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ケンドリックに起用された北カリフォルニアのハードなギャングスタラップを読む。【前半】(SOB x RBE - "Paramedic!")

見事にビルボード1位を獲得した『Black Panther The Album』。

本作は、映画「ブラックパンサー」の公式サウンドトラックという位置づけで、現代を代表するラッパーとなったケンドリック・ラマーの仕切りのもとで製作されました。

ケンドリック・ラマーのレーベルTDEの仲間であるSZA、ScHoolboy Q、Ab-Soul、Jay Rockなどの面々に留まらず、アメリカのブラックミュージック界全体からもFutureやAnderson .PaaK、Travis Scott、The Weekendなど豪華な面々が勢揃いしています。

また、アフリカの音楽性を再現するために、Yugen Blakrok、Sjavaなど、アフリカのアーティストも参加しており、さらには、一緒にツアーを回っているJames Blakeまで参加しているという大盤振る舞い。

今回は、そんなアルバムの中から、北カリフォルニアでカミングアップ中のラップ・グループであるSOB X RBEを起用した"Parademic!"を見てみたいと思います。

イントロ(Kendrick Lamar + Zacari)

イントロは、ケンドリックの前作『DAMN.』にも参加していたZacariが歌っています。

I am Killmonger
No one's perfect
But no one's worthless
We ain't deservin' of everything Heaven and Earth is
But word is, good, (this is my home)

【意訳】
俺はキルモンガー。
完璧な人間なんていない。だけど、価値のない人間もいない。
私たちは、天と地が与えるべき全てを与えられてはいない。
だけど、言葉は素晴らしい。(ここが俺たちの家)

ここはネタバレになりますが、キルモンガーは、カリフォルニア育ちの殺し屋で、ブラックパンサーの敵役として登場します。

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Images: Marvel

キルモンガーの父親はワカンダ王国の王家の血筋を引く国家スパイでしたが、自国以外の正義に関心を示さないワカンダ王国の在り方に疑問を呈し、ワカンダ王国の力の源であるヴィブレニアムをワカンダ王国から持ち出しました。それを当時の国王(主人公ティ・チャラの父親)に咎められますが、考えを変えずに、国王の部下を殺害しようとしたため、逆に殺されてしまいます。その結果、キルモンガーは父親なしで、憎悪を心に宿しながら、カリフォルニアのストリートで育つことになります。

この曲では、ケンドリックはこうしたカリフォルニアのストリート育ちの荒々しい心情を表現しようとして、北カリフォルニアの若手でハードなギャングスタラップをしているSOB X RBEを起用したのでしょう。

"Paramedic!"と救命救急士を呼ぶのは今回の映画のワンシーンでもあり、キルモンガーが映画内で初めて殺人を犯すシーンです。

Said no one's perfect, but no ones worth this
We ain't deservin' of everything heaven and Earth is
But word is, good (Northern California)

【意訳】
そう、みんな完璧じゃない。だけど、こんなひどい生活には似合わない。
私たちは、天と地が与えるべき全てを与えられてはいない。
だけど言葉は素晴らしい。(北カリフォルニア)

そして、完璧な人間はいないとして、キルモンガーへの理解を示しています

1バース目(Slimmy B & Kendrick Lamar)

1バース目は、主にSlimmy Bがラップしています。

Ayy, they better call a paramedic in the street
I got leverage in the street
I'm a California nigga and I'm heavy in the streets
.22 or .23, I'm heavy with the heat

【意訳】
ええい、あいつらはストリートに救急救命士を呼ぶべきだ
俺はストリートの生活にレバレッジをかけてる
俺はカリフォルニアの黒人だ、俺はストリートにどっぷり浸かっている
俺は22(ピストル)や23(レブロン・ジェームズ)みたいに熱さ(ヒート)にどっぷりと浸かっているんだ

救急救命士を呼べ、というのは、キルモンガーが映画内で最初の殺害を行ったシーンでもあるため、ここでもケンドリックは映画のシーンを連想させています。

22はピストルの種類で、23はレブロン・ジェームズの背番号のようです。レブロン・ジェームズは、NBAチームのマイアミ・ヒートで2回優勝を経験しています。

Hit you with this chop, paramedics can't save you (can't save you)
Really in field c'mon bro, I know that ain't you (no, it ain't you)
2018, hell naw, I ain't gon fade you
Gon' paint you, TDE and SOB, we can't lose

【意訳】
このチョップをお前たちに食らわせる、救命救急士もお前を助けられないぜ
本当にこの場所にいるんだ、分かれよ、お前はそうじゃねえだろ
2018年、まったくだね、お前をゆっくり倒したりしない
お前を血に染めてやる、TDEとSOB、俺たちは負けようがない

ここでは、自分たちのハードさをアピールしています。ストリートを演じているラッパーに対して、自分は本当にストリートにいるんだと。TDEはケンドリックのレーベルです。

Niggas bitch made
That's just somethin' I can't relate to (can't relate to)
Turn on the gang
That's just somethin' that I can't do (no, I can't do)
Fall out over a bitch
That's just somethin' that I can't do (no, I can't do)

【意訳】
弱いやつらばっかり、俺は共感できないね
ギャングを裏切る、俺はそんなこと出来ないね
ビッチのために仲違いする、俺はそんなこと出来ないね

ここでは、弱腰のラッパーに対して、共感できないと本音を漏らすと同時に、ギャングへの忠誠心も表現しています。

Rip every beat I get on, I was made to (I was made to)
This Glock get to growlin', somethin' like a black panther
Tryna touch a mil, fuck sayin "get yo bands up"

【意訳】
俺は飛び乗るビート全てを破っちまう、俺はそうするように作られたんだ
このピストルは唸り声をあげる、まるでブラックパンサーみたいに
1億円を手に入れようとしてる、"Get Your Bans Up"とか糞食らえ

どんなビートでもハードに乗りこなすことができるということをアピールしています。また、ブラックパンサーという単語を用いて、ブラックパンサーの唸り声のようにピストルを撃つという比喩を入れています。

"Gey Yo Bands Up"については、Lil Melがリリースした同名の曲や、Google Translate Lady feat. 21 Savageの同名の曲に対して、自分の方がラップがイケているという姿勢を示しているのではないかと推測されます。

Fuckin' with the gang, yeah, I had to man up
One fist in the air, I ain't finna put my hands up (gang!)

【意訳】
ギャングとつるんでる、そうさ、俺は困難に立ち向かわなければならなかった
俺は死んでも手を挙げるなんてしねえよ、拳をつきあげてやる
(ギャングだぜ!)

手を挙げるというのは、警察に銃をつきつけられて、手を挙げて無抵抗を示すということです。しかし、そうしたところで誤射されないとも限りませんし、その後どうなるかも分かりません。

生粋のストリート育ちであるキルモンガーであれば、手を挙げて降伏したりはしないでしょう。拳を突き上げて抵抗を示すということです。

サビ(Kendrick Lamar)

I wish a nigga would
I wish a nigga would, I wish a nigga would

【意訳】
みんながこうしてくれたら、みんなこうしてくれたらって思うんだ

2バース目(Lul G & Kendrick Lamar)

Got shooters tappin' in, nigga for them bands, nigga
West Coast niggas; yeah, they blowin' fans, nigga
I know I'm the man, baby, bring your friends with you
Puttin' points up while you in the stands, nigga

【意訳】
狙撃手とつるんでる、金のために動くやつらさ
西海岸の黒人たち、ファンたちを吹き飛ばしてる
俺は男だぜ、ベイビー、お前の友だちも連れてこいよ
お前がうだうだ証言している間に、金を稼ぐ

2バース目はLul Gがラップをしています。

金のために人殺しをするやつらとつるんでいると、自分もまたギャングの一員であることを歌っています。

But I be stuck in these streets, you in the background
Ever since they took my brother, gotta pack rounds
Sorry momma, two bales, took a bad route
I done got my bands up, a nigga stacked now

【意訳】
だけど、俺はこのストリートに縛られるんだ、お前たちを背景に従えて
俺の弟が殺されて以来、仲間を周りに置く必要があった
ママ、マリファナばかり吸っていてごめんよ、悪い人生の道を歩んでる
だけど俺はたっぷりお金を稼いだ、今じゃお金持ちなんだ

Lul Gは、弟がストリートで殺害されています。それ以来は、狙撃を恐れて、仲間を引き連れるようになったということでしょう。また、悪い道を歩んできたけれど、今はお金をしっかりと稼げているようです。

But we been still O.T. on that bullshit (on that bullshit)
I don't wanna have to do it, empty full clips (empty full clips)
Why these niggas talkin' robbin', they don't do shit
High Cali niggas tapped in, we'll cook shit

【意訳】
だけど俺たちは今でもクソみたいな現実のオーバータイムを生きてる
こんな経験をしたくはなかった、挿弾子を空にするまで撃つ
なんでこいつらはみんな強盗を語るんだ、何もしてないくせによ
カリフォルニアのハイなやつらで集まって、俺たちはこの現実を料理するぜ

しっかりとお金を稼いだけれど、まだストリートのゲームに縛られているというのをオーバータイム(延長戦)の中にいると表現しています。そして、それは望んだ経験ではないのだと。

Bust down on my neck, niggas reach, gettin' stretched
Rockin' with this TEC, niggas better wear a vest
Last year, I was broke, young nigga in the Crest
Now a show 20 or better, broke niggas keep the rest

【意訳】
俺の首にはBustdown、奪おうとしてみろ、殺してやる
TECとロックしてる、防弾チョッキを着てから近づきな
去年、俺は一文無しだった、Country Club Crestのただの若者だった
今では1回のショーで200万円以上を稼ぐ、貧乏なやつらは残りを持っていけ

Bustdownは、Lul Gが頻繁に言及するブランドです。

TECはTEC-9という銃です。

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Country Club Crestは、北ヴァレジョにある地区の名前で、SOB x RBEの出身地です。ヴァレジョはカリフォルニアで4番目に治安が悪くて危険な街だということです。

ということで

今回は前半をお送りしましたが、北カリフォルニアのラップグループのSOB x RBEの危ない雰囲気がひしひしと伝わってきます。このイメージを映画のキルモンガーと結びつけて曲に落とし込んだケンドリックも流石です。

後半も、引き続きお楽しみに!

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