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『さまよう魂たち』 隠れた傑作、これいかに? 第3回

『さまよう魂たち』  (1996年/アメリカ)

 監督:ピーター・ジャクソン  
 出演:マイケル・J・フォックス、トリニ・アルヴァラード

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス製作総指揮、
マイケル・J・フォックス主演とくれば、
ネアカの派手なエンタメを想起するかもしれません。

しかし、本作の監督は『ブレインデッド』など苛烈なスプラッター・ホラーでカルト的人気を博し、
怪奇色の強い文芸物『乙女の祈り』(アカデミー作品賞にノミネート)を撮り上げたばかりのピーター・ジャクソン。

彼(以下ピージャクと表記)としては、
超大作『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで一気に売れっ子監督へと登り詰める前夜で、
そのせいか、どうも映画ファンから忘れ去られた印象のある傑作です。

しかし個人的には、彼の作品の中で最も(そしてダントツに)凄いと思うのが本作。

内容は、大人向けの過激な『ゴーストバスターズ』といった所で、
風変わりで痛快なホラー・コメディに仕上がりました。

SFXもリアルさより面白味が追求されていて、
ゼメキスの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と『永遠に美しく…』を足して二で割った感じかもしれません。

とにかく、この映画を見ている間の、
観客の感情の動きは実に複雑です。

ホラーからコメディ、コメディから悲劇、さらにサスペンス、アクションへと、
明確にではなく、微妙に揺れ動く感じ。

ダニー・エルフマンのたゆたう様な音楽と共に、情感が曖昧に浮遊して定まる事がありません。
それが作品に独特の奇妙なルックを与えていてユニークです。

冒頭からラストまで、山場また山場の脚本は秀逸。
それこそ息付く暇もない印象を受けますが、
特にクライマックス、
FBI捜査官、死神、幽霊将軍、主演の男女が入り乱れての死闘はすこぶるエキサイティング。

正に脚本家の腕の見せ所ですが、
あえて状況を複雑にして楽しんでいる風情もあり、
『ロード・オブ・ザ・リング』の戦闘シーンにも通じる、技巧派的な遊び心も感じられます。

編集もスピーディーで、
目まぐるしいカッティングの中にスロー・モーションを交えるサスペンス描写は、ほとんど芸術の域。

キャメラは激しく動き回り、アングルも奇抜そのものですが、
ダイナミックな動感が目立つ割に画調は繊細で美しく、
むしろB級映画的なアマチュアっぽさとは程遠い、ハイグレードな質感です。

それにしても、
夜の廃墟で執拗に追ってくる狂女を、
懐中電灯の明かりで表現するホラー・センスは抜群。

必死で逃げる主人公達の背後の壁に、
カットが切り替わる直前にいちいち、
狂った様な懐中電灯の光が踊りこんで来る演出はメチャクチャ恐いです。

キャスティングもアクが強く、
鬼気迫る狂女役で観客を震撼させるのはディー・ウォーレス・ストーン。
『ハウリング』『クジョー』でB級ホラー・ファンにはお馴染み、
一般的な認識では『E.T.』で子供達の母親を演じた女優さんです。

エキセントリックな捜査官を演じたジェフリー・コムズの漫画チックな芝居もブッ飛んでいますが、
連続殺人鬼の幽霊をパワフルに演じているジェイク・ビジーは、いつ見ても何かしら印象に残る人。
ゼメキスの監督作『コンタクト』では狂信的なテロリスト、
『ツイスター』では高慢な科学者の助手、
『スターシップ・トゥルーパーズ』ではヴァイオリンを弾く戦士などなど。

ピージャクは、本作の頃から既に母国ニュージーランドでの全面的映画製作を展開しており、
ロケーションの魅力も見どころの一つ。
急傾斜の丘陵が印象的な、特殊な地形の町並みは、
ハリウッド映画とは異なるトーンを映画に付与しています。

ゼメキス以下、音楽のエルフマンと特殊メイクのリック・ベイカーを除けば、
製作陣や脚本チームなど、ピージャク組の人材が勢揃い。

決して華やかな大作ではないですが、
これはもうB級映画のトップに立つ芸術品と言ってよく、
面白い映画に飢えている人にはお薦めの一作です。
公開当時あまり話題にならず、今や忘れられた存在なのが不思議なくらい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(尚、見出しの写真は全てイメージで、映画本編の画像ではありません)

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