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初仕事を振り返る

もう何年も前の話になるけれど、初めて通訳ガイドの仕事をしたときのことを振り返ってみます。どんな仕事も同じかもしれないけれど、ガイドも準備が一番大切です。

通訳ガイドというのは、ほとんどがフリーランスで、その多くが複数のエイジェントに登録して、そこから仕事をもらいます。初仕事は、すでにコースも決まっていて、それに従って都内を一日案内するというガイド初心者向けの仕事でした。

それまでの経験は、会社員と主婦と英語の時間講師の仕事だけです。一組のお客様と何時間もずっと一緒に過ごし、その間、英語で説明をし、電車で移動し、食事もする。そんな仕事うまくできるのだろうか、どきどきでした。

初仕事に向けて当然、準備をしっかり整えていきます。たとえば、行き先のひとつである建物も細かく細かく、どの入り口から入り、どう歩き、どう出るか、まるで映画の撮影をするかのように念入りにシミュレーションしました。もう大丈夫と思っても「初仕事でしくじったら二度と仕事は来ないよ」というガイド業界の伝説の言葉が頭をよぎります。

次に電車などの交通機関のチェック。お客様のホテルが決定すると、そこからの動線をすべて実際に確認し、どの車輌のどのドアから乗るのがベストなのか、そしてもちろん、降りた駅でまごつかないように何度も歩いて身体に道順を覚えさせました。

次に予定した食事処に下見に行き、メニューの写真を撮り、そこにあるものすべて、きちんと英語で説明できるようにしました。まだ見ぬお客様に、粗相なく最高のもてなしをしてあげようという、それだけの理由でした。

それでも突発的に何があるかわからないので、初日が近づくにつれ、気持ちが落ち着かなくなりました。大きな試験や面接の前と同じです。初仕事の前日には逃げ出したくなる気持ちになったという話はガイド仲間からもよく聞きました。初日の緊張感はどんなベテランも経験してきたことです。

そして当日、初めてのお客様はドイツ人のご夫婦でした。幸い何事もなく無事にツアーは終了。とても喜んでもらえました。人生初のガイド仕事を楽しいと思うと同時に、今まで味わったことのない達成感も感じることができたのです。これが、その先ずっと続く、天職と思えるようになったガイド仕事の初日でした。

その後、ガイドの仕事が日々のルーティンになりました。でも、デビュー戦のための準備のドタバタ、終わったときの感動の気持ちは、今では少し滑稽ながらも懐かしく思い出されます。

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