自民党改憲案の見えない問題点
おそらく臨時国会で現政権は改憲の議論を発議するでしょう。
しかし、自民党改憲案は『国家権力といえど侵せぬ市民の権利と自由』を『国家権力のコントロール下に置かれるモノ』に書き換えてしまう危険な代物です。
先ずは私達の生活に深く関わる現行憲法29条の財産権について、自民党改憲案と比較してみたいと思います。
現行憲法
【財産権は、これを侵してはならない。】
自民党改憲案
【財産権は、保障する。】
これ、『国家権力といえど財産権は侵してはならない』というルールを『財産権は国家権力が保障する』に変えているんですよ。
つまり、『国家権力から守られてきた財産権を権力のコントロール下に引きずり込んでいる』。
財産没収が合法化される可能性もあるわけです。
続いて『公共の福祉』が『公益及び公の秩序』に置き換わっている部分の問題点を見てみたいと思います。
『公共の福祉』は憲法が定める基本的人権を制約出来ますが、これは『人権同士が衝突した場合』に限られます。
これについて煙草をテーマに例を提示したいと思います。
『煙草が好きな人は、煙草を吸う権利がある』
『煙草が嫌いな人は、煙草を避ける権利がある』
この両者が同じ喫茶店を利用するとします。
すると、当然ながら『煙草の煙が嫌だから吸うな!』『何を!俺には煙草を吸う権利があるんだ!』という風に衝突が起きてしまいます。
ここで、『公共の福祉』の出番です。
先述しましたように『煙草が好きな人は、煙草を吸う権利があります』。一方で『煙草が嫌いな人は、煙草を避ける権利があります』。
この矛盾を解消するにはどうしたら良いか?
それはズバリ、『折り合いをつける』ことです。
例として喫茶店の店内を『喫煙スペース』と『禁煙スペース』に分けることがこれにあたります。
『煙草が好きな人は、“喫煙スペースの中に限って”煙草を吸う権利を行使出来る』
『煙草が嫌いな人は、“禁煙スペースの中に限って”煙草を避ける権利を行使出来る』
こうなります。
それぞれ両者の権利に制限を設けつつ、両者が快適に過ごせるようになっています。
これが『公共の福祉』による人権の制約です。
人権をある程度制限出来る力は使い方を誤れば独裁者の武器になってしまいます。
この為、学説上では以下の解釈があります。
「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」
これを私なりに噛み砕いて説明いたします。
『人権を制限する力は、人権同士が衝突した場合に折り合いをつける為のものであって、政府(国家権力)が自分たちに都合の良いように使うことは出来ない』わけです。
しかし、『公共の福祉』を『公益及び公の秩序』に書き換えた自民党はこう明言しています。
『憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではない』
これ、危険なんですよ。
そもそも『人権を制限出来る力』それ自体が危ないから、先述した学説上の解釈があるわけです。
「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」
要するに、“人権同士の衝突に折り合いをつける”目的以外で『人権を制限する力』を使っては駄目という事です。
それを自民党は変えようとしています。
『憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではない』
つまり、『人権同士が衝突した場合』以外でも『人権を制限する力』を使えるようにしたいのです。
本来、力というのは誤った方向で使われないようにする為に制限がかかっていなければなりません。
その制限を取っ払ってしまおうとする自民党改憲案は非常に危ういのです。
長文になってしまいましたが、読んで下さりありがとうございました。
それでは、また!
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