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即戦力が欲しいを分解してみた¦多角的な視点

独身時代、人材派遣会社に勤めていた。取引先より「即戦力でいい人いないの?」耳に胼胝ができるくらい聞いた言葉だ。その言葉を真に受けた1年目の私は、「単価が高くても構わないので、とにかく!即戦力重視で!」と採用さんが好きな飲み物を持って、お願いしに行ったものだ。

即戦力の方を無事紹介でき、鼻の穴を膨らませて取引先に訪問すると、とんでもないことを言われた。「うちの会社のやり方に沿ってもらわないと困るよ!現場からはクレームの嵐だよ、どうしてくれるの!?」

クレームが起きた原因を考える。現場の声を聞かなかった、人事担当者が悪いのか。それとも詳しくヒアリングしなかった私が悪かったのか。今回は「多角的な視点」によってうまく収まった、という話をする。

人事担当者は現場を知らない

「派遣担当の分際で、人事の大変さがなにがわかる」と聞こえてきそうだ。怒らず聞いてほしいのが、100社以上の人事担当者とやり取りしてきた私だからこそ、少なからず断言できる。ただ、現場の悩みを真摯に受け止めている人事担当者も中にはいるもんだから、100%そうとはいえないのだが。

派遣担当の私が人事担当者と関わるのは、商談~人を紹介した後の数か月程度。その後は現場とやり取りを行うのだ。派遣スタッフの方と話を聞くなかで、人事担当者と現場とのギャップ、温度差はどこか感じていた。

人事担当者は現場と経営層の板挟み

本章のタイトルを見ただけで「あなたは現場を知っていない!」なんてストレートに立ち向かっては角が立つどころか、出禁になる。そもそも人事担当者の役割とは、苦しみとは何だろうか。

人事担当者は主に企業内の人材管理、育成、採用。さらに経営層とのやりとりも発生する。現場からは「人手不足だ!いい人を入れてくれ!」と急かされ、経営層からは「いやいや、そんなことより経費削減を考えろ!」と無理難題を突き付けられる。板挟み状態のいわば中間管理職のようなものだ。

現場が本当に欲しい人材は

現場の本音はずばり「無断欠勤せず、指揮者の言う通りに動いてくれて、マニュアルが読め、理解でき、企業色に染まることができる、若い人」が欲しいのだ。

人事担当の言う即戦力者とは、玄人のようなものをイメージしているかもしれない。確かに経験者であれば即戦力となるに違いない、と思うだろう。

現場をいくつも経験し、荒波に揉まれてきたのならば、プライドは相当なものだ。派遣された現場に経験年数の少ない年下上司がいたものなら、指示通りに従ってくれるのだろうか。実際に歯向かい、クレームがきた現場もあった。

誰が悪い、という話ではない。派遣スタッフの方も、真面目に仕事していただけだ。経験年数の浅い年下上司か、荒波に揉まれ酸いも甘いも噛分けた人物ならば、信用するのは自分自身だろう。

クレームがあった以上、上司に報告するのだが報告するやいなや「派遣スタッフを呼び出せぇ!!」となるのだ。いやいやそれは違う。そんなことしても誰も幸せにはならない。話がややこしくなるだけだ。

人事、経営層の懸念材料とは

採用コストだ。就職みらい研究所が発表する「就職白書2020」によると、2019年度の中途採用における採用単価の平均は1人あたり84.8万円との結果が出ている。参考:就職みらい研究所「就職白書2020

この金額は辞めなければ、の話だ。もし入っては辞めを繰り返すものなら、コストはかさみ続け、人事担当者への負担はさらに重くなる。

企業規模によって異なるが、規模が大きいほど採用単価の負担は増していく。すべての経営層が費用対効果を懸念し、シビアになっているのだ。育てている余裕はないと、人事担当者へ丸投げする。

採用手法の多様化は進んでいるものの、思うような人材がこない。募集を出してもエントリーが集まらない、だから人材会社にお金をかけるしかないのだ。

いち派遣担当ができること

「即戦力」「経験者」人事担当者はのどから手が出るほど欲しい人材だろう。しかし残念ながら流れが早い派遣業界は即戦力者をいつまでも待たせるわけにはいかない。こっちの都合もある。

無断欠勤しない人を集める

派遣担当の私ができることは、ただ無断欠勤しない人を集める、だ。クレームが発生した現場担当者からは「正直なところ即戦力はいらない、技術は後からいくらでも教えたる。ただ勝手に休まれたら教えるもんも教えられんだろ?」こう言われ、ぐうの音も出なかった。

せっかくの意見を無駄にしないためは。社内の採用担当者に出勤率の一覧表を出してもらい、採用リーダーと営業リーダーを巻き込み出勤率80%以上のみを迎え入れる。

そもそも無断欠勤する人は相手にしない。酷だと思うかもしれないが、どれだけ待遇をよくし、準備物など万全にして当日迎えても、ドロンする人はするのだ。「見抜く力が足りないだけでは?」そう言われたらそこまでだが、彼らは化けるのが超うまいのだ。

信じるのは行動が伴っている人のみ。採用担当者に協力してもらい、無断欠勤しないであろう人を紹介してもらった。

費用対効果のバランスを考える

人事担当者の意見を優先すると、どうしても費用がかさんでしまう。即戦力はいったん諦めてもらい、20代で(なるべく)休まず成長意欲のある人を中心に紹介するとコミット。もし採用途中で経験者が表れたら紹介する、という内容で合意をいただいた。

鉄は熱いうちに打て、人事担当者の熱が冷めないうちに社内の人脈をあの手この手でフルに使い、なんとか紹介できる方を確保した。

全ての人の想いを叶えてしまうと、ビジネスとして成り立たない。熱い情熱もいいが、時として冷徹なメスも必要なのだ。

現場の教育体制を整える

現場の方の負担を増やしてしまうのではないか、と躊躇ったのだが人手不足を解消するには、現場の協力は必須だ。むしろ教育体制を強化し、自社の力を強くさせれば派遣は使わなくて済むのだ。こんなこと言うと当時の上司に叱られそうだが(すでに叱られたが)、そもそも派遣を使うメリットは「業務の効率化」だと思っている。そうでなければ高いお金を出して外注するメリットはないはずだ。

自社雇用できず、教育できないから外注に頼るのではないだろうか。派遣会社としてはウハウハなのだが、果たしてそれでいいのか。双方のためになるのだろうか。で、あれば”教育”に力を入れた会社だったため、そこに着目し、現場と協力し合い教育体制を整える。

こんなことしたら派遣側のメリットはないのでは?と思うかもしれないが、そんなことはない。詳細は伝えられないが、利益を確保しつつ教育体制に注力する方法はあるのだ。

いち派遣担当のお節介は役に立ったのか?

取引先の採用コストは大幅ダウンし、人事担当者より「ありがとう」と言ってもらえた。現場担当者からは0から1までの教育方法が学べ、新人教育もうまく回せるようになったと。私の営業成績も…うふふ。

多角的に考える力はどこでも通用する

上司から「常識に囚われるな!」と言われたことがある。この本音は、利益を確保しつつ上司もおいしい思いをしつつ、リスクを考えつつ新しいことをあなたが代わりに考えておくれ。って意味なのだ。

多角的視点。インターネットで検索すると難しい言葉が出てくるのだが、相手の立場になってどこまで考えられるか、出た結果を実行するだけ。ただシンプルにこれだけ。取引先の中でも経営層、人事担当者、現場担当者。さらに細分化すると人事部の部長や課長、係長、担当者。それぞれが抱えている問題、悩み、それらをただ考え実行するのだ。

考えるクセを養うと、オンオフ問わずどこでも活躍できると思う。私は駆け出しフリーランスでまだまだ修行の身。これからも考えつづけていく。うむ!


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