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【Cambodia】「あなた」の隣で見た景色|vol.2|torito旅しんぶん

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 たったひとりの友との出会いで、世界の景色が一変することがある。

それが、旅先でなら、尚更だ。

 わたしにとって、彼女はそんな存在だった。

 

「こんにちは、わたしはカンボジア人です。
本名はSakriknyだけど、みんなNiniと呼んでます。よろしくね。」

  カンボジア人? 流暢な日本語?!
    こんな小さくて可愛い子が、すごい…。

「に、日本語、ジョウズデスネ…!」

 驚きのあまり、わたしの方がなぜか片言な日本語で、ケラケラと笑うNini。こうして、とある国際交流事業で出会ったわたしたちは、一瞬で仲良くなった。

 学生時代、カンボジアには何度も訪れた。主に、カンボジア支援のNPO法人かものはしプロジェクトに関わる形で、農村部の活動地ちかくのシェムリアップに滞在していたが、帰り際はいつも、首都プノンペンにあるNiniの家にホームステイさせてもらっていた。

 Nini、母、妹二人、祖母と、ハウスキーパーさんたち三人との暮らし。三階建ての豪邸で、日本車が三台、トイレにはウォッシュレットまである.。ハンモックの吊ってある高床式の家が並ぶ村から戻ったばかりのわたしは、毎回その違いに驚いた。

 Niniの暮らしに混ぜてもらう日々は、そのどれもが新鮮だった。

 市場へ行けば、食材エリアを通過、その奥へずんずん歩き、まるで野菜を売るようなラフさで美を売る美容街が広がる。路上に並ぶむき出しの椅子に座れば、そこがサロン。フェイシャル、ヘッドスパ、ネイル、一通りしてもらって、準備万端。

 次は、映画館、ゲームセンター、回転寿し(!)が並ぶ建物へ。あったのはプリクラ! 大きな木のボックスの中に入ると照明とデジカメがセットされており、外にいるお姉さんが撮影してくれる、超ハンドメイドスタイル。「無ければなんでも作る、さすがだな!」と驚いていたら、さらに落書きまで自由にしていいよ、とパソコン画面を差し出すお姉さん。うん、満足の出来。忘れられないカンボジア式プリクラ初体験。(とはいえ当時は約10年前だもの。今現在はきっと最新機種が置かれていることと思うのだけど。)

 またある日は、彼女の通うアート系の学校について行き、デッサンの授業へ(ハイレベル、全部英語、あれはきっとエリート校)。帰りに超洗練されたカフェに寄り、近所に新しくできたショコラティエでお土産を買った。

 新旧めまぐるしいプノンペンはすべてが刺激的で気になることばかり。ふたり一緒のベッドに並び、眠りに落ちるまで、毎晩いろんな話をした。

 

 そんなある日、Niniが言った。

「ねえ、マキはいつも『カンボジア人は、~~なの?』と聞くけど、それは答えるのが難しいんだよね。カンボジア人、と言っても、いろんな人がいるから。」

 確かにNiniの言う通りだ、

「カンボジア人 」というひとは存在しない。

NiniはNiniでしかないし、わたしはわたし。

「日本人」ではないのだった。

 その一言で目が覚めたように、主語を「わたし」と「あなた」に変えた。ひとりひとり違うから、「あなたは、こんなときどうするの?」と聞くようになった。そのおかげで、ひとかたまりだった世界が少しずつほぐれて、そこにある多様な景色が見えてくるようになった。

 

 Niniと出会うまで、カンボジアは「支援先」だった。国際協力、地雷、ポルポト、貧困、子供が売られてしまう問題、そんなことばかりが先立っていたし、世界遺産アンコールワット、赤土、田園風景とステレオタイプな景色を「カンボジアらしい」として、偏った色に塗られていたわたしの白地図。

 でもそこにNiniが現れ、「友人の暮らす街」としてのカンボジアを見せてくれた。都会的な暮らしの中にも、昔ながらの屋台で食べ、伝統的な料理を作り、家族で食卓を囲む。単色だったわたしの白地図に、いろんな色を塗ってくれたのだった。

 Niniを通して見たカンボジアは、生き生きとしていた。事前に仕入れた情報なんか役に立たないくらいに、日々変化するあの街で、Niniの隣にいたからこそ、見えたもの、聞こえたもの、感じられたものがあった。彼女がいたからこそたどり着けた人気のヌンパンパテ(カンボジア風バケットサンド)屋台の味は、いまも舌の片隅に残っている。(バケット焼きたて、甘辛くて美味しいの。)

 わたしは、また旅に出る。真っ白な地図を片手に。わたしは「あなた」と出会いたい。「あなたの暮らし」を過ごしたい。わあ、わたしたちこんなに違うね、おもしろいねと驚いたその先で、一緒に笑いたい。そんな美しい景色の中で、共に、生きたい。

「あなた」を通して見た景色が、わたしの世界の解像度を、またひとつ、上げてくれるのだ

 (ちなみに、Niniはもうすぐカンボジアで結婚式を挙げる。共通の友人である日本人の彼と、五年越しの式。わたしも婚姻届にサインをした証人の一人として、参列したかったなあ!ということで、今週は、南伊豆からお祝いの気持ちを贈るように、Niniと食べたカンボジア料理を作るよ。出会ってくれてありがとう。おめでとう。お幸せに!)

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