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お客様がホテルと喧嘩

通訳ガイドのぶんちょうです。
ガイドの仕事は観光案内だけではなく、大小様々なトラブルに見舞われます。

ある朝、地方のホテルにお客様を迎えに行きました。ホテルのあるスタッフが、なぜかとても不機嫌そうでした。ちなみに一流ホテルです。

そして、このお客さんを何とかしてほしいとガイドの私に泣きついてきたのです。聞くところによると、チェックインの時、お客様に部屋の鍵を2つ渡したのに、一つしか受け取っていないの一点張りで、チェックアウトの今日、鍵を返却してもらえないのだと。

ゲストがとんでもない人だと言う主旨をものすごい剣幕でまくし立ててました。

なるほど、状況は理解。これは、まず両者を落ち着かせねばと思い「どんなタイプの鍵ですか?」とそのスタッフに尋ねました。

カードキーではなく、昔のタイプの鍵だそう。それは確かになくされると大変です。そして、万が一、本当に失くしたら一万円位請求させてもらうこともあるとのこと。なるほど。ホテルの言い分は理解できました。次はゲストの話を。

ホテルの人から、こう言う話を聞いたけど…と私がゲストに話しかけている時に、そのホテルのスタッフがゲストにちょっと話しかけようとしました。

するとお客様は、ホテルのスタッフからサッと逃げるようにして、その場を去りました。ホテルの人は「ほらね、あんな感じで話にならないんですよ」と。

これは、私が来る前に相当なバトルがあったなと想像できました。とりあえず、ここにいても仕方ない。出発するしかないので、ホテルには一応、カギが見つかったら連絡することを告げて、お客様6人と私はホテルから車で出発しました。

車内で、「ねぇ、あなたはこの件に関してどう思う?」とゲストから意見を求められたので、こう言いました。なぜか、シンとして私の意見に耳を傾けている様子が感じられます。

「私は事実を知らない。けれど、たとえ事実がどうであれ、あなたたちに、あんな風に感情的に接すると言うのはサービス業に携わる人間としては、感心できることではないと思うよ」と。

ゲストは、味方を得たと思ったのか、おー!と車内が沸きました。拍手したかどうかまでは忘れましたが、とにかくとても喜んでいました。

そうは言ったものの、お客様が鍵を失くした可能性も充分あるので、私の言葉でゲストがぬか喜びするのは、ちょっと違います。

これは、ほっとくわけにはいかない事なので、車内から、すぐに会社にそっと連絡です。1万円の請求が来る可能性があることも添えて。

さて、車内では「あいつはほんとイヤな奴だったけど、気分が切り替わったよ。今から楽しくやろう!今日はどこ連れてってくれるの?」とハイテンション。やれやれ。

その後、数日間、彼らと各地をツアーをして回っている時に、エイジェントから「鍵、やっぱりゲストが持ってたらしいです」と連絡が入りました。

最後に羽田空港へ送り、ゲストは国に帰りました。でも、彼らの口から鍵が見つかった話は、一言も出ず。まあ、あれだけ、大威張りでホテルの人に大声出して自分たちが悪くないことを主張していたので、私に言うのはバツが悪かったのかもしれないですね。私も、触れないでおきました。

このゲスト、他にも色々と小さな問題を起こしては、ガイドやエイジェントが解決してきました。しっかりしているようで、どこか抜けているゲストなので、実は受け取った鍵を自分で失くしただけだったと言うのもわかる気がしました。

色々、要求の多いゲストで空港で見送った時は、正直ホッとする気持ちもありました。終了後、ツアーエイジェントの代表が、すぐ電話してきて、いやあ、あのゲストはもう、悪夢だったよーと。

しばし、彼らの悪夢っぷりで話が盛り上がりましたが、その1時間後、貸与していたハイキング用のステッキを返却せずに帰国してしまったことが発覚。最後まで困ったちゃんでした。

一方、日本の方ではなかったですが、ホテルの対応も、ちょっとびっくりでした。結局、ゲストの間違いだったのでホテルにとっては災難でした。でも、両者共に感情むき出しでしたからね……。


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