国道320ぷい号線に恋するモルカー
※モルカーDS8話の二次創作です
運命的な出会いを果たしたモルカーのドゥ―フ―とパートナー(紫の女性)は、めでたく一緒に暮らすことになった。
けれどもモルカー免許は取ることができず、二人が一緒に走ることができる場所は私有地などの、極々一部の限られた場所だけであった。
「ドゥ―フ―見て、ここ素敵ね」
ある日、紫の人(以降紫さんとする)は何気なくドゥ―フ―に旅行ガイドを見せる。ありふれた雑誌の1ページに、どこまでも続くまっすぐな道路の写真が載っていた。
「ここ、途中で道の駅があってね、キャロットソフトクリームが名物らしいの。それから先の先までずっといくと、最後は夜になると星空が綺麗な湖があるんですって」
紫さんは少しばかり夢見がちなところがあり、(何せ自分の理想のモルカーをぬいぐるみにして、肌身離さず持っていたような人だ)今は妄想上でのドゥ―フ―とのドライブデートにすっかり夢中になっているようだ。
「ぷ……」
しかし、ドゥ―フ―にとって写真のそれは衝撃的で、煌めいていてまっすぐな道路に目を奪われた。旅行ガイドを紫の人から譲ってもらうと、飽くことなく眺め、肌身離さずしっかと握りしめていた。
「しまった」
紫さんは自分の軽率な行動を呪った。彼女もドゥ―フ―も運転ができない。教習所ですべての判定が「不可」であったという、運転における適性の無さに関しては鬼教官からお墨付きをいただいているレベルだ。
世の中には、絶対に公道にでてはならない、免許を持たせてはならないという人間は悲しいが存在する。自身が走る凶器にならないために、それは紫さんもドゥ―フ―も痛いぐらい理解はしていた。
……理解はしていたが、それに感情が伴うかと問われたらそうではなく。
「ムゥウ……」
鬼教官の胃薬の消費が目に見えて増えたのは、ドゥ―フ―と紫さんがDRIVINGSCHOOLに出戻ってきてからだった。
「お願いします、何年かかってもいいから必ず試験に受かります!免許をとっても絶対に公道を走ることはしません。一度だけ運転できたらその後は決して……!」
鬼の目にも別の意味で涙、目に見えて鬼教官の疲労が蓄積されてゆく。
いっそ仮免の教習先を国道320ぷい号線(旅行ガイドに掲載されていたあの場所だ)にして、無理やり二人の夢を叶えてやろうとも考えたが
「そんな無粋なマネ良くないですよ」
どうやら最近良い人ができて、どことなく幸せそうな教習指導員のお姉さんにやんわり止められてしまい、鬼教官は胃がキリキリするような教習に付き合い続けた。
斯くてドゥ―フ―と紫さんは53回の技能試験に落ちて、鬼教官はもとより勝利の女神も根負けしたのだろうか。54回目に奇跡が起こった。
「ありがとうございます、このご恩は一生忘れません!!」
ドゥ―フ―も紫さんも顔を涙でぐしゃぐしゃにさせて、お世話になったDRIVINGSCHOOLの人たちに何度も頭を下げる。
「ドゥ―フ―」
「ぷい」
「私たちはできないことが沢山ある。運転もその一つ。国道320ぷい号線は、きっと私達の最初で最後のドライブになると思うの」
その後、運転免許証は二人にとって世界で一番高い身分証明書になるだろう。二人の世界には、これからもケージ越しのけん引が必要になるだろう。今後も自分たちは、たとえ免許があってもどんなところでも自由に走るといったことはできないだろう。
それでも免許を取りたかったのだと紫さんは言う。
深夜にそれはおこなわれた。国道320ぷい号線までけん引してくれたモルカーズにお礼を告げて、二人はまっすぐな道を恐る恐るゆっくりと走り出した。
夜にしては存外明るく、紫色の空には沢山の星がちりばめられている。
日の明るいうちであれば、道の駅でキャロットソフトでも食べたなぁとぼんやり二人は考えるが、他の人たちに迷惑をかけたくなくて、人通りのほぼないこの時間帯に走ることにしたのだ。
「ぷい(いらんかね)」
深夜の公道の横に、もこもこした茶色い毛並みのおはぎとハンバーグをかけあわせたようなモルカーがドゥ―フ―と紫さんを呼び止めた。
「国道320ぷい号線名物のキャロットソフトクリーム! ここに来たらやっぱりこれ食べなきゃ!」
おはぎモルカーの中からは少しばかり軽薄そうな、軽いノリの兄ちゃんといった感じの男がソフトクリームを両手に二つ持って出てきた。
真夜中のキャロットソフトクリーム売り。怪しすぎて逆に安心とでも判断したのか、紫さんはお礼を言ってアイスを二つ受け取ると、片方は自分が、もう片方は相棒に渡して甘くて冷たい淡いオレンジ色のそれを食べた。
「ぷい」
「ああ……ふあーあ」
自分じゃ目立ちすぎてしまうからと、それとなく二人を見守ってほしいと鬼教官にお願いされたのはテディとそのドライバーだった。
「ぷい」
全然それとなくじゃないけどな。テディの鳴き声にまあまあと適当に流すテディドライバー。
そんなやりとりも知らずに
二人はおっかなびっくりぷいぷい先を進む。目的地は星空が綺麗な湖だ。
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