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いつも同じ答えは出せないかもしれないけど、あなたの目を見て話せるように。|day 5| 西アフリカふたり旅

踏み込めば、見える世界が変わる。
見てしまったらもう見なかったことにはできないから。それがわかってて、一歩踏み込む勇気を持てるか。これは、きっと、この旅中ずっと、自分自身に問い続けることなんだろう。

ワガドゥグ滞在最終日、
日差しも和らぐ夕方に、
よっしはサッカーボールを持って、
わたしは本を持って、
ホテルからすぐの広場へ繰り出した。

サッカーボールを見るなり、
わーっと寄ってくる子どもたち。

ブルキナファベは、サッカーが好きだ。


言葉はいらないスポーツの素晴らしさを側で眺めながら、木かげに座っていると、女の子たちが集まってきた。

サッカーに夢中なよっしと少年たちを傍目に、木かげのベンチに集う女性たちに手招きされる。

そこには、先日お邪魔したちいさなネイルサロンのお姉さんや、行きしなよく挨拶してくれるお母さんと子どもなど、少し見た顔のブルキナベたちが居た。

ホテルから散策するとき、
「Chinois!(中国人)」
「Non, Japonais!(ちがうよ、日本人)」
(ゲラゲラゲラ〜〜)
というやりとりが定番になっていたが、
彼らと喋るのは初めてだった。

我が相棒 指さし会話帳を片手に、片言フランス語でのおしゃべりは楽しかった。
わたしの下手なフランス語は彼女たちのツボに入り、ゲラゲラ笑われ、数字の1から100までのレッスンが始まった。2ヶ月の赤ちゃんを背負ったママはまだ20歳で、髪の毛にビーズを編み込んだあの子は7歳、英語を喋るおしゃまな女の子は12歳。

名前は何?
何歳?
彼は旦那さん?
子どもはいる?
いつ日本に帰るの?

質問が並ぶ中で、
ふと、若いママの口元に手がいく。

「 お腹減った?」
え?減ってないよ。
「ううん、あなたじゃない。
わたし、お腹減った。」
???
「(無言で指でお金を示す)」

それから、
わたしの髪の毛に目をやり、
「これ、いくらだった?」
「わたしの髪、これ、ない」
「あなた、髪、ステキね」
と、続ける彼女。
彼女のヘアスタイルは、編み込まれていてステキだったけど、確かにエクステは付いていない。

ネイルサロンを指差し、
「わたし、あなた、連れて行って」
働く手をした彼女の指には、
もちろんマニュキアは塗られていない。


そうだよね、
うん、そうだよねえ。
したいよね、
かわいくしたいよね。

ただただ、
頷きながら、
わたしは思い出していた。

言葉がわからなくたって、
ジェスチャーでわかる。
気持ちがわかるよ。

言いたいことは、もう、
これ以上言われなくたって、
わかりすぎるほど、
わかってるんだ。

わたしにあって、
あなたになくて、
でも、
あなたにあって、
わたしにないものが
やっぱりある。

一体なにがあって、
なにがないんだ?

お金だけじゃない価値を示したい、
それでも、やっぱり、
どうしてもお金は力を持ってる。

わたしは、この景色を知っていて、
それでも、
迷いながらも一歩進みたくて、
この先の景色を見たくて、
また、来たんだ。

アフリカの地に、やってきたんだ。

学生時代、国際協力を志し、
カンボジアを旅しながら、
幾度となく迷い悩んだことだった。

あれから何年も経ち、
少しは答えを出せたかと思っていたけど、
なにも持っていなかった。
あの頃と同じように、
わたしは戸惑い、隠すように笑い、
目を背けてしまいそうになっていた。

子どもをあやす若い彼女たちの、
強い眼差しは、わたしに向けられていた。

そこを打ち破るように、
息を切らしたよっしがやってきた。
「水を買ってあげて、みんなに」
「そのサッカーボールをちょうだい」
若い彼女たちは、引き続き訴えている。

そこに怯まずよっしは、さっと自分の飲んでいる水を飲むか?と差し出し、少しのコインと、サッカーボール代として少額の紙幣を渡した。

「先にホテルの部屋に帰ってな〜」
と言って男性が集うスポーツバーに向かう
よっしの背中を眺めながら、

わたしは、迷っていた。

少しばかり
落胆していたところもある。
それは彼女たちにではなく、
なんの答えも持たぬまま、
のこのこと現れた自分自身への落胆だった。
そのまま、ヘラヘラと手を振って、
ホテルに帰ろうかと思った。

でも、
一呼吸して、引き返した。
なにも取り繕う必要はないな。
戸惑ったり、
迷ったりしたままのわたしの選択を、
ひとつ、してみようと思った。

広場の隣にある木の下の、
ちいさなネイルサロンに行き、
マニキュアを譲ってもらった。

それは、先日、
わたしがサロンで塗ってもらった、
ブーゲンビリア色のマニュキアだ。

そのまま木の下に向かい、
あの彼女たちに、順番にネイルをした。
ちいさい女の子とママたち、
そして、ネイルサロンで働く彼女にも。
(彼女はみんなをキレイにし続けながら、自分の爪にマニュキアを塗ってはいなかったのだ。)

一本いっぽん、爪を塗りながら、
「あなたの手は、美しいよ」と伝えた。
フーフーとマニュキアを乾かす間に、
みんなに見せびらかす彼女たちは、
ちゃんと笑ってた。

わたしも、その笑顔を見て、笑った。

こわばった心が、少しほころんだ。

このことが、
物やお金をあげることと、
なにが違うのかは、
うまく説明ができない。
なんの解決にもなってないのは、
充分わかってる、

でも、もっと、
温度のあるところで、
彼女たちと向き合いたかった。
そういう付き合いをしたかった。

エゴだな、
自己満足だな、
偽善的だな、
そういう一通りの自己非難は
たっぷりしてきたから、
もういいや。

わたしは、目の前の彼女と、
ちゃんと目を見て話したかった。

わたしの心にも嘘をつかず、
わたしにやれるやり方で、
お互い持ち寄りたかった。

彼女たちはフランス語を教えてくれた、
木かげのベンチに呼んでくれた、
たくさん笑わせてくれた。
だから、わたしも、
わたしのやり方でお返しをしたかった。

そうやって、ボールを投げ合うように、
平たいところで付き合いたかった。

今後の旅では、
いつも同じように選べないかもしれない。
それでも、あなたの目を見て話したい。
そういう選択をしていきたい。

まっすぐに、あなたと向き合いたいよ。

そこには隔てるものはなにもないんだって、
そう、信じてるから。


明日からの旅は、
どんな人びとに出会えるかな。
笑いあえるかな、
たくさん、分かち合えるかな。
そんな風に過ごせると、いいな。

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