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Bach:Cello Suite 6 Gavotteのための覚書

中世のアムステルダムかブリュッセル、またはドイツの地方都市かもしれないが、石畳の小道とそれを取り囲む赤褐色の石造りの家並み。私は馬にまたがってその小道に迷い込んだ一人のはぐれた騎士だった。おそらくそこは、私の知っている土地ではないのだと認識し始めている。私は馬をゆっくり歩かせながら狭い小道をカツカツ音を立てて進む。

私は来たこともないこの町になぜか懐かしさを覚えている。
だが具体的な記憶がない。もしかしたら私が前世に訪れた場所なのだろうか。生暖かい風が私の首筋と膝のあたりをすり抜けて、私は喪失していた重要な記憶がよみがえる前兆のような感覚を経験していた。

よく整備されかつ生活感あふれる街なのに、人を見かけない、なぜだか考えているうちに、敵国が攻めてきているからだということに気づく。

私は急に心臓の鼓動が高まり、吐く息が肺の奥から出るリズムが大きく揺れ始めている。そして手綱を握り馬に走る合図をしていた。

数十メートル走ったところで、どこかで甲高い声がかわせれているのを耳にする。

子供だ。

私が進む道から横にそれた、わずか幅2mほどの小道の奥に家の集合している区画があり、日差しが注ぐ中庭がある。

その中庭で3-4人の子供たちが何か球技のような遊びをしている。

笑顔ではしゃいでいる。
彼らは敵国の接近に気づいていない様子だった。

私が危険が迫っていることを彼らに知らせるために、私が馬を降りようとしたその時だった。

敵の騎士を乗せた馬が走り、速いテンポでその蹄鉄がこの町の石畳をたたく音が聞こえたのだった。町の道は入り組んでいるものの、運が悪ければ子供たちに声をかける猶予もなく私は彼らに見つかってしまうだろうと感じた。

私の呼吸が体の奥にある得体のしれないけだるさに似たエネルギーのようなものによって、さらに早くなる。

私は、子供たちを見なかったことにして過ぎ去るか、彼らを急いでどこかにかくまうかの決断に迫られていた。

Photo: in Leuven Belgium, by Luk Bellens


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