ボカロラップ(だいたい)全史① プロローグ編

・前置き

 ニコニコ動画を中心として生まれたHIPHOPシーンは、日本語ラップシーンはおろかニコニコ内においても亜流中の亜流として扱われてきました。
 地域性(レぺゼン)を持たず、多様な音楽的アイデンティティを持つラッパーたちが集まった界隈は「ニコラップ」と呼ばれ、従来のHIPHOPとは一線を画す独特な発展を遂げました。

 らっぷびとやFAKE TYPE.のトップハムハット狂 a.k.a. AOが所属するクルーRainyBlueBellなど、歌ってみたシーンとも積極的に密接に結びつく「オーバーグラウンドな側面」と、人面兎やラップクルーの電波少女など、特異なスタイルを持ってオリジナル曲を中心に投稿していた「アンダーグラウンドな側面」という二つの顔がひとつのタグに集約し、混沌と化していたニコラップ。
 しかしニコニコ動画にはこれだけではなく、もうひとつのHIPHOPシーンが存在するのです。ニコ動コンテンツの顔ともいえるVOCALOIDを用いたヒップホップ、あるいはラップ調の楽曲(以下、ボカロラップ)も、さまざまな音楽ジャンルと結びついたボカロ音楽の派生ジャンルとしてひっそりと生まれ、じわじわと拡大していきました。

 しかし同じ土壌で育ったニコラップとは違い、ボカロラップには「ボカロラップ」と「ミックホップ」という同じ音楽性ながら二つのタグが存在しているのです。

 ぼく自身、ボーカロイドとHIPHOPの文脈を折衷した音楽を作るボカロPとして活動していますが、動画投稿時はその二つのタグを同時に付与することがほとんどです。おそらくは他のボカロPたちも無意識のうちに同じことをしていると思います。
 しかし改めて考えてみると、ボカロ音楽にとって楽曲のジャンルを定義づける意味でも重要なタグを、何故わざわざ二分するのかが分からなかったのです。おそらくそれ相応の"理由"があったはず……。

 このモヤモヤは自分の中でしばらく漂っていたのですが、ニコニコ動画公式が手掛けるボーカロイドの一大イベント、ボカコレにおける全曲リスナー(ボカコレ期間中に投稿された約4000曲を全てチェックする凄いボカロリスナーのこと)の活躍を拝見してこう思い立ちました。

 そうだ、ぼくも全曲聴こう!!

 2021年11月23日現在、「ボカロラップ OR ボカラップ OR ミックホップ OR VOCALAP OR ミクラップ OR MIKUHOP」と挙げられるだけの派生タグを検索して出てきた動画総本数は1,673本。4000曲聴いたボカコレ全曲リスナーたちに比べたら造作もない数ですね(麻痺)。おそらく以上のタグが付いていないボカロラップ曲はちらほら存在すると思いますが、探し始めたらキリがないので寄り道してる際に偶然発見したら聴く、ということにします。

 ボカロラップの歴史を辿りながらその系譜・文脈をわかりやすく編纂し、ターニングポイントとなったような楽曲を何点かピックアップして紹介したいと思います。また、当時ヒットした他のボカロ楽曲や流行したスタイル、あるいはUS HIPHOPや日本語ラップなどニコニコ外のシーンの動きとも照らし合わせながら独自に分析していきたいな~と。
 完全なる趣味なので、文献もインターネット上で公開されているサイトや記事、ブログ、あるいは個人のツイート等から拝借しながら執筆していきます。あんまり参考にならないと思うので、話半分に読んでいただけたら幸いです。

※ボカロPの個人名を挙げる際には敬称を省略します。あらかじめご了承ください。

・各タグの概要と発祥

 「ボカロラップ」とはそのジャンルを問わずVOCALOIDにラップを歌わせた楽曲全般のことを指し、HIPHOPはもちろんのこと、ラップ、あるいはラップ風の歌詞が込められたポップスなどもタグが適用されます。ざっくり言えば、mihimaru GTっぽい音楽もその範囲にあたるということですね。

 このタグの誕生は2008年3月ごろにまでさかのぼります。鏡音リン・レンの登場が一種のターニングポイントとなり、ボカロ×ラップに挑戦した動画は少しずつ増加していくのですが、当初は(おそらく削除済みの作品を含めて)数曲ちらほらと見つけられるのみで、ジャンルとして確立するような連続性はみられませんでした。
 しかしその状況を一変させるような出来事が起こります。同年4月2日にリリースされ、現在ではミリオン再生の大ヒットを記録した一行Pの「下剋上(完)」に投稿時からつけられていた「ボカロラップ」というタグが瞬く間に知れ渡り、以降はラップを取り入れたリン・レンのデュエット曲にその名称が定着するようになりました。

 その後初音ミクや巡音ルカなど他のVOCALOIDにも伝搬し、いつしかボカロラップはいちジャンルとして成立していった、という経緯があります。

 対して「ミックホップ」は既存のボカロラップから派生したいわばサブジャンルで、誕生したのも2014年と比較的新興のものです。中でもサウンドの方向性や歌詞の文脈においてHIPHOPからの影響を色濃く感じる楽曲にタグが与えられます。
 実はボカロラップ誕生と同時期から、ヒーリン(旧:ヒーリングP)tysPnak-amiPなど、主にアンダーグラウンドボカロシーンの中でこんにちのミックホップの原点となるような動きが既に生まれていたのです。当時はそれらの楽曲も「ボカロラップ」タグに振り分けられ、メインストリームとアングラが同居する前述のニコラップのような状態になっていました。

 その後時は流れて2013年下半期~2014年初頭。MSSサウンドシステムiNat松傘Toreroなど、今ではシーンを代表するボカロPが頭角を現しボカロラップ界隈がこれまでにない盛り上がりを見せて来ました。そして2014年3月20日、事件は起こります。その舞台はニコニコ動画ではなく、なんとTwitterでした。

タクマイル @Tacumille 2014年3月20日
おおおおおお願いします!!!(切実 RT @INDOPE_MSS: ミックホップってゆうタグ作っていいですか?

 こちらはドラムンベースやジャングルに造詣の深いボカロDJ、タクマイルとMSSサウンドシステム(現在はアカウント削除済)のやりとりです。このツイートをきっかけに、「ミックホップ」というタグが誕生しました。
 今まで聞いたことのない謎めいた単語に、タイムライン上でその様子を見ていたHIPHOPやクラブミュージックに精通するボカロリスナーたちが一斉に興味を惹かれて集ってきます。

渡辺いと @shunw 2014年3月21日
ミックホップですかwktk(*´∀`*) RT @INDOPE_MSS: 【拡散希望】ボカロでラップがあろうがなかろうがHIPHOP調の楽曲を発見したらミックホップタグをつけてください。浸透してきたらニコニコ大百科書きます

 翌日から発起人のMSSサウンドシステムを中心として潮流は大きくなっていき、過去に投稿された「ボカロラップ」タグの楽曲に「ミックホップ」タグが上塗りされていきます。

さぎし @sagishi0 2021年11月26日
@MonkOnTheCamel
ミックホップって自己言及ジャンルなので、定義ないんですよ

 ポエムコアやHIPHOPの楽曲を制作するボカロPであり、ミックホップカルチャーを長年支えてきたさぎしが言うように、当初から「ミックホップと思えばミックホップなんだ」という精神性によって確立されてきたジャンルでもあるので、HIPHOP的な批評精神や知識、アティチュードを感じる音楽であればラップのない歌モノでもその文脈に取り込もうという動きがありました。

 しかしHIPHOPであるか否かは本家本元でも長年議論され続けた課題。無差別にタグがつけられていく様子に難色を示した人々も含めて議論は長引き、ジャンルを象徴するアルバム「MIKUHOP LP」の登場やディス曲発表などさまざまな動きがありました。
 そのあたりはのちのち詳しく書けたらなと思います。

・まとめ

 いかがでしたでしょうか。今後シリーズ化して時系列ごとに整理して順次公開していきたいな~と考えているのですが、如何せん2014年あたりの動きが思ったよりも広範囲に行き届いているのですべてを回収できるかは分かりません。ぼくもライターでも評論家でもないズブの素人なので、情報不足や新情報などございましたら、やんわりご指摘いただけると幸いです。
 また、本来はボカロPとして活動している分気まぐれで更新が途絶えてしまう可能性があります。その時は「新作まだですか!!」とケツを叩いてくださればありがたいです。

 長くなってしまいましたが、今後ともよろしくお願いします!

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