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-幻奏家たちの食事- #2

「おお、Midoriが選んだ場所にしては珍しいじゃないか、でも素敵なところだね」

「ええ、いつもおじさまと外国でお食事する時は、床に赤い絨毯が敷いてあって、テーブルにゴシック調のロウソクが立ててあって....うふふ、でも最近はこういう場所にも来るの。オーケストラのメンバーの方が連れて来てくださった時に知ったのよ。いろんな職業の人も来るから、話をすると面白いし、店員さんももちろん英語が話せてね、仲良くなっちゃった。」

「そうか、私も好きだよこういうところは。昼間にコーヒーを飲むくらいだったけどね」

「おじさま、それで、最近のお仕事は順調ですの?」

「おお今日は、おばさんの方から余りそのことは触れないように言われていたんだがな。ほらお前の誕生日ということもあってな...だがもちろん順調だよ」

「私で良ければどうぞお話になって下さい。私、もっと音楽以外にもいろいろなことが知りたいと思うようになったの。」

「そうか、そういえば少し前にお前が空手を習い始めたとママから聞いたときは驚いたよ。手を怪我したら危ないじゃないかと心配もしてね。」

「空手はもう通ってはいないけどね、でも時間があるときは型は続けているの。私すっごくママに感謝しているわ。私がやってみたいって言ったら、ヴィオラを続けてきたことなんか、いままでなかったみたいに真っ先に道場を探してきてくれたの。ニューヨークでの話よ。ピアノの時もそうだったわ。

でも口癖は、”やめたいと思ったらいつでもやめていい” だった。勿論、いろいろやってみても、やっぱり私はこの楽器で、音楽をやっていきたいって思ってるわよ。でもそのあと、ママの言っていた意味が時を重ねるごとに深くなっていく気がして…あまりこんなこと、ママの目の前じゃ言えないんだけどね。」

「そうか、しばらく見ないうちにいろいろなことがあったんだね。もう立派な演奏家だしね。」

「うふふ、ありがとーうございます。でも日頃のおじさまの助言があって、ママも冷静になれていた部分はあると思うの。ものすごく情熱的な人だから。

…それはそうと、おじさま最近疲れているって言っていたけど大丈夫?ものすごくエネルギーを使うお仕事でしょ。私何となくわかるの。」

「ああ少しな、物書きの心はな、もともとみんな不健康さ。多少の差はあるがな。」

「あらそんなことはないと思うわ、少なくともおじさまの文章読んだり直接会って、こうして話していている私がいうんだもの。ピュアで、正直で、それでも忍耐強くないと出来ないお仕事だと思っているわ。」

「それだといいがな。最近疲れると言ったが...幻想が持つ危険な部分をよくわからないまま、価値観を押し付けるやつが多くてな、困ってるんだよ。」

「そうなの…なにがあったの?」

つづく

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