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ニューヨークの鬼才A$AP Rockyが歌う孤独とA$AP Mobの誇りを読む(A$AP Rocky - "A$AP Forever" feat. Moby)

A$AP Rocky

今回は、A$AP Rockyが4月に公開した「A$AP Forever」を解読していきたいと思います。

今さら説明不要かと思いますが、まずは少しだけA$AP Rockyの説明をします。

A$AP Rockyは、ニューヨークのハーレム出身のラッパーであり、A$AP Yamsが始めた「A$AP Mob」という集団のメンバーです。

2011年に『Live. Love. A$AP』というミックステープと、"Peso"という楽曲のミュージックビデオでブレイクし、A$AP Mobを世間に広めました。

A$AP Rockyは、ニューヨークのシックなカッコよさと、クラウドラップやチョップド・アンド・スクリュードなどの当時の新しい音楽性、自身のハイブランド好きなどのキャラクターを掛け合わせることで、独特な浮遊感と高級感のある世界観を作り出すことに成功しました。

その後は、2013年に発売した『Long. Live. A$AP』、2015年に発売した『At Long. Last. A$AP』がともにUSビルボード1位を獲得するなど、快進撃を続けています。

日本で撮影された「L$D」のビデオは、日本をこんなに幻想的に撮影できるのかという意味でも衝撃でした。

そんなこんなで、シーンの中でもキャラクターが立っており、次のアルバムが楽しみなA$AP Rockyですが、4月に新曲のミュージックビデオ、その名も「A$AP Forever」(意訳:A$APよ、永遠に)が投稿されました。

それでは、内容を見ていきましょう。

イントロ(A$AP Rocky)

まずはイントロです。

Gang! Gang! Gang!
They talkin' down on my name, don't let 'em run off with the name
Man I just run with the gang, A$AP boys came with the flame
Gang! Gang!
They talkin' down on the gang
They wanna rep with the name but this ain't no regular name

【意訳】
俺たちはギャングだぜ
あいつらは俺の悪口を言ってる、俺たちの名前を盗ませやしない
俺はこのギャングと走り抜けるぜ、A$APの奴らは炎とともにやってきたんだ
俺たちはギャングだぜ
あいつらは俺たちの悪口を言ってる
あいつらはA$APを名乗りたがってるけど、これはそこらの奴らのための名前じゃねえんだ

ここでは、A$AP Mobについて悪く言う人たちがいることや、A$AP Mobの名前を利用したがる人たちがいる様子が歌われています。

A$AP Mobというのは、A$AP Yamsという人物が始めたクリエイティブ集団のことで、A$AP Rockyが今回の曲で「ギャング」と表現しているのは、このA$AP Mobの仲間たちのことです。

A$AP Mobのメンバーは、A$AP Rocky、A$AP Yams、A$AP Ferg、A$AP Antなど、A$AP ○○といったネーミングになっています。それを真似して、A$APの名前を勝手に名乗るラッパーたちを牽制しています。

Gang! Gang!
They tryna run with the name
I might pull up with three K but I do not fuck with no Klan

【意訳】
俺たちはギャングだぜ
あいつらは「A$AP」の名前を盗んで逃げようとする
俺はAndre3000に並ぶほどの位置にきた、KKKとはつるまないぜ

3Kというのは、「3 Stacks」のあだ名で知られる、Andre 3000というラッパーを指しているのではないかと推測されています。Andre 3000は、アメリカのヒップホップシーンの中心に、南部のアトランタから飛び出した、伝説のヒップホップデュオ、Outkastのラッパーでした。

今でこそ、アトランタや南部発のトラップ・ミュージックなどがヒップホップシーンを席巻していますが、当時はヒップホップといえば東海岸(ニューヨーク)と西海岸(カリフォルニア)だったのです。

A$AP Rockyは、自分がそうしたレベルに達したと述べた上で、Andre 3000を指すのに使った「3K」と言う表現から、「KKK」を連想させて、「KKKとはつるまない」と述べています。KKKは、ヒップホップを聞く方ならご存知だと思いますが、Ku Klux Klanというアメリカの白人至上主義の集団です。

サビ

さて、続いてサビの内容を見ていきたいと思います。

Gang! Gang!
Them boys not flexin' the same
I'm done with adjustin' to fame, pull up on your set, leave a stain

【意訳】
俺たちはギャングだぜ
あいつらは粋がっているけど、俺たちとはまるで別もん
名声にあわせて動くレベルはもう通り過ぎた
お前らのセットを襲撃して、染め上げて帰る

フレックスというのは、自分がイケている様子を見せびらかすことで、今の若いラッパーたちは、主にInstagramでフレックスします。多くのラッパーがフレックスする時代の中で、A$AP Rockyは自分たちのクルーであるA$AP Mobは一味違うフレックスを見せていることを訴えています。

A$AP Mobは、ファッショニスタのA$AP Rockyをはじめ、クリエイティブな集団であり、低俗なフレックスとは格が違うということを歌っているのでしょう。

また、名声を求めるために世間にあわせて動くフェーズはとっくに終わっている(勝ち上がっている)と自信を伺わせています。

Gang! Gang!
I tell her come fuck with the gang
I tell 'em don't fuck with the gang, it's time to fuck up the whole game!

【意訳】
俺たちはギャングだぜ
俺は彼女に言う、俺たちと遊びに来いよってね
俺はあいつらに言う、俺たちに絡むなってね
このゲームをめちゃくちゃにしてやる時間さ

女性をクルーとの遊びに招き、めんどくさい野郎どもは、あっちにいけ!という、ゲンキンな様子が見てとれます(笑)。

バース

Come fuck with the Mob, shout out to the Lords and the Gods
In love with my bitch 'cause she bi
My ice like the stars, I tell that bitch, "Cover your eyes
Cause fuckin' with me, you go blind"

【意訳】
俺たちA$AP Mobとつるみに来いよ、神々に感謝を捧げるぜ
俺の女はバイセクシュアルだから、俺は彼女のことが大好き
俺の宝石は星のように輝く、俺は女にこう言ったんだ
「この宝石で目を覆いな、俺とヤると目の前が真っ暗になるから」

バースに入ると「A$AP Rockyだから許される」、キザな言い回しが続きます(笑)。

まずは、彼女がバイセクシュアルだから、3Pを楽しむことができるというモテ自慢。

そして、セクシーな言い回しによる宝石自慢(笑)。

She losin' her mind, we kiss to Frank Ocean and Blonde
Convincin' my bitch to go blonde
Was born in the dark, I can't even open my blinds
On Yams and that's word to my mom

【意訳】
彼女は我を忘れて、俺たちはフランク・オーシャンの『Blonde』にキスをする
俺の女に、髪の色をブロンドにしろよって説得してる
暗闇の中で生まれた、現実に目を開くことができない
ヤムズのことさ、この言葉は俺の母親に送るぜ

フランク・オーシャンは有名なR&B歌手であり、『Blonde』は彼の最新アルバムです。つまり、ここではフランク・オーシャンへのエールを送っています。

ちょうど「A$AP Mob」がニューヨークのハーレムから出てきた頃に、同じく西海岸のカリフォルニアからカムアップしてきたクリエイティブ集団がタイラー・ザ・クリエイターが率いる「Odd Future Wolf Gang Kill Them All」であり、フランク・オーシャンは、そのメンバーの一人でもありました。

その後、フランク・オーシャンはロンドンにいるA$AP Mobとつるんでいた時期があるようで、二人は仲が良いようです。曲での共演もいくつか見られます。

また、フランク・オーシャンはゲイであることを公言しているアーティストでもあり、先ほどからのA$AP Rockyの自慢話の中では、彼の性的マイノリティへの寛容さもナチュラルに表現されています。

暗闇の中で生まれたというのは、ニューヨークのハーレムで生まれ育ったことを表しているのでしょう。

現実に目を開くことができないというのは、その次のラインのA$AP Yams(ヤムズ)についての部分に続きます。A$AP Yamsは、A$AP Mobの創始者ですが、ドラッグのオーバードーズで亡くなっています。

Margiela Mad Man with cases I'm still tryna beat
A bunch of shit from a long time ago
The bigger they are, the harder they fall
Like dominos, nigga, Geronimos

【意訳】
マルジェラ狂いの男さ、未だに勝つべき裁判を抱えてる
前からのクソみたいな件がいくつも続いているんだ
大きな成功ほど、落ちるときは過酷だろうな
ドミノみたいにな、Gerominoさ

続いて、自身のファッション好きが表現されています。

A$AP Rockyは、様々なハイブランドを着こなしますが、メゾン・マルジェラ好きは、過去にも何度も表現されています。

それから、成功と裏表の苦悩についても歌われています。

お金持ちになると、お金を手に入れるために絡んでくる人間が増えるようで、A$AP Rockyは過去に数度、理不尽な訴訟を起こされています。

たとえば、2013年にはアメリカのフェス「Made In America」でステージから降りて観客の中に入っていってパフォーマンスをしたときに、女性から「ビンタをされた」として約750万円の損害賠償を求める訴訟を起こされました。

それから、2016年には引っ越しをしたときに、借りていた古いアパートの大家から、建物を傷つけたとして、約1,000万円の訴訟を起こされています。

また、多くのピースを並べたドミノほど派手に倒れるように、自分のように大きな成功を納めたアーティストほど、落ちるときも派手だということを自覚しています。「Geromino」というのは、アメリカの軍隊がスカイダイビングをするときの掛け声のようです。

When it's my time to go, adios, vamonos
Flacko no Dominicano but eat the tostones with platanos
Dealing with life and its highs and lows
I'm just pimpin' like I'm supposed

【意訳】
俺に落ちる順番が回ってきたなら、「アディオス!さようなら」って感じさ
フラコはドミニカ人じゃねえけど、ドミニカのやつらとtostonesを食うぜ
人生の絶頂や谷底をうまくやり過ごす
俺は、やるべき商売をしてるだけさ

A$AP Rockyは、成功が永遠に続くものではないと受け入れているようです。自分の番になったら、楽しく落ちていってやるという気持ちが見えてきます。

そして、ドミニカ系の人たちとtostonesを食べるという、貧しい生活にだって慣れているということを再認識させています。A$AP Rockyは、ニューヨークのハーレム出身で成り上がったハスラーなのです。

ちなみにtostonesというのは揚げ物の料理です。

画像1

(画像はThe Noshelyより)

I guess it's called livin', shit I suppose
I'm on my live alone, die VLONE
You talk about spending or buyin' clothes
I'm 'bout my business but I'm alone

【意訳】
これが「生きる」ってことだろうな、そんなもんだろうと思うぜ
一人で生きて、一人で死ぬ、VLONEとともに
お前たちは服を買う話ばかりしている
俺はビジネスで服をやってる、それでも孤独さ

「live alone, die alone(人は一人で生きて死ぬ)」という言い回しをもとに、die VLONEと似た響きの言葉を持ってきてワードプレイをしています。VLONEというのは、A$AP Rockyがオーナーをしているファッション・ブランドです。

I still had the vision when I was broke
Fuckin' on bitches and foreign hoes
Flyin' out womens to borin' shows
I pray to God I don't overdose

【意訳】
俺には貧しい頃からビジョンがあった
ビッチや外国の女とヤるってな
女性をつまらないショーに連れて行く
俺は神に祈る、オーバードーズで死なないようにってな

A$AP Rockyは貧しい頃から野望を持っていたようです。

そして「オーバードーズで死なないように祈る」という表現から、A$AP Yamsの死は、やはりA$AP Rockyの心に影を落としていることが読み取れます。先ほどから歌われている孤独を感じるようになったのも、A$AP Yamsの一件があるのでしょう。

I put A$AP on my tat
I put New York on the map
I put the gang on the flame
They gon' remember the name

【意訳】
俺はA$APのタトゥーを入れて
ラップの業界地図にニューヨークを加えてやるぜ
俺はA$AP Mobを燃え上がらせて
永遠にその名前を忘れないようにしてやる

しかし、いつまでも孤独に浸ってはいられません。

残ったメンバーとA$AP Mobを盛り上げて、その名前を残していくために戦い続ける決意を見せています。

また、ヒップホップといえばニューヨークを発祥の地としていますし、過去にニューヨークからは偉大なMCがたくさん出てきましたが、最近はアトランタなどアメリカ南部の音楽がヒップホップシーンを席巻しており、ニューヨークは少し影が薄くなっています。

そんな中でニューヨークのカルチャーを身にまとった、新世代のクリエイティブ集団として、ラップの業界地図の中に、もう一度ニューヨークをしっかりと復活させてやるという熱いラインが綴られています。

たしかに「新しいニューヨーク」を背負っているのは、A$AP MobやJoey Bada$$でしょう。

【合わせて読みたい】
Joey Bada$$の至高のバースを解読する。(XXXTENTACION -"infinity(888)" feat. Joey Bada$$)

They robbin' boys for the chain
I got Goyard by the sack
I got the boof by the pack
I fucked your boo in her back

【意訳】
チェーンのために俺から盗みを働く
手提げ袋はゴヤールさ
パックでマリファナを持ってるぜ
バックでお前の女とヤったぜ

Goyardも、パリのブランドで、カバンなどをつくっています。

ということで

おしゃれなA$AP Rocky節が感じられる内容になっていました。

今回は、"I put New York on the map"(ラップの業界地図にニューヨークを加えてやるぜ)というラインが、特に心に残りました。

2015年以来、アルバムは出ていないA$AP Rockyですが、今年に入って、曲をいくつか公開しており、アルバムも製作が進んでいるようで、とても楽しみです。

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