女の夜

自宅であれ、職場であれ、

訳もなく追い出される事になって仕舞った多くの人達の大半は、

心の底から安らげる特別な、

唯一無二と思える自分だけの秘密の場所が欲しかった。

そんな何処にでもあるような、

そして何処かで一度は聞いた事もあるような、

他人からすれば本当にどうでも良い話かもしれないけれど、

渦中の身からすれば甚だどうでも良くないような、

凄まじいバックボーンを抱えている事が多い。

そしてその女も、後者に属するタイプの女だと、

いつの頃からか思うようになって仕舞った。

要するに、女を知ってからと言うもの、

私はこの女から目を離せなくなって仕舞ったし、

正直ここにいる時の女を見てると、

何故か、不思議と自分の心が安らぎ、

そのままでいても良いのだよと言ってくれてる気がして、、、。


とりあえず女について。

女の年齢は不祥だった。

幼く見える時もあれば、

枯れ果て朽ち、白眼剥いた枯れ葉おばけのような時もあった。

そして、一日中雨が降った今日の女は、

後者の、枯れ葉おばけのような状態だった。

女は椅子に座るとため息をつく。

知ってか知らずか、

店内の空気がこの時ばかりは少し淀むが、

直ぐに同じ状態に戻っても女は全く気づかないようだった。


乾杯。

女は一人呟くと美味しそうにビールを飲んだ。

ぐびぐびぐびぐび。

こちらまでぐびぐびぐびぐびと音が聞こえそうで、

私は自分の耳を疑ったくらいだ。

全く絶対あり得ない事なのにそれは不思議な感覚だった。

しかしそんなことを考える余裕はなかったし、ぶっちゃけどうでもよかった。

何故ならば、

ビールを飲んでいる時の女の喉は生気に満ち溢れ、

この時ばかりは、

ビールが大嫌いな私でも、

ビールを好きになりたいと思ったからだった。

でも私の身体は決してビールを受けつかなかった。

ビールが私を絶対受け付けないと思った位だ。

悲しいかな。

いくら努力をしても私はいつも惨敗だった。

ビールに飲まれて、理性を失い、

自分が一体何者なのかすら解らなくなって仕舞った。

しかしそれでも辛うじて、生きてるのは、

女がいつもビールに飲まれていたからだった。


初めだったの経験だった。

でも、今では、より多くの事を知った気でもいる。

この思いを女に伝えるには、

やはり、私がビールを美味しそうに、ぐびぐび飲む事。


とりあえず、腫れ物に触るように、

私は恐る恐るビールを頼んだ。

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