はじまりのコップ


本の表紙に、空っぽのシンプルなコップが写っている。
透明感があって、すこし滲んでいるような。ガラスのただずまいがいい。
泡立ったビールがとても美味しく見える。
左藤玲朗という人が作った吹きガラスだ。この左藤さんのブログで公開している文章がなんとも味わいがある。
大変な時期に、予備校講師や代用教員として「現国」を教えていたというから、なんとも含羞のある言葉にうなずける。
『はじまりのコップ』で取材されているときの、応答にも、教条的なものの言い方とか、精神論とか、そういうものを遠ざけるようなところがある。
ちょっと難しそうな人だけれど、変人になりきらない、商売人としてのバランス感覚も見える。
吹きガラス、というと手でこしらえた「味」に寄り掛かりそうであるが、左藤さんのコップには、もっとプロダクトとしての姿の美しさへのこだわりも、写真から伝わってきた。

この『はじまりのコップ』は、左藤さんが、2年ほどの「修行」を経て、色々と生活のために回り道しながら、覚悟を決めてガラス工房を安定させるまでのいきさつが、丁寧に聞き書きされている。
感銘を受けたのは、ガラス職人が言葉でも自分の制作に豊かにアプローチしているところだ。

△火を消して
’’炉に火が入っているうちはトラブルが心配で気が休まらない日々が続く。(中略)
火を消してみて安心するかと思えば、そんなことはなくて、もっと根本的な不安が頭をもたげるのです。あなたが人生に感じる不安と同じです。何人たりともそれから逃れることは出来ないのです。語り口が変です。

左藤吹きガラス工房の商品は、だいたいsold out だった。いくつかの食器屋さんに問い合わせをしてみたけど、今は、直販をメインにしているみたいだ。
「居酒屋コップZ」という商品を、いつか取り置いてもらえないか、メールでお願いしたいと思う。

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