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イギリスBrexit騒乱

ブレクジット。

EU(ヨーロッパ連合)からイギリスが離脱する。

それがBrexit(ブレクジット)です。

イギリスがブレクジットを実行します!と宣言したのは、2016年6月23日に行われた国民投票によってブレクジットが決定したからです。

それなのにまだブレクジットが実行されていません。それどころか難航を極めていて、右往左往しているように見えます。

今、イギリスとEUで一体何が起きているのか。なぜここまで、こじれてしまうのか。

ターロウがサックリと切りますね。まず最初になぜ、こんなに揉めているのか、答えを言います。

揉める要因はズバリ、「北アイルランド問題」です。

は?と思いますよね。そこには複雑な歴史に根差した問題があるわけです。

北アイルランドがイギリスの急所です。ブレクジットを容易に出来なくしている根本の問題になってしまっています。

まずブレクジットは現在までに、イギリス議会での採決が3回行われました。3回ともイギリスとEUとの合意書には反対という結果が出ています。テレサメイ首相率いる与党議員から100名も、反対票に投じているのです。なぜここまで反対されてしまうのでしょうか。

実はメイ首相がEUと取り交わした合意書は、ブレクジットになっていません。内容を読むと到底納得できるものではなく、いくら採決をしても否決されてしまうのです。

では、メイ首相がEUと取り交わした合意書とはどんなものなのか。合意書の中で特に2つ、問題視されているものを指摘します。

□バックストップによって北アイルランド領と、アイルランドの間に国境を設けない。

□EU負担金を、ブレクジット実行後も2020年までは支払う。

バックストップとは防御策、安全策とも言うべきもので北アイルランドとアイルランドの間には国境を作りませんという措置です。

アイルランドは島です。イギリスのすぐ横にあるのが「アイルランド」です。アイルランドには32州あります。しかしそのうちの6州のみがイギリスの領土となっていて、その6州のみを「北アイルランド」と呼んでいます。

アイルランドは独立した国として、イギリスとは別にアイルランド単体でEUに加盟しています。

これまではアイルランドもイギリスも同じEUに属していたため、特に国境を設ける必要もなく、同じ国という扱いでいました。

ところがイギリスがブレクジットを決行すると、とたんに北アイルランドだけがEUから離脱します。北アイルランドはイギリス領土なのでそうなります。つまりアイルランドという島の中に2つの国が出来ることになります。ゆえに別の国として国境が敷かれることになります。

これが問題なのです。なぜならアイルランド問題は800年ほど続いているイギリスとの血の戦争だからです。つい最近までテロ行為もあったほど激しい紛争が起きた場所です。

そこに国境を設けることは、せっかく静まったアイルランドに新たに火種を作ることになりかねません。

アイルランドとしては自分たちの島なのにせっかくアイルランドとして1つの国になったのに、北部にある6州のみがイギリスに不当に奪われたままだという感覚らしいのです。

アイルランドはイギリスのすぐ横にあったために古くからイギリスの侵略と統治にあってきました。しかし悪政が続きアイルランドの人々は飢え死にが多数出てしまったのです。

今から100年ほど前に本格的な独立運動が起き、アイルランドは1つの国として存在することになりました。(北部の6州を除いて)

イギリスとアイルランドの紛争は1990年代まで続いたテロ行為や戦争であり、両国に深い傷を残しています。現在でも小さな小競り合いは頻繁に起きています。

イギリスとしてもアイルランドとの喧嘩は避けたいのです。ここに国境を設けてしまうと再び悪夢の紛争が起こりかねません。

そこに目をつけたのがEU欧州議会でした。イギリスに提案したのです。「バックストップという安全保護をして、ブレクジットが実行された後も北アイルランドだけは特別にアイルランドとの間に国境を設けなくて良い」としたのです。

そこでテレサメイ首相は、それでブレクジットが成るならと合意書を持って帰ってきたのです。これではイギリス議会は納得しません。

国境がないということは、関税などもEUに追随することになりかねません。イギリスの中で北アイルランドだけがEUに帰属してしまうと、完全なEUからの離脱にはならないのです。

イギリスとしては完全体でブレクジットを決行し気持ちも新たに主権国家として歩みだしたい。そのためのブレクジットだったはずです。

もし北アイルランドのみEUの息がかかったら、イギリス議会もどうしてもEUの決定に従う場面も出てくるでしょう。そういう懸念からメイ首相が持ち帰ったEUとの合意書にはイギリス議会は命を懸けて反対しているのだと思います。

続いて2点目。合意書の中に負担金に関することが書かれています。

ブレクジット後はイギリスはもうEU加盟国ではありません。それなのに2020年までは負担金を支払うと合意書の中に含んできてしまったのです。

実はEU欧州議会からブレクジット後に空白になる負担金を債務としてイギリスに請求する動きがありました。

その金額が大きすぎるため一括で支払えないとしたイギリスに持ち掛けたのが、2020年まで負担金を支払う案だったのです。

報道では、イギリスがEUに対して2020年まで支払う金額は450億~500億ユーロとありました。

もし500億ユーロならば、日本円に換算すると約6兆6000億円にものぼります。一説にはEU欧州議会は当初600億ユーロをイギリスに請求したとされています。

この金額は「離脱費」や、「手切れ金」などと揶揄されています。

相当な金額をむざむざ支払うと明記した合意書にサインするなんて愚の骨頂だとしてテレサメイ首相は非難を浴びました。

EUは加盟国ごとに、負担金が違います。各国のGDPによって負担金が決められているのです。世界第5位の経済大国イギリスは当然、他の加盟国よりも重くて高い負担金を支払ってきました。

これに対してもイギリスは不満を漏らしています。

EUに加盟する国は年々増えてきました。特に資金の乏しい国が参加してくると、それまでもあった負担金の差が異様に拡大します。

イギリスは自分たちだけでも精一杯なのに、他の国を助けるためだけのシステムには反対していました。しかしEUを1つの国家だと見なす欧州委員会からは、EUに加盟している以上はEUのルールに従うことを通達されます。

そこに2010年ギリシャ破綻という衝撃がヨーロッパに走ったのです。EU委員会はギリシャを助けるべく、EUとして金融政策を強行します。これにイギリスは強く反発しました。

ギリシャ危機を回避したい気持ちはイギリスもあるが、なぜイギリスの資金をここまで取られなければいけないのか。

2011年EU会議は紛糾しました。当時26か国あったEU加盟国にイギリスだけが屹然として立ち向かったのです。

まさにEU連合国 VSイギリス の闘争です。

 当時イギリスのキャメロン首相に強く迫るサルコジ大統領(当時のフランス大統領)と、メルケル首相(ドイツ首相)の姿が紙面に踊りました。

話し合いは難航を極めフランス、ドイツが激しくイギリスに対立し、早朝5時までかかる異様な会議だったそうです。

それでもイギリス首相は署名せずに、EU会議が行われたベルギーのブリュッセルを去ります。ここからイギリスのEU離脱が現実味を帯びていったのです。2011年のことでした。

もともとイギリス国内にはEUから出て行こうとする動きがありました。

イギリスはEUの中でも異彩を放つ特殊な立場にあります。

EUとして大きな1つの国になるわけですから、EU加盟国間はパスポート無しで自由に行き来が出来ます。

ところがイギリスだけはその合意書に署名しませんでした。

ですからEU加盟国になった後も、イギリスに入国する際はパスポートが必要でした。

さらにEUとして大きな1つの国になるので、ユーロというお金に統一されました。

ところがイギリスはそれにも署名しておらず、自分たちのポンドを使い続けています。

そういうワガママが許されるところがイギリス大英帝国の底力だなあとターロウは思っていました。

イギリスは簡単に言えば英語発祥の地であり、今のアメリカの親に当たる存在で、現在も王が君臨するいわば英語界の一大帝国なのです。

おいそれとイギリスに意見できる国はヨーロッパの中にもあまりありません。フランスを除いて(笑)

フランスいわく「フランスは自分たちの王を民衆の手で裁いた。イギリスが王だなどとよく言えるな」だそうです。ギロチンのことでしょうか。

フランスはイギリスなどには負けないとして、いつもライバル視している気がしますね。よくケンカしてます。最近でもホタテ戦争と題した記事が話題になっていました。

イギリスとフランスはドーバー海峡で隔てられてはいるものの、電車ですぐに行ける隣国です。

両国のホタテ漁をしている猟師たちがお互いに水を掛け合ったりして、ここは俺たちの猟場だとばかりに喧嘩したという記事を見て思わず噴き出したのを覚えています(笑)

たわいない喧嘩でも記事になるのは、イギリスとフランスの長年の妙な喧嘩を見てきた世界の人たちが面白がって読むからでしょうね。

EUはグローバリズムの究極の形です。国境がなくなる。国と国を無くして、それをまとめて巨大な1つのカタチにする。

イギリスはEUの中でもトップを担う国です。要と言っても過言じゃないと思います。

そのイギリスがEUに見切りをつけて出ていこうとしているのです。はっきりとグローバリズムに反旗を翻した格好です。

EUの陰りと時を同じくしてグローバリズムを批判し、ナショナリズムへまい進するトランプ大統領がアメリカで誕生しています。

ではイギリスがEUから出ていけば、どうなるのか。

イギリスはようやく自分たちの国を取り戻し、ようやく自分たちで法律を決めて、国を運営していくことが出来るようになります。

主権国家として、主権がイギリスに戻るのです。

かくして不満があったイギリスが、キャメロン首相(2016年当時)のときにブレクジットに賛成か反対か、国民投票を行うことになりました。

2016年6月23日のことでした。

結果は、ブレクジット賛成。

つまりイギリスはEUヨーロッパ連合からさよならすることに決まったのです。

キャメロン首相は、EUに残ろうよ!と呼びかけていました。

2016年6月23日にブレクジットを問う国民投票を実施したキャメロン首相

結果、無残に敗北し、キャメロン首相は辞任しました。

後任に、現在のメイ首相が選ばれたのです。

メイ首相も当時はEUに残りましょう!と呼びかけていた1人でした。

しかし目立った動きをせず地味に活動していたようです。

キャメロン首相の辞任により、打診された幾多の議員は、辞退しました。

そこでテレサメイ氏に話がいき、彼女が承知して首相になったという経緯があります。

テレサメイ首相

もともとEU残留派だった彼女が現在はブレクジット成功へ向けて舵を取っています。心の中では反対の思いで言葉にしているのでしょうか。メイ首相の本心は分かりません。

しかし首相になったからには、決まったブレクジットへ進みます。

そしてメイ首相は2017年3月29日に、リスボン協定に基づきEUからの離脱へ向けて調整に入りました。

リスボン協定とは、EUトップの権力があまりに強いことを懸念して出来た協定で、各加盟国に発言と独自の見解で動ける余地を与えた協定になっています。

EU加盟国同士の決まり事、ルールともいえると思います。

そのリスボン協定によると、EU離脱に向けての調整は2年が限度となっています。

なので、本来ならば2019年3月29日がブレクジットの期限になるのです。

さらに2019年3月29日でブレクジットが決行されれば、その後2020年12月31日までをブレクジット後の調整期間にしましょうと話がまとまったのです。

しかし混迷を極めるイギリスは期限の2019年3月29日にブレクジットを実行できませんでした。

EU加盟国の首脳陣がベルギーのブリュッセルに集い、イギリスのEU離脱に関して会議をした結果、イギリスのブレクジットは延期されました。

もし3回目の採決で可決されたら、2019年5月22日にブレクジットを実行しなさいと、イギリスに言い渡しました。

なぜ2019年5月22日なのか。それは翌日の2019年5月23日に欧州(EU)議会選挙があるからです。

もしイギリスがブレクジットを実行できなかった場合、イギリスもEU加盟国として、この欧州(EU)議会選挙に参加しないといけません。

ブレクジットが実行されれば、もうEUの中にイギリスは存在しないことになるので、このEU議会選挙に参加しなくても済むことになります。

そして3回目の採決が2019年3月29日に行われました。

結果は過去2回と同じ「否決」でした。

さて、どうなるでしょう。


ここでブレクジットの騒乱の中で悲劇が起きたことを書いておきます。

女性議員が命を落としました。

ジョーコックス氏。当時41歳。

2016年6月16日、凶弾に倒れました。

ブレクジットを問う国民投票が行われる1週間前のことでした。

Jo Cox ジョーコックスさん英国会議員

ジョーコックスさんはEU残留派でした。

彼女は弱者の立場にたって戦う議員でした。

シリア内戦の一般人を助けるため、イギリス軍にシリアの人々を非難させるためのシェルターを作るべきだと声を上げていました。

ブレクジット国民投票の準備のため動いているときに、彼女は至近距離から射殺されました。

酷いのは、彼女を撃った犯人は近づいてきてナイフでも彼女を2回刺したのです。

銃で撃たれさらにナイフでも刺されてジョーコックスさんはその場で息絶えました。

犯人は52歳の無職の男で、調べによると精神病を長年患っており、犯人の家にはナチスの本があり、さらにジョーコックスさんに関する資料が集められていたそうです。

目撃者によると犯人はジョーコックスさんを襲うときに「ブリテン・ファースト!」と叫んでいたとされます。

ジョーコックスさんがシリア難民を支援する姿を見て、移民反対だった犯人はジョーコックスさんをターゲットにしたと言われています。

ブリテンファーストとは、英国第一!という意味で、イギリスを第一に考えるために、移民排除を謳っているのだと思われます。

犯人は2016年11月に終身刑を言い渡されました。英国政府はこの犯行はテロだと断定しています。

彼女が亡くなったあとに残された、2人の子供たち、そして夫のブレンダンコックス氏。

ブレンダンコックス氏の言葉です。

"She would have wanted two things above all else to happen now, one that our precious children are bathed in love and two, that we all unite to fight against the hatred that killed her. Hate doesn't have a creed, race or religion, it is poisonous.  Jo would have no regrets about her life, she lived every day of it to the full."

(ジョーが生きていたら2つのことを望むと思います。1つは私たちの大切な2人の子供が愛で満たされること。2つ目はジョーの命を奪った憎しみと戦う団結した心です。憎しみには何もありません、信条も人種の違いも宗教もありません。そこにあるのは毒です。ジョーは彼女の人生を後悔していないと思います。彼女は毎日をフルに懸命に生きていました)

夫ブランドンコックス(Brendan Cox)は、現在もTwitterに投稿しています。

先日起きたニュージーランドでの銃乱射事件。ニュージーランド首相が、テロを強行した犯人の名を、生涯かけて口にしないと表明したことに対して、

ブレンダンコックス氏は、Yes Yes and again YES!と強く賛同するtweetをしていました。

ブレンダンも、妻ジョーを殺害した犯人の名を生涯けして口にしないと決意し、あれから一度も口にしていないので、2人の子供は犯人の名を知らないと言っています。

テロを強行する犯人など、この世にいない者として名を呼ばない。そう伝えてくれています。

ジョーコックスと夫ブレンダンコックス。



アメリカが強大なパワーを持った今世紀にヨーロッパの影が薄くなることに懸念を抱いたことがEU発足を加速させたとみています。

今こそヨーロッパが一つになるべきだ。ヨーロッパを1つの巨大な国にしよう。そしてEUは誕生しました。

しかし良い面ばかりではありません。

EUのトップであるEU委員会(欧州委員会)というところが絶大な権力を持っていて、EU各加盟国の上に君臨しています。

これにより、加盟国は自分たちの国の法律などに、いちいちEUからの注意や、修正を求められたりしていました。

ここに不満が溜まってきたのです。

EU委員会は選挙で選ばれたわけではありませし、EUの本部はベルギーのブリュッセルにあります。

イギリスから見れば、本来なら別の国であるベルギーにEUの本部が設置されていて、さらにEU委員会というイギリスの議員でもない人たちからあれこれ口を出されたらたまったものではありません。

EUになったら、私はEU人だと名乗る人はいましたでしょうか?

出身地を聞くと相変わらず私はイギリス人だ、私はフランス人だ、私はドイツ人だと名乗るでしょう。

この時点でEUという巨大な国のようなものは、経済的に繋がってはいても、文化や思想までは一蓮托生というわけにはいかないのが分かります。

ここにグローバリズムの限界があると思います。

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