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『アギ/鬼神の怒り』 これ観てみ! 忘れられたマイナー映画たち 第7回

『アギ/鬼神の怒り』 (1984年、日本)
 監督:早川光
 出演:益岡徹、伊武雅刀、中村久美、他

80年代に空前のムーヴメントを巻き起こしたスプラッター・ホラー・ブーム。
本作は日本映画でその一端を担った、記念すべき映画です。

早川監督は続いて
ビデオ作品『うばわれた心臓』や
『永井豪のこわいゾーン・戦鬼』『同2・怪鬼』で瞠目すべき才能を開陳しましたが、
その後はなぜかお色気路線へ転向し、
DVD化されたのは『けっこう仮面』という、
監督の個性が出ているとは思えないエロ・アクション映画のみ。

しかも早川氏はその後、なぜかミネラルウォーターや寿司の専門家/ライターと化し、
映画監督のイメージはほぼなくなりました

そちらの仕事は順調なようで、著書も多く、
テレビの冠番組まで持っていたりします。

しかし80年代当時は、
アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭の舞台挨拶にサムライの格好で登場して会場を沸かせたとか、
ヴェルナー・ヘルツォークら海外のコアな映画作家たちと親交を結んでいるとか、
いかついニュースの連続で大いに期待された俊英でした。

映画監督を廃業してしまったのなら残念という他ありません。

本作は、平安の都を舞台に、
人間社会を席巻する鬼の脅威を、
当時著しい発展を遂げた特殊メイク技術を駆使して描いたホラー。

今昔物語に題材を採りながらも、
日本の伝統的な怪談映画ではなく、
モンスター・ムービーのテイストを取り入れた現代性が特色で、
自主映画界出身の若い監督が時代劇で劇映画デビューしている所も斬新でした。

まずもって平安時代という、あまり映画では描かれない時代に挑戦している点、
にも関わらずワーグナーの音楽を全編に使っている点、
人から鬼への変身を見せ場にし、
鬼を一種の野獣か狼男のように描写している点に、尋常ではないセンスと才能を感じます。

さらにこの監督、
映像設計と俳優への芝居の付け方が卓抜で、
ベテランの監督が撮ったような安定感と味わいが画面の隅々に充溢。

今の目で観ても、アマチュアっぽい稚拙さや古臭さがあまりないのが凄いです。

鬼の造形に怪奇漫画家の日野日出志を起用し、巻上公一、天本英世、蜷川有紀、岡田英次と、ひとクセある配役も豪華。

続いて彼は、楳図かずお原作のビデオ作品『うばわれた心臓』を監督。

今度は現代を舞台に、
エリック・サティの音楽を使用し、
やはり血しぶき特殊効果をフィーチャーして凝集度の高い作品に仕上げていますが、
短篇のせいかやや食い足りない印象でした。

しかし同じくビデオ作品の『永井豪のこわいゾーン1、2』では、
『よみがえる闇』『吸血鬼狩り』という2短篇で図抜けた才気を発揮。

いずれもモノクロ画面の考え抜かれた構図で、劇映画並みの格調高さを獲得しています。

特に、吹雪に閉じ込められた山小屋で連続死が発生し、生存者が疑心暗鬼に陥ってゆく『吸血鬼狩り』は、
スリリングな心理サスペンス演出が見事。

古風なテイストのある『よみがえる闇』も、
ローマ国際ファンタスティック映画祭に出品されました。

日本映画は、後に『リング』や『呪怨』でJホラーのスタイルを確立しますが、
その文脈で語られる際に、
早川光というJスプラッターの革命児がいた事を忘れてほしくありません。

本作以外はビデオ作品ばかりですが(そしてお色気コメディも数作含みますが)、
早川作品の復権を願って、他作品も含めたデジタル化を強く希望します。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。(見出し画像はイメージで、本編のものではありません)

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