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アークナイツ 翠玉の夢 感想 1/2

挨拶


 こんにちは。
 アークナイツの動画と夢小説を吐き出す生き物です。
 今回はアークナイツ、ゲーム内イベント「翠玉の夢」の感想を書き連ねて いこうと思います。
 それにあたってある程度イベントの内容にも触れますが、基本は既にイベントを読み終えた人が理解でき、楽しめる読み物にしたいと思っています。

 それでは始めていきましょう。

まず初めに(マジで飛ばしていい)


 なぜわざわざ感想をこうした文章に残すのかというと、世に出回るこのイベントに対する感想の多くが自分の抱いたものと大きく異なっていたため、自分の物語消化能力とも呼べるものがおかしくなったのではないかという懸念が根底にあります。

 つまり、僕はそれだけ変なことを言っている可能性があります。
 人によっては考察と呼ぶに相応しいほど妄想や憶測の入り混じったものかもしれません。

 自分は考察とは「作中で提示された物事から未知の展開を予想すること」。つまり精度の高い未来予知であり、推理とも呼べる行為だと思っています。
 対して感想とは「作中で提示された物事を自分で消化すること」。つまり既に終わった物語に対する意見の一つであり、個人の主観を多分に含むものです。

 要するに。
 この感想記事は、妄想多めのテイストでやっていくということです。

 ともかく、この記事には主観が入ります。
 また、出来る限りゲーム内での表記・表現に則った記事を書きますが、文中と感想の部分である程度噛み砕いた言葉で意訳した部分があります。

 最後に、自分はユーザーはゲーム体験を損なうべきではないと思っています。特にアークナイツというゲームはストーリーも立派なゲーム体験の一部だと強く思います。
 何が言いたいかと言うと、ゲーム内で翠玉の夢のシナリオを読んでから読んでくださいねってことです。

 この記事は読了後の感想交換会的な意味合いが強く、全然知らない人が手放しで楽しめる記事ではありません。ネタバレどころの騒ぎではないですからね。
 特にこのイベントストーリーは格別面白い。アークナイツは質の高いストーリーをオールウェイズ提供してくれる。まだ読んでない人は読みにいきましょう。

 誰かの意訳と翻訳で満たされたものは純粋なゲーム体験ではないのです。
 何のバイアスもない状態でイベントを読んでから、この記事も読んでコメントしてください。

ストーリー概略

基本設定

 舞台はクルビア。
 この国を一言で表すならば「お金があれば何でも買えるが、お金がなければ何も手に入らない国」
 資本主義・競争主義・実力主義。そんな言葉が中心かな。
 街並みは綺麗で先進的で、高層ビルが立ち並び、近代的なオブジェが品の良い景観を添え立てる。平均的な教育水準も高いし、文明も発展しているし、衛生的にも住み易そうだ。

 でもクルビアは「能力の高い人間」にとって住み良い国というだけであり、決して万人が住みたいとは言わない国だろう。

 毎日何百という企業が興り、何百という企業が斃れていく。仕事が出来るか出来ないかが人生の大きなウェイトを占めていて、学がないものや脱落した者には冷たく手厳しい。
 テラの世界はどこもかしこも色々な問題を抱えているが、クルビアは特に現実世界からも想像のしやすい歪さを持つ。現実世界の負の局面を増大させたらそのまんまクルビアって感じ。
 例えば現実世界であれば、競争社会からの脱落は地方生活の始まりを意味することが多いが、クルビアでは死あるのみである。おまけに感染者になると保険という名の莫大な借金が課せられ強制的にハードゲームが始まる仕様。地獄か? よくこんな国で働こうと思えるね君達。

 その中でもライン生命は大手企業だ。
 福利厚生しっかりしていて、高給貰えるメガカンパニー。事業の手も幅広く、イベントPVで示されたように医療機器の開発から調剤・軍需・メカニクス・環境資源・自然調査・警備・流通という単社でほぼほぼ全ての民需を満たしそうなほどの手の広げよう。ざっくり言うならトヨタとニンテンドーと武田薬品とダイキンとSECOMと黒猫ヤマトが合わさった超ムキムキつよつよ企業みたいなもんである。うーん化物。

 さて、この話はそんなライン生命に大きくかかわるお話。
 ライン生命エネルギー課の主任フェルディナンドくんが、ライン生命の総括(社長、一番偉い人)の座を奪い取ろうと暗躍しているという情報を、ライン生命生態課の主任ミュルジスちゃんが掴み、ロドスのサリア(元ライン生命警備課主任)に「あいつやばい!」と助けを求めるところから始まる。

世界一わかりやすい翠玉の夢開幕


ドクター・サリアサイド

 このイベントでは大きく二つに物語の展開軸が分かれている。
 便宜上、ドクターサイドとドロシーサイドと分けることにする。

 こちらのサイドはあっさりいかせてもらう。

 ミュルジスから連絡を受けたサリアはクルビアを訪問。
 しかしミュルジスはフェルディナンドが雇った傭兵ホルハイヤの襲撃を受けており、行方不明。また、時を同じくしてライン生命で感染者主導の拉致事件が勃発。しかも拉致られたのはロドスのオペレーター、フィリオプシス。
 これは大事だぞということで、ロドス本艦が近くにいたということもありドクターと上級オペレーターmechanist、そしてライン生命と縁の深いサイレンスとグレイもやってくることになる。

 ドクター、mechanist、サリアの三人はミュルジスを担当。
 めちゃ高性能なパワードスーツに襲われるが難なく突破。サリアの伝手を頼ってミュルジスを捜索しつつ、一体ライン生命で何が起こっているのかを情報収集していく。
 結果として、ミュルジス救出に成功し、フェルディナンドが何をしようとしているかにもあたりを付け、キーとなるのはライン生命現総括であるクリステンにあると考察。
 「クリステンの最近の目撃情報はないけど、アイツ引きこもりだしどうせ本社のラボで幽閉されながら今も研究しとるやろ」ということでライン生命本社にカチコミ。予想はドンピシャであり、ライン生命総括であるクリステンを通して事態の収拾を試みる。

 いわばドクターサイドは上役同士の話し合いによって事件解決をしているようなものだ。
 だが事件は現場で起こっている。
 その現場にあたるドロシーサイド。今回主役となるドロシーと、拉致されたフィリオプシス達は一体どうなっているのだろう。

ドクターサイドの目標


ドロシー・アステジーニ・フィリオプシス・サニーサイド

・前編

 ロドスを訪れていたフィリオプシスと、エネルギー課のエースであるアステジーニが和気藹々と会話していたところ、土足で社内に入ってきた開拓者達から「病人出たから助けてほしい」と言われる。
 アステジーニは「病気ならちゃんと手続き取ってしかるべき場所に行けばよくない……?」と疑問に思うが、フィリオプシスが「病人は助けないと」と言って先行し、結局二人は付いていくことになる。

 が、これは狡猾な開拓者たちの罠だった。
 病人なんていないのさ。お前たちは今から人質になってもらう。と開拓者のリーダーであるサニーくんに言い放たれ、二人は拘束される。なんだこいつら!? アステジーニは激おこ状態になる。

 さて、ここで開拓者とはなんぞやという話をしよう。

 開拓者というのは「誰もやりたがらない肉体労働をせざるを得ない人達」だ。主な業務は「荒野での泥仕事」であり、中でもライン生命に所属している彼らは「場所を広く使うとか非合法の研究のために荒野にプラントを建設したい。だけどテラの荒野は過酷。だからお前ら危ないけど建設工事の土台作りやってくれ」と言われている。
 彼らはなりたくてこうなったわけじゃない。でも、これしか仕事がない。どこかで出世コースから脱落したのか、勉強をサボったのか、感染者落ちしたのか。社会から一度見放された彼らは、テラの大地を企業様のために開拓する開拓者……つまりは「いくらでも使い捨てにされる、ていのいい人材」になるしかなくなった。

 そんなサニーをリーダーとする開拓者集団は労働環境に不満らしい。
 アステジーニとフィリオプシスを拉致し、ライン生命と交渉しようとする。

 さて、「おたくの職員を拉致したぞ」と言われたライン生命の交渉役にはトリマウンツ保安局からメアリーという女性保安官、ライン生命からは警備課のモブ、そしてロドスのオペレーターであるサイレンスとグレイが登場する。

 メンツが凄い。ライン生命まるでやる気なし!
 下っ端も良いとこな警備モブは確かに上司と連絡を取るものの、まるで交渉する気がない。「10分後にあいつらのいる基地の電源落として凍えさせたろ」などという北風と太陽未読ムーブをかまし始めるあたり、マジでアステジーニもサイレンスも開拓者もどうでもいいらしい。

 メアリーは「どうせロクに努力もしてこなかった低所得者達がストおこしてる」「拉致とか卑怯な真似せず訴えればいいのに」みたいな思考のバリキャリウーマン。
 彼女が交渉の窓口に立つわけだが、なんと開拓者リーダーのサニーと警官メアリーは元恋人。気まずい空気もどこへやら、メアリーはサニーにブチ切れ。「落ちぶれたな、サニー」「待ってくれ、実は……」「昔のお前はカッコよかったのに! 一緒に夢を語り合ったのに! お前が大変だった時、私は危険を冒して匿ってあげたのに! なんで今誘拐犯やってんの!? お前みたいな口先だけのクソ男許さん!」となり、最初から徹底して開拓者たちとの交渉に応じない姿勢を取り始める。

 ただ、次第にツン100デレ0仕事女の皮が剝がれだす。
 まずライン生命への不信だ。ライン生命があまりにもあまりにもな対応ばかりするものだから段々と「これもしかしてマジでライン生命側が悪か……?」と疑い出す。
 また、感染者が騒ぎを起こすと勝手に介入してくることでお馴染みのロドス面子がかなりまともだったことも彼女に影響する。サイレンスは徹底して拉致されたフィリオプシスを心配し続けるし、取り合えず感染者の話を聞こうと諭し続けてくる。また、メアリーが癇癪気味に揶揄ったグレイが超好青年だったため「どうせ金とか利権目当ての蛆虫が現場にちょっかい出しに来たなって思ってたけど、実は結構良い奴っぽい……?」となりデレの兆候を見せ始める。

 だが、交渉は失敗。
 ライン生命側が予告なく開拓者のコロニーの電源を停電させる暴挙に踏み切る。テラの荒野は寒い。暖房器具が止まるととてもじゃないが耐えられない。また、医療機器の類も止まってしまう。開拓者には感染者が多いため、活性化を抑える手立てを失うこととなる。

 それを見たサイレンスとグレイは、交渉をやめて開拓者コロニーに向かおうとする。何よりフィリオプシスが心配だった。電気の止まった環境で発作を起こしたらしいフィリオプシスには差し迫った命の危険がある。メアリーは彼女達を止めようとするが、静止を振り切りサイレンス達はサニー達と合流する。

 と、ここで銀色の飛翔物(空飛ぶでっかいタケコプターみたいなの)が開拓者コロニーを襲いだす。
 これを見たサニー達開拓者が悲鳴をあげる。どうもこいつらに何度か襲われたことがあるらしい。つまりは敵だ。サイレンス達は意識を失ったフィリオプシスを抱えつつ、この銀色の飛翔物から逃げようとする。

 その時、コロニー内のスピーカーから声がする。

「研究エリアの建物は頑丈だから、皆にとっても身を護るにはいい場所だと思うの。開拓隊の友人たちにも、ライン生命の同僚たちにも、研究エリアの扉は開かれているわ」

 それはライン生命アーツ応用課主任、ドロシーの声だった。

・中編

 ライン生命本社の中に誘い込まれたフィリオプシス、サイレンス、アステジーニ、そしてサニーを中心とする開拓者達(グレイは開拓者コロニーで陽動と、身動きの取れない他の開拓者のために残った)

 アステジーニが言う。
「ドロシーが助けてくれるんだって。彼女は本当に開拓者に優しい人だよ。何か不満があるなら言ってみたら?」
 サニーが言う。
「あいつが全ての元凶だ。俺達がこんなことを起こした原因はあの女にある」

 アステジーニはその言葉に怒り出す。
 だって当然だ。ドロシーはいつだって開拓者に優しい。お金で困ってる開拓者がいたらお金をあげる。開拓者が寒さで凍えてしまわないようにヒーターを無償で渡したりもする。いつだって相談に乗ってあげているし、親身に寄り添い助けてあげてる。
 しかもドロシーは主任で大忙しの合間に助けてやってるし、こいつらに分け与えすぎたせいで主任なのに日がな貧乏な暮らしをしているのだ。
 それなのになんでそんなこと言われなくちゃいけないの?

 つらつらと反論をしていくが、しかしサニー達の態度は煮え切らない。
 アステジーニは今までずっと開拓者達にも言い分があるかもしれないと思って黙っていたが、我慢ならずに怒り出す。当然だ。自分の友人であるドロシーを悪し様に言われるし、結局サニー達はただ文句を言うばかりで大切なことを何も話さない。激おこぷんぷん丸である。

 言い争う彼らを尻目に、サイレンスが疑問を投げかける。
 さっき銀色の飛翔体が襲ってきた時、アステジーニもサニーも反応が薄かったからだ。サイレンスにとってはあれは初見の化物だったが、もしかしたら二人は見覚えがあるんじゃないか?

 そう聞くと、アステジーニは認めた。
 あの銀色の飛翔物はアステジーニが関わっていた研究、つまりはドロシーの研究の副産物なのだと話す。
 神経信号に敏感な物質で構成された「伝達物質」。そう呼んでいるだけのもので、人を襲うなんて習性は持たせていない。たしかにフェルディナンドに私が任されているものではあるし、貴方には言えないことだってあるけれど、開拓者を襲ってるなんて聞いたこともないし、研究の主軸であるドロシーは本当に優しいんだから。

 そんなことを話している内に、ドロシーが自分のラボを開放した。
 アステジーニの説明し辛いことも私が話すから。
 ここは一番安全な場所だから、中に入っておいでと。

 そう言われ彼らはラボに入り、ドロシーとようやく相対したと思った矢先、唐突にサニーがドロシーに襲い掛かる。

「コイツが全ての元凶なんだ。仲間達が消えていくのはコイツのせいだ。俺達があんたらを拉致したのも、ライン生命と交渉しようとしたのも、全てコイツと会うために他ならない!」
「俺達はもう何度もあの銀色の飛翔体に襲われている」
「そして、俺は見たんだ。ある日ラボでドロシーに会いに行こうとしていたら、ドロシーが銀色の物体に、まるでペットみたいに話しかけているのを!」
「コイツは俺達開拓者に優しいふりをして、あいつらを甘い言葉でだまして契約を結ばせてどこかへやり、陰ではこの兵器を使って俺達を襲っているクソ野郎なんだ!」
「今すぐお前のやっている実験とやらを辞めろ!」

 ドロシーはその言葉を否定しなかった。

 サニーの発言は事実ではある。
 ドロシーは開拓者に優しいし、お願いや頼みごとを色々と聞いていた。けれどそれでも苦しむ人は数多くいて、ドロシーの救える範囲にも限度がある。
 だからドロシーはどうしようもなくなった人達と契約を結んでいた。書面にサインをするのはよく考えて、自分の意思で行うようにと念を押しながら、とある実験の被験者となる契約書を手渡していた。

 被験者たちの多くはサインをした。
 彼女もそれが被験者達にとっての最善だと思っていた。
 だからサニーの言葉を聞いたドロシーは「どうして分かってくれないの?」と悲しそうな表情で言う。

 彼女は言葉巧みに他人を操り、裏では非道なことをする研究者ではない。
 本当に、心の底からの善意で彼女は動いていたのだ。

 だが、ドロシーの言葉を聞いてもサニー達は収まらない。
 お前がどう思ってるかは関係ない。消えた俺達の仲間はどこだ。
 契約書にサインをしたあいつらは皆このラボへ消えていった。あいつらは今どこで何をしているんだと、ドロシーに襲い掛かる。

 するとあの銀色の飛翔体がドロシーのラボから出てきて、ドロシーを護るかのように開拓者達へと牙を剝く。
 事態の収拾がつかなくなったと判断したサイレンスは「このラボの中、ドロシーが守ってる場所に何かある」と、銀色の飛翔体を止めるべく壁を破壊し、中にあったものと相対することになる。

 そこには横たわる沢山の人達。
 中にはいなくなっていた開拓者や、ライン生命研究員の顔もある。
 全員の頭には器具が取り付けられ、そこから延びるケーブルは中央の機械に繋がっており――――ケーブルの中には銀色の液体が絶え間なく流れ続けている。

 人々は壁が壊れ、サイレンス達が部屋に入ってきたというのに身動き一つ取らない。まるで死んでいるかのようだ。
 むしろケーブルの中を流れる液体のほうこそ「生きている」。まるで人間から養分を吸い取り続けるかのように。

 ドロシーは語り出す。

「私は彼らを救いたいの」
「ここにいる人達は皆、苦しんでいたの。例えばここにいるヘレンはローンを抱えていて、それは彼女の家族全員の生活を壊していた。そのせいで、彼女は毎日を恐怖の中で生きていたわ」
「もし彼女が契約書にサインせず、仕事を解雇されてしまっていたら、自殺すら考えたと思うわ」
「私がここで実験を止めてしまったら……彼らはみんな、悲惨な運命を辿るしかなくなってしまう」
「そんな残酷なこと、私にはできないわ」

 彼女の契約とは、このケーブルに繋がれて寝たきりの状態になる実験への参加と引き換えに、それなりの金銭を得られるというものだった。

 ドロシーの言葉を聞いたサニーは「その独善的な物言いを今すぐやめろ」と、怒った調子で言う。
 けれどドロシーはサニーの不理解を嘆くでもなく、ただ「その気持ちも理解できるわ」と言い放つ。

 ここから、ドロシーとサニーは主張を交わし合う。

 サニーが言う。
「バカげたこと言ってんじゃねえ、何が理解できるだ!」
「あんたは俺たちをよーく「理解」してるから、お優しくもお恵み下さったわけか。天災や獣に殺される以外の新しい「チャンス」――――大企業様の実験室で、生ける屍になる道を! 実に寛大なご提案だな!」

 ドロシーが問う。
「……考えたことはないの? 同じ感染者なのに、なぜ都市で仕事を続けられる人と、故郷を離れざるを得ない人がいるのかを」

 激高しながら、サニーが返事をする。
「あんたに言われるまでもないさ」
「あの時――――俺が感染者だっていう診断結果が出た翌日、俺のところには保険契約書と解雇通知書が届いた」
「契約書のほうは569ページもあったが、解雇通知書は薄っぺらな紙切れ一枚だ」
「会社側が高額な保険料を払ってもいいと思えるくらいの価値を証明できない限り、感染者を雇おうとする企業なんざほとんどない――――」

 苦い独白だ。

 グルビアは感染者に対するあたりが強い。
 感染者は感染すると、保険に加入することになる。「貴方が感染者の身でありながら、普通の人と同じように暮らしていけるようにしますよ」という保険だ。これに加入しなければ就職口が大きく狭まる。だが、加入してもバカみたいに高いローンを毎月支払わなければならないのだ。

 そんな保険料を自分で払うことなんて出来ないから、開拓者に堕ちる。

 それでもグルビアの社会の中で生きていく感染者もいる。
 その違い。そんなの分かり切っている。頭が良いか、悪いかだ。
 サニーは頭が良くなかった。だからどこの会社も保険料を肩代わりしてくれない。だから開拓者に堕ちた。だから今、こんなところにいるのだ。

 これを聞いたサイレンスとエレナが息を吞む。
 サイレンスには感染者の身でありながらライン生命で働いていた過去への後ろめたさがあり。
 エレナは感染者でありながらも比較的軽度かつ自分がそれなりの生活を出来ていることから、感染者というハンデは大して重くないぐらいにしか思っておらず、たとえ感染者になろうと私は研究者であり続けると軽々しく発言していたところに、現実を見せられて。
 二人は悲痛な開拓者の叫びを聞くことになる。

 けれど彼女達と違い、それら全てを本当の意味で理解していたドロシーは尚も言葉を続ける。

「チャンスというのは、等しく与えられるべきだと思うの。才能の違いで人生の方向を決められるのは望ましくないわ」
「才ある人がその才能で特権を得ると、結果的にその人がほかの人の利益を奪ってしまい、公平性を損なうことになる……」
「私は自分がその既得権益を持つ一人であることを、自分の「幸運」を恥じているの」
「だからここにいる被験者になってくれた人たちや、サニー……あなたのことも含めたみんなを、泥沼に飲み込まれる前に助けてあげたいだけなのよ」
「私は、これまで……才ある人がひいきされることなく、努力した人だけに「幸運」が訪れる、そんな未来を願って力を尽くしてきた」

「この実験は、真の平等を目指すためのもの」
「個人差があるのは仕方がない。それを無視したり忘れたりする必要はないけれど、でも一生振り回される必要もないと思うの」
「この技術があれば、人々はお互いをより平等に感じられる」
「険しい道に行く手を阻まれることもなければ、嵐で視界を遮られることもない……」
「前へ進むために苦難に耐える必要はないし、大切な家族との別れもなくなって、より安全に遠くを見すえることができるのよ」
「そんな未来がどれだけ素晴らしいものか……あなたたちにはわからないの?」

 サイレンスが気付く。

「個人差をなくすこと……意識のない被験者……感情的な反応をするアーツの被造物……そしてそれを繋いでいる巨大な機械……」
「……銀色のアレを操っている術師の正体がわかったよ」
「さっきまでこの被験者たち一人一人が術師だと思ってたけど、実際には――――この人たちは全員で「一人」の術師なんだ」

 被験者たちは全員で一つの意思集合体となり、その集合体を以って銀色のアレ、つまりは「伝達物質」を操作していたのだとサイレンスは推測する。

 そしてサイレンスはこの実験の成功が何を意味するかに恐怖した。
 「伝達物質」は壊してもすぐ再生する。つまり無尽蔵の軍隊みたいなものだ。疲れ知らずで再生力があり、更には彼女達は知らないがパワードスーツの中に仕込むことで高性能高機動高耐久の兵士にも成り得る。そんなものが世に出回ったら大変だ。
 更には被験者たちの未来も暗い。そんな都合の良い軍事力が実現してしまったら、偉い人達が彼らを手放すわけがない。被験者は一生寝たきりの植物状態となり、更なる実験に使われたり電池とされ続けるであろうことは目に見えていた。

 それをドロシーに問い詰めるも、ドロシーは「私がみんなを守ってみせるわ。そのためなら、喜んでこの命を捧げましょう」と言い返す。
 彼女は命をも捧げる覚悟でこの実験の成就に臨んでおり、当然ここにいる被験者達も全員幸せにするのだと豪語する。

 だが、サニーが言う。

「ドロシー・フランクス……あんたが描く未来は魅力的だと認めざるを得ない」
「俺はあと一歩であんたのラボへ足を踏み入れるところだったし……その手を取りたいと思った回数に至っては、あんたでさえ想像のつかない数だろう」

「……なぜそうしてくれなかったの?」

「簡単さ。俺の未来は……俺のものだからだ」
「あんたの言葉や態度を前にして……手を取りたいと思うたびに意識させられるんだ」
「あんたが俺たちを操っていることをな」
「甘い夢から抜け出すのは……悪夢から逃れるよりも難しい」
「あんたもその夢の中にいるのかもしれないが、俺たちが向き合うべきなのは現実のほうなんだ」
「この国が生んだ狂気にはもうたくさんだ。こんな実験は初めから存在しちゃいけなかった。こんな狂った考えは……さっさと葬り去ったほうがいい」

 サニーはドロシーの手助けを操ると称し、その誘いを拒絶し、ドロシーの夢をただの狂気だと否定した。

 ドロシーは、サニーだけは。
 開拓者として今を生きているサニーの言葉とその意思だけは、受け入れざるを得ない。だって彼は、ドロシーにとって守るべき人であり、幸せにすべき人だから。

 ドロシーは彼の言葉を受け、実験を中止する決定を下す。
 救済する対象が救いを拒んだのだ。理解が得られないとは思っていたけれど、それでも話せば分かってくれると思っていたのに。全てを見て全てを知った弱者は、救いを拒絶をしたのだから。

 ……とにかく、これで開拓者達のストは終わりだ。
 サニー達は真実を知り、消えた仲間達の現状を知り、そして実験中止にまでこぎつけた。望みは全て果たせたと言っていいだろう。ライン生命警備課も中に入ってきて、一連の事態の後始末に乗り出す。

 これで終わりだ。
 そう思って外に出た矢先、巨大な銀色の化物がライン生命のラボを突き破って暴れ出した。

・後編

 化物を起動させたのはフェルディナンドだ。
 彼はドロシーと共同研究をしていた。ドロシーは実験を中止しようとしたが、彼女の伝達物質の技術を欲しているフェルディナンドからすればたまったものではない。
 実験の最終段階としてデモンストレーションを行うことにする。大量の伝達物質を用いて建物一つ飲み込むほどのバケモノ幾何学体を作り出し、それで大規模な破壊活動を行うことで自分の目的を果たそうとする。

 アステジーニとサニーは、この事態の黒幕であるフェルディナンドを問い詰めるために彼の元へ。
 そしてサイレンスやドロシーは、幾何学体を足止めするために一先ずコロニーへと移動する。

 幾何学体は暴れ続ける。
 ドロシーの声にも答えない。
 ラボは崩壊し、コロニーにすら魔の手を伸ばす。

アレが本当に、被験者たちの意識の集合体だというのなら……
私は、家族同然にアレを愛しているというのに――――
なぜ私には、アレが語り掛けてくる声が聞こえないのかしら?

 ドロシーはみんなの声を聞くために、銀色の液体――――伝達物質を飲んだ。

 そして彼女は、みんなと再会する。
 そこは夢の世界だ。誰もが幸せに暮らしていた。
 けれど彼らの言葉を聞いて、忘れていた母の言葉を思い出して。
 ドロシーは、自分の夢が間違っていたことを知る。

 夢を終わらせなければならない。
 自分の過ちを悟ったドロシーは、彼らに別れを告げる。

 そして幾何学体の破壊活動は終わりを迎える。
 幾何学体は進路を変え、自分が生まれたラボへと戻り、その直上で崩壊した。メインコアと呼ばれる、あの部屋の中央装置。銀色の伝達物質は自身の崩壊と共にメインコアを壊したのだ。


 これで物語は収束。
 フェルディナンドは事件の黒幕としてライン生命から追い出され、ドロシーは「ライン生命とロドス・アイランドの共同プロジェクトリーダー」という形でロドスに加入。
 大体こんなところである。

感想

 っつーかこっからが本編。
 ざっくり説明とか言っておいてここまでで1万字である。アホか?

 でも仕方ないじゃんアゼルバイジャン。
 事件の黒幕なのにちょっと好きになっちゃうフェルディナンドくんも、なぜか初対面の人に嫌われるmechanist、妖しく蠱惑的な美人のお姉さんホルハイヤ、助けてもらったからかなぜか可愛くなりアーミヤがいたら「かーっ! 厭しか女ばい!」と吠えること間違いなしのミュルジスちゃん、作中尤も常識人かつぐう聖を見せた異格グレイくんに、なぜかカッコいい立ち絵の用意された男前サリアさん、メアリー×サニーで妄想捗る元恋人達。

 もう語りたいことは山ほど、マジで山ほどある。
 だが省いた。つまりこれでも頑張って削ったんだよここまで。

 だけどもうその必要はない。
 ここからは語っていく。


翠玉の夢のメインテーマと、ドロシーについて


 今回のイベントを読み終わった直後の感想は、「なんか薄味だな」である。
 確かにストーリーは面白かったけど、ドロシーというキャラへのスポットライトの当て方が半端に感じる。登場キャラは多いし視点は二つに分かれてるし、ドロシーサイドではアステジーニ・サニー・フィリオプシスと他のキャラ達にスポットライトが当たりまくる関係上、序盤丸々出番を奪われたドロシーちゃんになんか感情移入出来ないな……というのが文字を書き出す前までの僕だった。

 だがこうやって文字に起こし、表現を適切にするためにイベントを読みながら思考を整理していく内に、このストーリーしゅごいってなったので書いていく。

 再度の注意書きになるけど、ここからは本当に妄想が混ざってくる。
 出来る限り本文中に明記されたもの、本文中で示唆されたものに則ってはいるものの、夢小説の側面は否定しきれない。

 取り合えず、まずはドロシーについて語ろうと思う。

ドロシーについて 1

 ドロシーは困ってる人を助けたい。
 中でも特に開拓者を救いたい。
 だって 自分が開拓者だったから。

 彼女はサルゴンの移民家庭の生まれだ。
 父は荒野の開業医で、母は開拓者。生まれた時から各地を転々とする暮らしをしており、共に過ごす開拓隊のメンバーたちは、血は繋がっていないけれど家族のようなものだった。

 自分には幸運が舞い降りた。
 賢かったのだ。クルビアは出生ではなく能力で成り上がれる社会だ。両親はそれを喜び、開拓者の身でありながら大学進学の資金を頑張って貯めた。彼女もその才能を腐らせることなく育ち、やがてアイアンフォージ工科大学のサマーキャンプに招待されることとなる。

 絵に描いたような幸福への道。
 だからこそ、絵に描いたような悲劇が舞い降りる。

 天災だ。嵐はドロシーの母がいた臨時基地を壊滅させ、母と多くの開拓隊員たちの命を惨たらしく奪い去った。
 皆が応援してくれたのに。頑張って賢い大学に入れることを、自分のことのように喜んでくれたのに。サマーキャンプで都市へと赴いたその時に、家族は死んでしまった。
 母達の死に取り乱し、ドロシーは部屋にこもって――――数日経って出てきた彼女の様子は、父親からすれば悲しみが和らぎ立ち直ったようにさえ見えた。
 恐らく彼女はその時すでに、心の中で漠然とした目標を得ていたのだろう。

 残されたドロシーは、自分が一人残った理由をずっと探しながら、頑張った。
 大学に入り、ライン生命に入社し、主任を任され。
 世のため人のため、そして何より開拓者達、つまりは「生まれた時からチャンスのない人達」を救うために彼女は研究者として働いた。

 彼らを助けたい。
 そして彼女は「個人の能力の格差」をなくせば幸せになれるんじゃないか。知能の差、種族の差、体格の差、アーツの技能の差、感染者か非感染者かどうか。
 そういったものを失くせば、荒野に生まれてもグルビアに生まれても、どういった人達であっても幸せになれるのではないかと考える。幸せになるためのチャンスを得られるのではないかと思い始める。

 これはフェルディナンドの「誰でも軍事力を保有できるようにする高性能パワードスーツ」という研究と嚙み合った。

 フェルディナンドの目的は軍事転用。
 彼はライン生命の総括になりたかった。そのために大佐と呼ばれる人と取引をし、軍事力と引き換えに軍部との強いコネクションを作って、ライン生命総括になり替わろうと画策していた。
 対してドロシーの目的は万人の幸福であり、彼女は軍事転用ではなく「弱者に幸せを掴む力を与える」ことを主目的としていたが、とにかく、彼らは手を取り研究を始める。

 ただこの伝達物質とやらには神経信号、つまり伝達物質を動かすためには人間を必要とする問題点があった。
 イメージとしてはメインコアがサーバー本体で、人間の脳は電池かつAIみたいなものであり、彼らの神経信号を利用して伝達物質を操作するって感じ。
 人の犠牲が必要な設計だったのだ。

 ドロシーはこれを利用した。
 お金に困っている人達を被験者とすることで、人体実験としてフェルディナンドから金を引っ張ったんじゃないかな。治験はリスクがあるが故に高額バイトだし、フェルディナンドも流石にここには金払い良さそう。
 開拓者からすれば多額の金が貰えるし、ドロシーのことを信頼していた。電極で脳とメインコアを繋いだ植物状態になるわけだけど、彼らはどうしようもない現状で唯一取れる手を取った。

 ドロシーは一時的に彼らはお金を得ることが出来るし、何よりこの研究の先には全開拓者の幸福があると信じていた。
 本当に彼女は開拓者のことを第一に考えた。そして結果として、彼らは寝ているだけお金が貰え、研究が終わった時には彼らは解放され、更にはこの実験で生まれた技術によって幸せになるチャンスが与えられる。
 本気でそう思っていたんだと思う。

 ただフェルディナンドからすればそんなわけがない。
 メインコアがないと伝達物質は動かないわけだから、実験が成功するなら電池である被験者達はそのまま継続だ。つまり開拓者達は一生植物状態で繋がれ続けることになる。

 翠玉の夢は実験の最終段階の時系列。
 「伝達物質のみの化物を運用できるか」という部分こそがフェルディナンドの欲した研究成果であり、彼はグルジアの軍の大佐にそれを渡すという取引を果たすため、ストーリー最終段階の化物を動かしていたんだと思う。
 まぁドロシーは「実験辞める!」って言いだしたしね。大佐に早く実験成功の報告をしたいフェルディナンドからすれば「乗っ取るしかねえ!」って感じでしょ。

 けれど、ドロシーはフェルディナンドが何をしたいのかを朧げに知り、また開拓者であるサニーから「意思も何もなくなった寝たきり状態にされることを俺達は望んでない」「そんなものは幸せではない」(ここかなり意訳)と言われる。

 ドロシーはただ開拓者を幸せにしてあげたいだけなのに、その開拓者からそれを否定され、揺らぐ。
 けれどどれだけ話しかけたとしても、メインコアに繋がれている被験者達の声は聞こえない。彼らの真意が分からない。
 だからドロシーは、自分も伝達物質を体内に入れることで彼らとの意思の疎通を試みる。

 私のしたことを、貴方達はどう思っているのか。
 私の夢は、間違っているのかどうか。


 結局、ドロシーは誰かを守りたかっただけだ。
 母が死んだ。仲間が死んだ。自分が都市に行っている間に呆気なく嵐に巻き込まれて。自分には幸運があり、それなりの力もあったのに、本当に大切なものを守ることすら出来なかった。

 自分が一人生き残った意味、誰一人として守れなかった自分の存在価値。
 だからドロシーは誰かを守りたい、幸せにしてあげたいという思いを中心に生きることになった。自分には能力があるんだから。裕福なのだから。だから、彼らを守るのは自分なのだと。

 でも彼女は、母の言葉を思い出す。

「あなたにはあなたの道がある」
「あなたの未来は私のものではない」
「あなたが将来目にする景色は、きっと私が見てきたよりもずっといいものになるはず」

 開拓者の暮らしは苦しい。
 長く同じ場所に留まれない。安らげる安住の地がないことがどれほど辛いことか。荒野は危険だ。天災が訪れるし、獣もいる。
 それはドロシー自身経験してきて嫌というほど分かっているし、ライン生命に入りグルジアでの文化的な暮らしも知った彼女からすれば、それは目に見える明らかな不幸だ。

 けれど、幸せだったのだ。
 母がいて、仲間がいた。自分を慕い、自分が慕っている人達がいた。
 暮らしは決して楽ではなかったけれど、でも牧歌的で満ち足りていた。
 彼らのいたあの生活こそが、ドロシーにとっての夢だった。

 人の幸せは、誰かが決めるものではない。
 道なき道を、どこから来てどこへ向かうのかも分からないまま、それでも歩んでいくのが開拓者であり、研究者であり、人間だ。

 ドロシーはようやく、自分が夢を押し付けていたことを。
 自分の夢が間違っていたのだと理解する。

 自分がしていたのは、彼らを自分の夢に閉じ込める行為だった。
 安らぎと幸せをあげたかった。でも、彼らには自分で未来をつかみ取る腕も、歩んでいくための足もある。
 なのに自分はそれらを無視し、勝手に弱くて不幸だと決めつけて、自分の意に沿う「弱くて助けるべき人間」であるよう操って実験材料にし、命を奪ったのだ。

 伝達物質の内部、つまりサーバーは幸せな夢だ。
 被験者を一つの集合知識として扱う性質上、彼らは肉体の檻から解き放たれ、幸せな夢に囚われることとなる。

 けれど夢は夢。
 現実には、彼らは軍事兵器として運用され続け、彼らの意思を無視して暴力を振るい、不幸をばらまく兵器となる。
 そして内部にいる彼らがそのことを知ることは出来ない。
 だってそうだろう。今まで自分は銀色のアレに幾度となく語り掛けてきたけれど、彼らが返事をする素振りなど一度もなかった。フィリオプシスは彼らの言葉を受信することが出来たのに、私には一度だって話しかけてくれない。

 あぁ、つまり。
 開拓者達が銀色のアレに襲われたと言っていたことと、幾何学体が暴れまわっていることからも分かるように。
 彼らはただ夢を見ているだけで、銀色の伝達物質を動かしているのは被験者達の意識ではないのだ――――。

 ドロシーは全ての間違いを悟り、彼らに別れを告げる。
 そして彼女は、幾何学体をメインコア破壊に向かわせる。

「でも、あんまり長居はできないわね。じきに嵐が来るかもしれないし」
「心配するなって。どうすりゃいいかくらいわかってるしさ。そうでなきゃ、ここには来ないだろ?」

「名残惜しくて明日出発できそうにないことだな」
「……変ね……何だかこの夜、やけに長いような……」

DV-8 前編

「私はみんなに、安らぎと幸せをあげたいけれど……」
「あなたたちの未来は、私のものじゃないんだから」
「ここに閉じ込めておくべきじゃないわよね」
「私自身も……閉じこもってちゃいけないわ」
「あなたたちの旅路を見守るためにも……」

 DV-8 後編

 彼女は夢の中での彼らの様子から、精神になんらかの異常をきたしていることを知り、自分の夢は何もかもが間違っていたことを悟る。
 彼女が下した判断はメインコアの破壊、つまりは被験者たちの殺害だ。
 幸せのチャンスを与えるどころか奪ってしまった自分の行いには、自分でケリを付けなければならなかった。

ドロシーについて 2

 砂嵐に飲み込まれてしまう前、みんなはどういう気持ちでいたのか…… この開拓者の人たちみたいに、狭い空間に閉じ込められて、絶望の中で死を待っていたんじゃないか……って。

 ドロシーは。
 救いを求めて死んでいったであろう家族のことが、頭から離れない。
 だから救うのだ。救えなかった家族の分も。
 だから幸せにするのだ。自分にはその能力があるのだから。

 開拓者と弱者と非救済者。
 ドロシーはこれら三つをイコールで繋げており、また自身も開拓者だった過去を持つが故に、偏執的なまでの開拓者に対する献身性を見せていた。

 彼女の間違いは「他人を弱者と決めつけ、弱者はいつだって救いの手を求めているのだと決めつけ、ならば自分が救わなければならないと決めつけた」こと。
 そして結果的に、大勢の人を自分の理想のための実験体にして殺したことこそが、彼女の間違いだと言える。

 ドロシーが被験者達との夢、伝達物質の中で流した一筋の涙には全てが詰まっていたのだと思う。

 あまりにも理想的で美しい、夢の世界に対する感動。
 彼らがもう助からないと知ってしまったことに対する哀情。
 自分の夢が実現しているという喜びと、自分の夢が間違っていたのだという悲しみ。
 惜別、後悔、懺悔。あらゆる感情がないまぜとなり、彼女は涙を流す。
 それでも彼らには幸せであってほしいと思い、泣き喚くことなく気丈に笑顔を浮かべて。 

 彼女は一言も謝らなかった。
 あれだけサニーに説明する時には使っていた「ごめんなさい」の一言を、夢の中で被験者に対し一度も用いていない。

 自分が正しいと思った夢が間違っていたと悟っても、謝ってはいけないと知っていたから。この夢の中で幸せなまま、彼らは最期を迎えるべきだと理解していたからこそ、嘘を付き続けることで責任を取ったんだと思う。
 彼女は夢の中にいる彼らのことを考えて、自分にも言い聞かせるように、最期の言葉を発している。

「私自身も……閉じこもってちゃいけないわ」
「あなたたちの旅路を見守るためにも……」
「あなたたちが将来目にする景色は、きっと私が見てきたよりもずっといいものになるはずだもの」

 ここが他の人の感想と大きく違うと感じた部分である。

 よく見る感想としては「幾何学体が壊したのはメインコアだけで、被験者は全員生きていて、彼らはこの後も生き続ける」であり、僕の感想は「彼らがもう助からないと分かってしまったドロシーは、その責任を取るべく自らの意思で息の根を止めた」である。

 僕は、
・電池状態になった被験者はもう助からない(意識が統合されて現実の肉体に戻れなくなった)(サイレンスの発言根拠)
・ドロシーがこの状態から現実世界に復帰してくる被験者たちに「あなたたちが将来目にする景色は、きっと私が見てきたよりもずっといいものになるはずだもの!」とか言い放つとは到底思えない。あまりに無責任すぎる。ドロシーは作中で散々示されたように、ちゃんと全てを理解し現実的な視点で考えて行動するキャラクターなのでこれが一番あり得ん。

 以上、2点の視点から被験者は全員死んでいると思っている。

 ドロシーは夢の中で全てを悟り、涙を流す。
 状況のよく分かっていない被験者が手を伸ばしてくる。
 彼女は、自分もこの幸せな夢の中で皆と過ごして死にたいと思ったはず。
 でも、自分にはまだ現実でやるべきことがある。
 夢を見てこのまま死んで、救われてはならない。
 ここで死んでしまう彼らの分も、私は私の出来ることをしなければならない。

 だからこの先の人生は、ドロシーにとってはきっと罰なんだと思っている。
 夢の中で手を取っていれば彼女の夢は叶い、理想的な夢の中で幸せに死ぬことが出来たはずだからだ。

 また、ドロシーのことを「甘やかして人をダメダメにするヤバい奴」として扱っている人が多く散見される。
 僕はこの世論に反対派である

 確かにそういったキャラクターが魅力的なのは分かるし現代においてバブみに需要があるのは理解しているが、ドロシーは違う。
 彼女は相手の自由意志を尊重しつつ、自分の手を伸ばせる最大範囲の人を救おうとし、また皆を幸せに出来るのであればたとえ修羅の道でも突き進む、自己犠牲的かつ献身的な殉教者だ。

 救いと幸福。これらを弱者に与えたい。それこそが自分の存在証明。そう信じて走り続けてきたのがドロシーというキャラクターであり、甘やかしたりなんでも言うことハイハイ聞いてくれるランプの精ではない。

 キャラの解釈は人それぞれに許された権利だ。
 とはいえ、ピカチュウをドラえもんと呼ぶ暴挙には抗議せねばなるまい。
 資料を見れば分かるように、ロドスに来たドロシーは他人を助けようとして自分が疎かになり事故を起こす傾向にある。完璧超人でもないし、無制限に人を甘やかす人でもない。

 つまり、彼女はお前のママでも都合の良いマクガフィンでもない。
 夢のために誰よりも努力をし続ける、等身大のキャラクターだ。

ドロシーについて 3

 さて、ドロシーについての最後の感想だ。

 僕は、この物語は「皆が同じ人であり、誰もが自分の道を歩む開拓者」であるという根底テーマの上に成り立っていると感じた。
 ドロシーに当たるスポットライトが薄い分、他にも沢山のキャラクターにスポットライトが当てられ、視点がガンガン切り替わる。
 それらの話は確かに別個で成り立っているものの、どれもがドロシーについての言及なのではないかと、そう思うのだ。

 

サニーは言った。

「俺はとっくに、途中で死んだって構わないと、そう思ってたんだな」

 これは同じ開拓者として、サニーとドロシーに共通する理念だ。

 サニーは落ちぶれてしまった自分の立場に対する複雑な思いを抱えつつ、それでも自分の幸せは自分でつかみ取るという覚悟を元にこの騒動の最初の引き金を引き、リーダー役を買って出た。
 こういうストライキの主犯は大体割を食うことから考えても、彼は死をも覚悟して開拓者達のリーダーとして立ち上がったのだろう。

 対するドロシーも、夢のために生き続けるという意思よりは「私は私の道を行くけど、私の生きる理由である弱者が私を殺したいというならば、死んでもいい」というスタンスを取っている。
 そもそも彼女は結構倫理感がガバガバで、他にも多数の非道な実験を率いていた疑惑がある。ローキャン水槽とかね。いつか罰が下ったり、誰かに後ろから刺される未来も受け入れているんだと思う。

 彼らは自分の目的のために歩き続ける(時には周りに被害が出ることも厭わずに)という強い自分の意志を持っているという点でも共通していると思う。 
 また、彼ら二人は開拓者、つまり明日死ぬ危険性と隣り合わせの生活を送った経験を持っているため、命に対しての意識が似通っているのは当然だろう。

 サニーは翠玉の夢における、ドロシーの写し鏡のような存在だ。
 彼らはそれぞれ、サニーは大人になってから、ドロシーは幼い頃に共に「開拓者」という身分を持ちながら、しかし同時にグルビア社会で生きた経験もある。
 ドロシーは現段階での成功者として、サニーは現段階での失敗者として描かれている。
 ドロシーは才ある者の代表として、サニーは才なき者のリーダーとして描かれている。
 彼らは対比の関係でありつつも、しかし同じ人間であるというのがこの物語の一番の肝だと僕は感じた。

 また、サニーとメアリーを登場させた理由はもう一つあると思ってる。
 「昔のあの頃が懐かしい」
 「あんな取るに足らないものが夢だった」 
 サニーは度々昔を懐かしみ、今はなき日々を懐古する。
 それはきっと、ドロシーにとっても同じだ。彼女も、母がいて仲間がいた、あの頃の生活こそが夢だったのだから。


フィリオプシスは被験者達の代弁者としての役割を与えられている。

「私たちは皆、どこへ向かうのかもどこから来たのかも知らないまま、ただ道を歩き続けているようなもの」
「多くの苦痛があったし、私の旅はいつ終わるかすらわからない」
「けれど」
「あなたたちがそばにいてくれたから」
「私は今まで一度だって孤独や絶望を感じたことはなかったわ」

 ちゃんと作中でフィリオプシスが開拓者の感情や言葉を代弁しているシーンはあるけれど、おそらく最終幕で意識を取り戻したフィリオプシスの言葉は、彼女の本心でありサイレンスに対する感謝であると共に、ドロシーを信じて実験体になった彼らの言葉でもあると思う。

 彼ら開拓者は、仲間がいたからこそ今までやってこれたし、仲間がいたから孤独や絶望を感じなかった。
 つまり、まぁ、幸せだったんだ。
 ドロシーは確かに、その幸せを知っている。
 母がいて仲間がいたあの生活。アレは確かに幸せだった。
 みんながいたからこそ、誰から見ても不幸なはずの開拓者としての暮らしだって、幸せに感じることが出来ていたのだから。

 それを奪ったドロシーへのメッセージでもあるんじゃないかな、ってのは少し救いのない意地悪なあてつけ推測になるけど、でも、自罰的なドロシーにはこれくらいで丁度良い皮肉にもなるのかな。


 以上のことから結論を出す。

 ドロシーの描写が足りないと思ってたのは、作中で彼女の心情がほとんど吐露されていないのと、サニーやフィリオプシスといったキャラクターにスポットライトが沢山当たっていたのが原因。

 物語の根底にある「誰もが開拓者」ってメッセージから、全ての要素をドロシーに繋げて初めてこのイベントは完成するのだと、僕は思いましたまる。

 イベントのライターへ賛辞を贈りたい。
 彼らはドロシーに安易に後悔や悲哀の情を持たせなかった。
 多数の視点から様々な物事を描き、それを違うキャラクター達それぞれに語らせることで、ドロシーの心情も描いていたわけだ。
 つまり読者への信頼度が半端ない。僕はそう捉えたので、ここに感謝の意を示す。ありがとう。こんなに素晴らしい物語を読ませてくれて、本当にありがとう……。


ドロシーについて 余談

 ここからはクソどうでもいい話。マジの妄想。

 ドロシーは救いを求めているのだと思う。
 人を救い続ける彼女こそ、一番救いが必要だ。
 辛い過去を彼女は持ち、その心の傷は癒えていない。彼女は強い人ではないのだ。そもそも強い人なんていないという名言もあるが、彼女は母の死に泣き、何日も部屋にこもった事実を持つ。そして賢い彼女はそれでも前を向き、気丈にも努力を辞めなかった。

 だが、傷は薬を塗らなければ治らないものだ。
 だって大学入って勉強し続けて、ローキャンの講義受けて思想汚染されて? それでフェルディナンドに目をつけられてライン生命入って? 新設されたアーツ応用課に突っ込まれて、主任にまで上り詰めて? おいおい友達作る暇も恋人とイチャイチャする暇もねぇじゃねぇか!?
 母親の言葉すら忘れるほどに自分を追い込み、ワーカーホリックとなって忙しさで全てを忘れ、全力疾走していたのがドロシーだ。

 努力し続け、一人生き残った自分の意味を考え続け、他人に手を差し伸べ続けるだけの人生。
 上にも書いたけど殉教者だよこれ。シスターとか宗教とかって出すとどうしてもオカルティックで古臭いイメージが浮かぶけど、ドロシーは現代科学版シスターだ。祈りと聖書ではなく数字とフラスコで信じるものに尽くす様は神々しいとすら思えるね。

 ただ、何かに没頭することで麻痺させていた心の傷も、今回の件で思い出すことになる。
 けれど治療はされていない。確かに今回の事件における一連の流れと、サニーや母の言葉は彼女の悩みを少しは晴らしてくれただろう。
 だが長い間麻酔されてきた傷だ。傷ってのは古ければ古いほど、抉って膿を出して、ちゃんとした薬で処方しなければならない。しかも今回新しく背負わなければならないものも出来た。

 調子は変わってないみたいだけど、彼女は結構限界だと思う。
 それでも頑張っていけるのがドロシーというキャラクターではあると思うけどね。

 それでも、彼女の調書にはこう書いてある。

「ドクター、あなたなら私の言っていることをわかってくれるんじゃないかしら?だって、私たちは……こんなにもよく似ているもの。」

 あら^~

 この言葉の捉え方は幾つかある。どう捉えてもおいしいね。
 出来ることならば、ドクターが彼女の傷に気付いてあげて、彼女にとっての薬となるように。出来ることならば彼女の夢を、より良い形で共に歩めるようになってほしいものだ。

 次はパゼオンカの夢小説を描こうと思ってたけど、次の次はドロシーで決まりやな……。

メインテーマ

 さて、では今回の翠玉の夢についてまとめていこう。

 キーワードは開拓者だ。
 この言葉は作中で四つの表現で使われている。


 一つは言葉そのままの意、荒野の開拓者。
 聞こえのいい言葉だ。勇敢さを感じられる。
 けれど現実はその逆で、荒野での開拓作業に身をやつさねばならないほど追い詰められた者達の別称である。グルビア社会からの落後者、何の能力も持たない無能集団、努力しなかったが故の当然の帰結。そんな風に捉える人がグルビアには多いだろう。
 開拓者こそがグルビア社会における未来を自分で切り拓けなくなった者達だというのは、盛大な皮肉である。


 二つ目はフェルディナンドが用いた開拓者。
 先駆者と呼んでも差支えがない。
 この社会を牽引していく者。全員の先頭に立ち、よりよい社会の実現のために突き進んでいくトップリーダー。彼は自分こそがそうあるべきだと信じて突き進み、ライン生命総括の座を欲しがった。
 彼は多くの間違いを犯したが、しかし自身の理想を追求し誰よりも努力していた優秀な人であることに間違いはなかっただろう。


 三つ目は意識を保ったフィリオプシスとサイレンスの会話から。

「私たちは皆……どこへ向かうのかも、どこから来たのかも知らないまま、ただ道を歩き続けているようなものだと思わない?」
「……うん。特に私たちみたいな研究者はそうだ。」 

 研究者もまた一種の開拓者なのだと。
 先に何があるか分からないけれど、それでも研究をし未知の分野へと足を踏み出しているんだと、そう彼女達は表現する。
 もしかしたらフィリオプシスは四つ目の意で使ったのかもね。サイレンスが返事として「特に私たちみたいな研究者はそうだ」と同意の意を見せているだけだから、そこまで大きな意味合いは持たない。
 けれど、ドロシーという研究者を開拓者という括りに含めるためには、この表現は必要だったのだと思う。


 四つ目はドロシーの母の発言から、誰もが皆開拓者であるということ。

 サニーも、フェルディナンドも、ドロシーも。
 皆が皆、開拓者だ。
 言葉の意が違う? 違わない。
 誰もが自分の未来を自分で切り拓いていく。時には不幸な事故にも合うし、普通の人生からは踏み外すし、甘い言葉にも乗ってしまうけれど。でも、自分の人生は自分だけのもので、自分の未来は自分のものだ。そこに違いはないはずだ。

 だから、その道の途中で親しい誰かと共に歩むこともある。
 道が分かれても心配するな。きっと彼の未来は明るいはずだから。
 貴方の幸せを願っている。

 これが、僕が翠玉の夢を通して受け取ったメッセージだ。
 電波電波してるって? 感受性が高いと言え。毒電波まき散らしてると思うならぜひ、貴方の受け取った電波をぜひ僕に教えてほしい。

終わりに

 以上、翠玉の夢の感想でした。
 メアリーについてや、アステジーニについて、ミュルジスやホルハイヤについても長々語りたいところですが、ドロシーについて書き連ねて良い感じにまとまった気がしているのでここでやめます。特にメアリー×サニーは結構妄想止まらないので次の次の次に夢小説描きたいと思ってる。時間が……足りない……。

 実は最初、これ動画にしようと思ったんだけど、生声で喋ったら軽く40分超えてしまって、悲鳴を上げてお蔵入りにしました。えへ。
 やっぱ文字だね。この感動を抑えきれない興奮と共に白日の下にさらしたいという欲望はあったけど、感想なんてものは文字で羅列した方が需要が高そうだということからnoteを書きました。

 少し上にも書いてありますが、僕は誰かの感想を待ってます。
 イベントを通しての感想はもちろん、このnoteに書いてある内容に対する感想でもいいです。
 自分はこういう捉え方をした、こういう解釈をした、ここはこうなんじゃない? これ明らかに間違えてるだろプギャー、なんでもいいです。この冷めやらぬ熱をもう少し楽しみたい。コメントお待ちしております。

 ということで、終わります。
 ちなみに2,1000文字らしいっす。ここまで読んでくれた酔狂な人、あんた良い人だね。
 それではまたどこかで。さようなら。

※DMにて文中の大きな間違いを指摘してくれた人、ありがとうございました。イベリアとグルビアが混ざっていた点、フェルディナン「ト」が紛れ込んでいた点、アステジーニを非感染者と書いた点を修正しました。

作中設定についての推測と妄想

 ここから妄想8割。
 意見質問反論反証待ってます。

Q.伝達物質まわりってどんな仕組みなんや?

 被験者→伝達物質→メインコア→伝達物質、みたいなイメージ。

 まず伝達物質とは神経信号を元に動く銀色の液体のこと。
 この物体は遠隔操作も可能で、何らかの電波を受け取って形を取ったり動いたりする。
 その電波を発信しているのがメインコア。イメージではパラボラアンテナのついたスパコンみたいなもんを想像してる。
 ただどうにも伝達物質はただの電気信号ではなく、人間由来の神経信号とやらを必要としているらしい。人が必須。

 そのため、被験者の頭にケーブル繋げてケーブル内に伝達物質を流し込み、伝達物質で被験者の脳波を読み取らせ→その脳波をメインコアに流し込み→メインコアから無線で外にある伝達物質に送信しているって感じ。

Q.ドロシーが伝達物質飲んだら夢の世界に入ったけど、アレ何? 領域展開?

 あれは夢であり、ちゃんとした言い方するならば「メインコア内部」だと思ってる。
 眠らせた人達の意識は皆一つの場所に集められるらしい。それがあの夢。彼ら一人一人が夢を見ているのではなく、一つの夢の舞台に皆いるって感じだと思う。
 夢の中は絵に描いたような幸せが満ちており、被験者達は元気でやっているらしい。

 ただ、彼らに外の様子は分からない。
 同時に彼らに外の伝達物質の操作権もないということが分かる。
 それが出来るなら幾何学体が暴れまわって元仲間だった開拓者達を危険に晒すような真似しないしね。つーか意識あるなら、真っ先に皆でフェルディナンドの元に押し寄せてタコ殴りにしにいくでしょ。泣くまで殴るのやめないって。

・彼らは幸せな生活が出来ている。
・そしてここが夢だと認識してはいるものの、どこか夢見心地。おそらく実験の過程で認知に異常をきたしたのだと僕は推測している。
・嵐(=この夢が終わるようなこと)が来たらどうすればいいか知っている。つまり、自殺を視野に入れていると僕は推測する。彼らは元々本当の崖っぷちを生きていた人間で、ドロシーの用意した最終手段も奪われたら死ぬしかないと思っている。
・明日という概念、つまりこの幸せな生活を手放して次に進もうとする人間もいる。おそらくこれは元研究者の被験者で、彼はこの夢が覚めたら起き上がってまた頑張らないとな、というような現実的な思考を持っている。つまり認知が正常(または異常)な部類の人の発言。
・「夜が明けたら出発しましょう……変ね……何だかこの夜、やけに長いような……」この発言はおそらく外で幾何学体が動いているためにメインコアの稼働率が上昇、つまりは彼らの神経信号が「幸せな夢にいる自分」ではなく「外の幾何学体」を動かすために使われているせいで視界情報に問題が発生しており、目の見えない状態を夜と表現しているのではないかと僕は考える。実際にドロシー視点で夢の世界が夜になった描写はない。彼らは目が見えなくなったことを夜と表現しているのだ。

Q.いや、外で動いている伝達物質には意思があるんでしょ? ドロシーがペットみたいに話しかけたり、酷いことを言うサニー達に対して「皆聞いてるんだから」って聴覚があるような発言もしてたよね?

 全てドロシーの勘違いであり妄想。

 まず意思があるなら開拓隊を襲わない。でも彼らは何度も襲われ、イベント中でも襲われている。にも拘らず、フィリオプシスの受信した被験者も、夢の中の被験者も、誰かを故意に傷つけた描写がない。

 そもそもフェルディナンドがコントローラーを被験者に握らせるような軍事力を売りに出してるはずがない。
 イベント以前にも開拓隊が何度も襲われたことや、イベント中にコロニーにいきなり銀色の飛翔体が襲ってきたこと、幾何学体暴走。これらのことからみても、ある程度の操作権はフェルディナンド側が握っていると考えられる。
 まぁ作中で「伝達物質は音と光を頼りに人を襲う」と対策を立てられていたことから、フェルディナンドも完全に操作できるかは怪しい。
 けれどそれでも、被験者達の意思は外の伝達物質には一切関与していない。

 今までドロシーがペット扱いしたり話しかけていたのは全部ままごと。
 彼女もどこかで気付いていつつも、目を逸らしていたのかもしれないね。

Q.それだとフィリオプシスが被験者の電波を受信して発言した「フランクスさんを責めないでやってくれ」って発言はどうなるの? 被験者が会話聞いてないと成り立たなくね?

 それは苦しいところ。

 こちらの想像としては「寝ている被験者の耳に音の情報が入り、それが神経信号に代わってケーブルを伝ってメインコアに伝えられ、夢の中の人も会話を聞ける状態になって、メインコアからフィリオプシスに無線送信された」が有力だと思ってる。

 「外を飛んでる伝達物質が会話を受信してメインコアに送り返し、それを夢の中の人たちが聞いてメインコアに送り出し、そこからフィリオプシスへ~」も考えられるけど、それだと受信性が高すぎるし、外の会話(ラボの外で襲われたりしていること)を夢の中の人達が知らない理由が分からない。コレが出来るなら伝達物質は被験者の意思で動くことになっちゃう。

 だから、多分メインコアは送信一方向の一極性。
 ラボの中で被験者の身体の近くだったからこそ、サニー達の会話を被験者たちが聞くことが出来た。
 また、他でもない大恩人のドロシーについてのことだったから、認知の狂った夢の中の被験者でも、ほんの少しまともになって発言することが出来たんじゃないかな、って僕は解釈した。

Q.ところで、ドロシーなんで実験してたん? 伝達物質が実用化したらどう皆が平等になるん?

 作中のドクターサイドにてパワードスーツについての会話があった。

 パワードスーツは素晴らしい。
 中に入って人が着れば、高性能高機動高耐久の兵士が完成だ。
 けれど、従来のパワードスーツは人を選ぶ。操作技術であったり、身体的なアドバンテージのある人が中に入らないとまともに扱えないものばかりだ。
 でもこのパワードスーツは違う。
 中に入るのが子供でも老人でも、男でも女でも、ほぼ同じ出力を出せる。伝達物質がサポートしてくれるんだ。
 おまけに伝達物質だけでも動く。人が入る必要すらない。

 つまり、パワードスーツと伝達物質が量産体制に入れば、極論全人類パワードスーツにライドオンできる未来が訪れるわけだ。また、このパワードスーツがあれば開拓者なんていうものは必要なくなるだろう。
 それは流石に現実的じゃないけど、この技術が確立され応用され発展していけば、他の手法で全人類が平等になれるんじゃないか。
 そういった思考もあって、ドロシーはフェルディナンドと技術提携したんじゃないかなとも思う。

 また、ドロシーは「外で動く伝達物質は被験者が動かしている」と思っていた節がある。
 つまり全人類がケーブルで繋いで夢の中に入って、現実では伝達物質の身体を持つ世界を最終系としていたのかもしれない。皆が伝達物質の身体を動かすわけだから性能差もないし、危険を伴う作業をしても伝達物質だからすぐ治る。絵面がかなりヤバいし生殖どうすんの問題が発生するが、まぁ確かにドロシーの理想としてはこれでもいいかもしれない。
 現実には、外を出歩く伝達物質には被験者の思考なんてものはなかったわけだが。

 他にも色々考えられるが、本命予想はこの二つかな。
 下の方が僕は納得度高い。

Q.被験者生きてるんじゃ? それっぽい描写あるよ?

「ふぅ……実験は中止になって、ドロシーは怪我をせずに済んで、被験者たちも少しずつ意識を取り戻してるなんて……」

DV-6 後編

 上記はアステジーニの言葉。
 彼女が「少しずつ意識を取り戻してる」と言ったのだから、起き上がりだしていると捉えることは出来る。

 ただ、起きてきた被験者達とドロシーやサニーが会話している描写は一切ない。起きたなら流石に話してないとおかしくないか? 特にサニーと寝ていた開拓者達の遭遇シーンは、被験者がこの先生きていくとするならば描かれていないとおかしい。(彼らがどこかで再会を喜び合うシーンを入れない理由がない)
 つまり装置を取り外したり、脳波を測って数値的な意味合いでアステジーニは「意識を取り戻してる」と言っただけの可能性が高い。

 まぁこの描写はどうとでも捉えることは出来るし、実際に意識が覚醒に向かっていたのかもしれない。

 ただ、以下の理由から被験者達が生き残る未来はなかったと思っている。

フェルディナンド「手筈は整ったか?」
ライン生命警備課職員「はい。こちらの人員がすでに基地へ入り、研究エリアに近付いています」
フェルディナンド「よし、そのまま準備していろ」

DV-6 後編

 ドロシーの実験中止決断後、ドロシーのラボのある基地にはフェルディナンドの手の者が入ったという描写がある。
 そしてこの会話の直後、フェルディナンドの指示によって幾何学体が出現するわけだ。

・幾何学体を動かすにはメインコアが必要であり、それはドロシーのラボ内にしかない。
→フェルディナンドが自前で持っているならそっち使えば良い話。彼にはラボのメインコアを奪取する必要があった。

・彼は準備していろと言い、ドロシーやサイレンスはラボから離れている。
→ドロシーをラボから追い出し、幾何学体を動かすための準備、つまりは電池とメインコアの操作を行っていたと考えられる。
→なら当然、電池にはケーブルをつなぎ直すし、被験者達を避難させるわけがない。

・幾何学体は生まれた場所、つまりドロシーのラボの真上で崩壊して最期を迎えている。
→電池にされた被験者は現実の肉体の操作権を失っている。小さく見積もっても建物3階分大の質量をもつ金属質な液体が落下したら、真下にいる人間は圧死する。しかも受け身も防御の姿勢も取れない就寝状態である。

・物語的に死んでないとおかしい。
→生きてるなら、なおも現実で困窮しているであろう彼らをドロシーが見過ごすわけがない。彼らを助けようと手を出したり、ロドスに要請したりするのが筋。にも拘らず、後日談にもプロファイルにも彼らの存在は一切描写も暗示されていない。

 死んでいるのがあらゆる観点から見て正しいと思う。

Q.被験者生きてるんじゃ? 死んでたらサニーもっと怒らない?

 サニーは元々、ドロシーを諸悪の根源だと考えていた。

 消えた仲間達はドロシーの人体実験の犠牲になったと思っていた。テラの世界観的に、死んでいてもおかしくないか、死よりも悍ましい責め苦を受けている可能性まで考えていた。だからこそ彼は命を賭す覚悟を持ってこの一連の事件の主犯に名乗りを上げている。
 銀色のアレに襲われて命の危険を感じ、それを操っていたのがドロシーであるという現場を見て、今までの契約書はもう命に係わる以上のヤバい代物だと思ったからこそ、彼は命の覚悟をしたのだ。「ドロシーがなんか嘘ついてヤバいからスト起こしたろ」ぐらい甘さではない。

 そしてドロシーとの会話を通して、彼はドロシーは「酷い勘違いをしたマッドサイエンティストだ」という認識に変わる。
 つまり最初の懸念の一つだった「ドロシーは俺たちに嘘を付き、裏ではあくどいことをしている悪者」ではなかった。歪んでネジ曲がってはいるけれど、ちゃんと彼女は善意で開拓者を助けようとしていたことを知る。善意がおかしかったのが問題と知ったから、彼はそれを正すべく「自分の未来は自分のもの」と発言している。

 また、彼は被験者の言葉をサイレンスから聞いた。
 被験者は「フランクス先生を責めないでくれ」「これは俺たちが選んだことなんだ」「俺達が選択したんだ」とサニーに伝えており、サニーはサイレンスから聞いたその言葉を被験者のものだとちゃんと認識した。

 更に事件を通して、彼はメアリーとの和解を果たしている。
 メアリーに向かって過去の謝罪をし、ちゃんと会話をし、それなりに仲直り出来たことで彼は未来に希望を見出す。彼の死んだって構わないという覚悟は仲間のためでもあったけど、どうしようもない自分の現状からくる投げやりな態度の表れでもあった。だから彼はストーリー終盤でメアリーと会話をしている時に未来を感じさせる言葉を発してしまった自分に疑問を抱き、「死んだって構わないと思ってたんだな、俺」とその変化に戸惑いを抱いている。

 また、彼は本当の悪者はドロシーではなく、フェルディナンドだということを知った。アステジーニに言われたし、彼自身ドロシーとの会話を通じて彼女が根っからの悪ではないと体感してる。

 そして彼は、そのままフェルディナンドの元へ行くのではなくメアリーと共に警備隊と交戦することを選んだ。

 彼はイベントの最初、もっと言うならばドロシーの研究室に踏み込んだ時と、サイレンスからの代弁を聞いた後とで、心境に大きな変化が訪れている。

 彼の怒りはもう消えている。
 彼の怒りは「選択肢なんて残っちゃいない俺達のことを、更に食い物にしようとしている奴がいる」だと思う。
 被験者が何も知らずに契約を結ばされた、騙されて後悔しながら植物状態になったと思っていたから、彼はドロシーを襲った。ドロシーが冷静に説明している間も彼は常に激高していたしね。

 けれど被験者達から「俺達が選んだ道なんだ」と言われた時点から、彼の感情は穏やかになってる。彼らはちゃんと理解していて、こうなると分かっていてこの道を選んだのだと、彼はあそこで納得し、怒りが消えたのだと思う。
 だから死んだとしても、怒ったりはしないと思う。選択の結果死んだのなら、サニーというキャラクターにはもう怒る理由がない。彼は徹底して「自分の自由」を主張していた。確かに被験者たちは仲間ではあるけれど、被験者達は自分の意思なのだとサニーに伝えている。

 だから彼は、あそこで折り合いを付けられたのだと、僕は思う。

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