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【Burkina Faso】「あなた」に会いに来ました。|vol.5|torito旅しんぶん

 頭上に揺れる水瓶、すっと背筋の伸びた立ち姿、つややかな黒い肌、鮮やかなアフリカ布の色、赤茶けた大地、曲線を描く木々、駆け回る子どもと動物たち。

 アフリカ、と聞けば脳裏によぎる景色。そこに、写真のように微動だにせず、凛々しく佇む「彼女」がいる。いつからかずっと心の中にあるこの景色は、一体どこなのだろう。

 わたしは、ずっと「彼女」に会いたかった。

 ついに、アフリカの大地を踏むのだ。

 今回も旅相棒は、夫のよっし。ブルキナファソの首都ワガドゥグから、鉄道に乗り、三ヶ月かけてゆっくり南下し、隣国コートジボワールの沿岸部の街アビジャンを目指すという、実にのんびりとした旅程。選んだ理由はいたってシンプルで、気候と治安、そして人柄。話に聞くブルキナべの人の良さそうな雰囲気に、「この人たちとなら、ゆっくり過ごせそうだ。」と即決。往復のチケットを握りしめ、あとの予定は現地調達のふたり旅だ。

 アフリカに行く!と言えば、必ず理由を問われる。いくつかそれらしい理由を見繕ってみるけれど、最終的には、曖昧にしか答えられなくもどかしい。振り返れば、高校時代、アフリカの難民キャンプの映像を見て、国際協力を学びたい、と大学進学を選んだ。そこからの経験の積み重なりが、今の暮らしの在り方に繋がっているのだから、原点回帰も理由の一つだろう。だからといって、今回の旅は支援活動とは程遠い。むしろ、ブルキナべのごくありふれた日常にお邪魔させてもらい、まるで現地のブルキナべと友人や家族のように、共に暮らしてみたい。単純に、ずっと心の中にあった、あの世界に生きたい。あの「彼女」に会いたい。ただ、それだけなのだ。

 そもそも、アフリカなんてものは存在しない。あるのは多種多様な民族が入り混じる54カ国もの国々である。わたしは一体どこに行こうとしていたのだろう、と旅準備の一歩を踏み出した途端に、途方に暮れた。もちろん、あの「彼女」も存在しない。あくまでイメージの集積であり、憧憬そのものだった「アフリカ」がガラガラと崩れ去るなかで、いかに、わたしが現実世界としてアフリカを認識していなかったのかを痛感した。

 ひとたび「わたしは、まだ何も知らないのだ。」と観念し、個々の国として認識すれば、ひとかたまりだったアフリカ大陸が、少しずつ融解していった。知ろうとすればするほど、未知なる気持ちは深まるばかり。けれど脳内の白地図に広がるアフリカは、どんどんカラフルに塗られていく。

 最初は、よっしの本棚に並ぶ、学問的な文化人類学や民族誌のようなものばかり読んでいたが、旅が近づくにつれ、リアルタイムの情報を追うようになった。

 アフリカの国際ニュースを見れば、テロや民族紛争、貧困、絶望的な食糧難、乱開発の波が迫っているなどと、胸を痛めるものも未だに多い。しかし、インスタグラムやツイッターには、生き生きとしたひとびとの姿があった。茶目っ気溢れるおばちゃまのストリートダンサー、最新アフリカンファッションに身を包む女子たち、アフリカンPOPSはどこか韓国っぽくて、今日も、友人の赴任先では子供達が大きな声で歌っている。

 ああ、繋がっている。

 この大地は、確かにいま、存在している。

 この実感が、ようやく幻のようにただぼんやりと存在していた「アフリカ」を、「ブルキナファソ」という目的地に変えた。 

 いま、わたしの頭の中にいるのは、憧憬のイメージだった「彼女」ではなく、実体のある「彼女」だ。あの街で暮らし、きっとわたしと同じように、夕飯の献立に悩んだりしながら、頭上の水瓶を揺らし帰路につく。彼女は、今日も生きている。

 

 大きな太陽がじりじりと大地を照りつけている。額ににじむ汗を手でぬぐいながら、一歩、また一歩と、砂っぽい道を踏みしめ、ふいに顔を上げる。道の先に、見覚えのあるシルエットが浮かんでいる。わたしは大きな声で呼びかける。

 「Ne y windiga, こんにちは!」

 あなたは、頭上の水瓶を支える手をパッと離し、
 手を振って、笑いかける。

そうやって、わたしたちは出会う。
きっと、どこかで。

 わたしは「あなた」に会いに来ました。

 ▪ ブルキナファソは6カ国と隣接する内陸国。マリ、ニジェール、ベナン、トーゴ、ガーナ、コートジボワールに囲まれ、多様な文化が入り混じる。食文化だけを見ても、首都ワガドゥグには、ブルキナ料理をはじめ、多国籍なレストランが立ち並ぶ。ちいさくも、おおらかな国。

 ▪ 沿岸部のコートジボワール。首都はアビジャン。ご立派なビル立ち並ぶ街中には、洗練されたファッション、お洒落なレストランやカフェと、バックパッカーもたじたじの都会的な装い。ワールドカップで日本と対戦した国として有名。

 どちらも公用語はフランス語&現地語。

 片道35時間の長旅の末、どんな景色に出会えるのでしょう。
 よっし、たのしみだね。


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