や年齢ではなかったから中絶を選んだものの、母子の間には確かに愛情があったことを、母親も赤ちゃんも、どちらもしっかりと分かっているのです。

Nonameはどうして「Bye Bye Baby」を書いたのか

改めて振り返ってみると、「Bye Bye Baby」は1バース目が母親の視点、2バース目が赤ちゃんの視点から描かれている、母子間のラブソングです。

Nonameは、どうして、このような曲を書いたのでしょうか。『FADER』のインタビューでは、以下のように述べています。

What I tried to do is make a love song for them. I feel like whenever I hear people talking about abortion, they typically take the love out of it, as if it can never be a loving act — as if it’s only done out of hate or desperation. I know women who have gone through that experience. And there hasn’t been like, a song for them, or a moment of catharsis and healing for them in music. There probably is — there’s so much music — but I haven’t heard it, especially not in hip-hop. I want them to be able to have this because there’s been songs that have been healing for me in other ways. That shit was just important to me as a woman, as someone who cares about these women.

「私が試みたのは、彼女たち(中絶を選んだ女性とその赤ちゃん)のためのラブソングを作ることよ。私は、みんなが中絶について話すのを聞くと、その会話がいつも形式的なもので、そこから愛という要素が取り除かれているように感じていたの。それはまるで、中絶という行為が愛から選択されることは決してなく、嫌悪や絶望から選択される行為でしかありえないといったように語られるの。私は、そのような経験をした女性を知っているわ。でも、彼女たちのための曲、彼女たちにカタルシスや癒しを与えるような音楽というのは、これまでになかったのよ。あるいは、どこかにはあるのかもしれないけれど、少なくとも私は聴いたことがなかったの、特にヒップホップというジャンルではね。私は、自分を他の面で癒してくれる曲には出会ったことがあるわ。だから、彼女たちのような中絶を経験した人たちにも、癒しになる曲を持っていてほしいと思ったの。そうした中絶経験がある女性の癒しになる曲というのは、女性である私にとって、そしてそれらの女性のことを気にかける私にとって、本当に大事な曲だったの。」

Nonameは、愛のない行為として、あるいは時にあまりにも客観的に語られがちな妊娠の中絶について、一番思い悩んで傷ついているのは、中絶を選択した女性本人だということを知っていて、そのような女性を癒すための曲をつくったということです。

このような歌詞は、Noname本人も述べているとおり、ヒップホップではあまり存在しないでしょう。感性豊かな若い女性の視点から、リアルで等身大なテーマを選んで歌う、Nonameの魅力が詰まった一曲だと思います。

【参考】
Ele-King Album Reviews Noname - Telefone
FADER Noname Sincererly
シカゴ出身の女性MC、ノーネームに思うこと。
Rap Genius - Bye Bye Baby

「この曲を解読してほしい!」といったリクエストを募集しています!raq.reezy@gmail.comまで、メールでお送りください。

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