『性癖』を生み出す些細な出来事

 

はじめに

 みなさんが思うような下品な話は一切ありません。むしろ純粋無垢なある少年の話ですので安心して読み進めていただければよいかと思います。 
 以下「ある少年」が主語な文章が続くのでわかりやすくするために「ある少年」=「Rくん」として以下読み進めてください。※半分フィクション

登場人物編(Rくんへの取材①)

 中学3年生のRくんはちょっとだけみんなより早く進路が決まっていました。いわゆる推薦入試ってやつです。「推薦」って聞くと選ばれし者という響きがありますがRくんの場合は例外です。『推薦入試だけど一般入試も受けてね』という考えると同じ高校の入試を2回しなければならないというシステム。むしろ工程が2回になって推薦入試とは名ばかりのみたいな意味のないシステムです。

 進路が先に決まってた人はRくん以外にも7名ほど。7名のうち5名はスポーツ推薦。その5人は部活で結果を残して表彰されるほど。あの終業式とかで前に並び立つ人たち。ちなみに男2人、女3人。
※以下男A、女A、女Cの3人しか出てきません。
学校内でのスクールカーストはもちろん高いです。かくいうRくんは『無』。目立つような部活の功績もなく、とりわけ成績が良いというわけではないです。

 そんなほぼスポーツ推薦組で固められた人たちとRくん。この7人がある日の放課後、教室に集められたのです。学年主任と副担任。告げられたのは謝恩会の実行委員をやってほしいとのこと。Rくんにとっては寝耳に水。『え、なんか面倒くさそう』。直感でそう感じたようです。
※謝恩会について軽く説明すると、3年間お世話になった先生に感謝の意を表して、あくまで名目上は生徒たちが中心となって先生たちにありがとうという会です。
 なんとか委員会とかましてやクラス委員長というものに縁のなかったRくんはとまどいました。

地獄の始まり編(Rくんへの取材②)

 スポーツ推薦組の一人(男A)がとんでもないこと言い出しました。
「おい、Rが実行委員長やれよ~」

 「え!」と思う前にもうすでに黒板にRくんの名前がありました。その場にいた学年主任の先生も「はい決定」みたいなノリを醸し出しましたのです(学年主任の先生はそういうノリを大事にするタイプだったようです)
『ウェーイ』みたいなノリと拍手。Rくんは本気で嫌そうでした。そこから地獄の日々が始まったのです。

 学年主任はとっとと何やるか決めて言いに来てと言い放ち、若い副担任の先生とRくん含めて7人の生徒。学年主任の先生は結構怖い先生でその先生が来るとピリッとするみたいな雰囲気があったのがいなくなり、一気にざわざわ。若い先生は人畜無害みたいな顔だし怒った顔なんてみたことない。当然そのスポーツ推薦組5人は一気に騒ぎ出します。

 Rくんはおどおどします。
 しばらくしてそろそろ決めようみたいな雰囲気になり、スポーツ推薦組の一人は部活でキャプテン(女C)でした。さすがまとめるのが早い。
「え、何する~」みたいな感じ。なんとなく雰囲気は想像に難くないと思います。
「おいR、まとめてくれよ」みたいな声。そしてRは決めなきゃいけないことはこれとこれとこれあって~、はじめの言葉は誰が喋って~、終わりの言葉も決めないといけなくて~のようなことを話したようです。

女A編(Rくんへの取材③)

 その後スポーツ推薦組の一人(女A)が強めの口調でこう言いました。
『Rの喋り方うざいからなんとかして。直すか喋らないで』
 もうその言葉を聞いたときどうすればいいかRくんは頭真っ白。喋り方を治す? この喋り方しかないし、滑舌悪いのはしょうがないし、そもそもまとめるみたいな経験も今までないし、どうしようもないのです。だからRくんは喋るのが怖くなったようです。黙れば「おいRまとめろよ~」みたいな声。話せば、その女Aから真剣な眼差しで喋り方を指摘されるのです。まさに地獄。
 このような日々が2週間ほど続いたのです。客観的にみると「いじめ」に近いかもしれません。Rくんは小学校中学年でいじめにあっておりそれで学年集会が行われたこともあるといういじめられたことのある経験者です(滑舌が悪かったのは事実なのでいじめられる要素は十分にあったそうです)。  その時のこともフラッシュバック。副担任の若い先生は教室の暖房の上に座ってそのやりとりを眺めるだけ。ほぼ喋りません。

その後編(Rくんへの取材④)

 あとのことはRくんは覚えてないようです。人間、嫌な記憶は忘れていくというのは本当のようで、もうなんとか乗り切ったということしか残ってないのです。(委員長として終わりの言葉は言ったらしいです)
 ただクラスの担任だった人が『頑張ったね』と終わったときに言ってくれたのは覚えているようです。その『頑張ったね』に深い意味はなかったのかもしれませんがRくんにとってはずっと心に残ってる言葉のようです(Rくんはその先生に教師向いていると思うって言われたことがあるようです。残念ながらRくんは一度も教師を目指そうとも微塵も感じなかったようです)

 Rくんが中学生のわずか2週間辛かったというだけ。これでこの話は終わりません。

 実はRくん女Aのことが好きだったのです(中学生の恋愛感情なんて「好き」という感情というよりも惹かれていたという感じの方が近い)。このことがRくんをこじらせます。
 Rくんは3年生のとき女Aと同じクラス。喋ったこともそんなないし、ただただ眺めていただけのようです。何に惹かれたのかいうと笑った時の笑顔だったようです。本当に可愛かったらしいです。
 部活で優秀な成績で、女Aの性格は分け隔てなく明るいので結構男子から人気があったのです。今では死語の『かっこかわいい』。そんな人だったようです。
 そんな笑顔に密かに惹かれていたRくん。謝恩会実行委員会(という名前かはしりませんが)のときに言われた『Rの喋り方うざいからなんとかして。直すか喋らないで』という言葉。強烈に残ったようです。
 普通そんなことを言われたら嫌いになるのが当然です。ましてやその2週間。でもRくんは女Aさんを好きという気持ち(好きというか笑顔に惹かれていた)は揺らがなかったのです。

 小説ならここから物語が始まっていく予感。しかし、残念ながらそれからRくんと女Aさんが付き合って~みたいな恋愛展開は一切ありません。Rくんが女Aの復讐に燃える闇落ちもありません。その後連絡を取り合うとかいうこともなし。それ以降疎遠。今は何してるかもわからないようです。

「なにか」の誕生(Rくんへの取材⑥)

 しかしRくんの中では何かが目覚めたようです。
普通であれば、「嫌なことを言われる→嫌いになる」がごく自然な流れですが、Rくんは「嫌なことを言われる→嫌なことを言われても好き→嫌なことを言われるのが好き強い口調の女の人が好き」という性癖と呼ぶのにふさわしいものが誕生したようです(この辺り察してくださいとのこと)

 おそらくその女AはRくんのことを覚えてもいないでしょう。でも、Rくんにとって女AはDNAに刻み込まれたなにかが確実にあったことでしょう。

Rくんへの取材から考察

 何の気なしに言われた言葉が一方的にずっと心に残るというのはよく聞く話だと思いますが、何の気なしに言われた言葉が性癖をも生むという事例。
 そうでなくても自分(他人)が放つ言葉が一方的に誰かの心に深く残る、性癖(性格)まで変えてしまう可能性を秘めているということ常に頭に入れておいてほしい。

 幸いRくんは忘れるという能力が特化しているようで、小学校中学年の時いじめられて学年集会が行われたということも今ではほぼ忘れているらしいです。その時だけでなく「いじめ」に近い状況になったことは多々あります(鞄ゴミ箱に捨てられてる事件etc)がRくんの中では風化しているようです。

 しかし、自分(他人)が言った言葉がだれかを変えてしまう可能性を秘めているということを自身の身を持って体感したRくんは自然と言葉を大事にするようになったようです。今は本の編集者になっているようです。思えば奇しくも読書をするようになったのもその頃だと語っていました。

終わりに 

 昨今インターネットの発達等でいろんな言葉であふれかえっています。その言葉でその人を良い風にも悪い風にも変えてしまう可能性があるということを今一度覚えておいておくべきです。

 些細なことがきっかけで大きな事象の引き金になるとい「バタフライエフェクト」。それに近いものが『言葉』にもあるような気がします。

 ここまでRくんへの聞き取り取材を基にあくまでも事実をもとに書いてきましたが一種のフィクションです。

 ここまで読んでくれた方には感謝。思った以上に長くなってしまったようです。ほぼ推敲なしで一気に書いたので誤字脱字等、読みにくい点があったかと思います。失礼いたしました。
 ちょっと独特のタッチで書いてみるという試みも兼ねてます。

PS

『バタフライ・エフェクト』という映画があります。好きな人を救うために何度でも過去に戻ってやり直すという今ではいろんな作品にある設定ですが、名作です。
 単純に面白いですし、知っていると映画通ぶれるような気がします。未視聴の方は見ておくとよいかもしれません。

PSのPS

 名作といわれる作品のタイトルのオマージュの等、とにかくクスッとなる面白いそういう仕掛けをタイトルっていいですよね。今回書いていてなぜかなんとなく思い浮かんだ元作品タイトルはゲーム「ジサツのための101の方法」です。作品自体プレイしたこともないのですがタイトルがインパクトあって残ります。これに寄せようかなと思ったのですが、うまくいきませんでした。この場合「ジサツ」という言葉自体にインパクトがあり、「101」という数字にもなにか意味が隠されてるのではないかと、その向こうのストーリーを考えちゃいますよね。
 未プレイ、未読、未視聴の作品をタイトルだけで勝手にストーリーを考えてその後答え合わせっていう一人遊び面白そうだなと思ったり、しなかったり。今後のnoteの企画としてありかな。

「ジサツのための101の方法」
「『性癖』を生み出す些細な出来事」

 
韻は踏んでるような。性癖というワードが意外と弱いですね。

このゲーム知らない方は調べてみるのも一興。

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