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魂を呼び寄せる女・水樹奈々

※これは、ななし。(@crystal7letter)さんと以前に同人誌を出した際に書き上げたもの「水樹奈々『深愛』論 ――転換点としての「第60回NHK紅白歌合戦」――」を元に、オタク長文へとリライトしたものです。

さて、いきなりですが、

水樹奈々は古代呪術の使い手である。

伊波杏樹さんなら、その衝撃で「なんだなんだ!? 突然!!!笑」と言いそうですね。笑
「もしかして、そういう宗教の人?」
「働きすぎて、疲れちゃったのかしら?」
などなど、色々にご指摘をいただきそうな感じです。
大丈夫、私は元気です。正常です。まともです。

今回は、古代呪術の使い手としての水樹奈々の姿を見るために、"水樹奈々第二期" の代表曲である『深愛』を取り上げてみます。
実は、この曲こそが、水樹奈々が古代呪術を使いこなしている曲なのです。

そもそも『深愛』とは
どういう曲だったのか?

お奈々さん本人は、以下のように語ります。

この曲は、「『WHITE ALBUM』の主題歌を担当して欲しい」とお声掛けいただき、作品の世界観に触れてから制作に入りました。時代設定が1986年で、監督さんからも「当時を思い起こすことができるようなイメージで」というオファーがあったんです。それをもとにたくさんのデモを聴いて、選びました。(2009年1月21日発行「アニカンFREE Vol.67」)

リリースされた当時は、アニメ「WHITE ALBUM」の主題歌という位置付けが、明確になされています。
ところが、今この曲をそのような文脈で理解している人は、おそらく皆無でしょう。

何なら、私はLIVE THEATERでSuaraさんと『深愛』を歌ったとき、違和感しかなかったです。
「WHITE ALBUM」のOP・ED歌手でこの曲を今さら歌う意味は何だろう? と考えてしまいました。

皆さんも、ここまでは思わないにせよ(笑)
私の言わんとしていることは伝わるかもしれません。
なぜ、このような感情が湧いてきてしまうのか?
それは簡単です。

『深愛』という曲は
「WHITE ALBUM」の文脈を
すでに離れてしまった

ということに他なりません。
そのきっかけとは何だったか?

そう、それこそ、

第60回NHK紅白歌合戦。

ここが、大きな転換点でした。
この場で『深愛』を歌う直前、司会の仲間由紀恵さんとのやり取りの中で、このような会話がありました。

仲間「さて、去年ですね、大好きなお父様が亡くなられたと伺いましたが……。」
水樹「歌の大好きだったお父さんだったので、今日はきっと一緒にステージに立っていると思います!」
仲間「そうですね、きっと見てくださっていると思います。」

ここで、はじめて『深愛』に亡きお父様の文脈が導入されます。そして、自叙伝でこのように回想します。

親への愛、大切な人への愛、親愛なる人に向けて深い愛情を注ぐという意味を込めた『深愛』。
アニメのオープニングテーマとして起用されることが決まっていた曲だったので、作品の内容にリンクするよう恋愛を描いた曲ではある。でも実は、父への想いがたっぷり込めてあるのだ。(水樹奈々『深愛』)

ブログにて父の他界を告げたのが、2008年11月2日
CD『深愛』の発売日が、2009年1月21日
第60回NHK紅白歌合戦が、2009年12月31日
自叙伝『深愛』の発売日が、2011年1月21日

こう見てくれば、はじめて『深愛』と亡父が結びつけられたのが、第60回NHK紅白歌合戦であるということが改めてはっきりとします。

しかし、
私が紅白歌合戦に注目するのは、
それだけが理由ではありません。

皆さんは、このときのお奈々さんの衣装
パッと思い出せますでしょうか?

こんな感じでした。

ここで着目したいのは、

『深愛』の衣装には "袖" がある

ということです。
これは、MVの衣装からしてそうでした。
この "袖" にあたる部分を振り、ヒラヒラと舞わせながら、水樹奈々は『深愛』を歌うのです。

袖を振る。
これが、キーワードです。

古代日本において、
「袖を振る」という行為は、
魂を呼び寄せるという
呪術的な意味合いがあったのです。

たとえば、日本最古の歌集『万葉集』には、以下のような有名歌があります。

あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る(『万葉集』巻一・20番歌「天皇、蒲生野に遊猟する時に、額田王の作る歌」)

国語教科書で見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
額田王に袖を振ったのは大海人皇子(のちの天武天皇)で、「袖振り」は額田王の魂を皇子のもとへ引き寄せる招魂行為であると解されています。
要するに、今カレが見守る中で、元カレが元カノの魂を呼び寄せている、というシチュエーションです。笑

これは、折口信夫という民俗学者が唱えたものです。

招魂法のうち、わが古風の面影を見る事の出來るのは、戀愛を表示するものである。文學に殘つたものは、袖振る・領巾振ると言つた方法を見せてゐるが、其場合、袖も領巾も咒術の布として用ゐられてゐる。思ふ人に向つて振ると、その靈魂が招かれて寄り來る。(『折口信夫全集』第二十巻)

小難しいですが、思い人に袖を振ると、その相手の魂を呼ぶことができるということを指摘しています。

ここで水樹奈々は
衣装の "袖" を振ることで
亡父の魂を呼んだのでは
ないでしょうか?

そのような演出をすることが分かっていたから、仲間由紀恵さんとの会話の中で、「今日はきっと一緒にステージに立っていると思います!」と言うことができたのだ。言霊ですね。

しかし、袖を振っただけで、古代呪術の使い手にされてしまったら、お奈々さんも「……。」ですよね?笑

実は、水樹奈々をして
「シャーマン」だと
称した人がいたのです。

それは、坂本竜太さんです。

お奈々さんは言わば、現代のシャーマンですね。たくさんの人達と気のやりとりをしてひとつにできる人です。(『別冊+act』)

竜太さんは、会場が「気」に包まれて一体となるメカニズムを紹介した後、この「気」を扱う能力は、

お奈々さんがもって生まれたものでもあるし、凄い努力や試行錯誤の末、身につけたものではないかと思います。(『別冊+act』)

とも言います。

それは何も会場のファンやバンドメンバー、スタッフだけに留まらなかったのです。

水樹奈々はこの袖振りを通して、亡父とも一体になることに成功しました。

そして、
第60回NHK紅白歌合戦の場で、
水樹奈々は「シャーマン」として
現前したのでした。

さて、
この後の『深愛』という曲は、亡父のことを踏まえつつ、「水樹奈々初」という場面で歌われる曲へと進化します。

お奈々さん初の海外公演であるLIVE CIRCUS+。
歌って欲しい曲のファン投票が行われ、見事一位に輝いたのが『深愛』でした。
NHKの番組内で、お奈々さんはこう語ります。

歌を届ける喜びだったり、歌で夢見るその幸せを教えてくれたのはお父さんだから、そのお父さんのことを思って作った歌――私にとってその原点の気持ちが詰まった歌を、ぜひ初めての海外でのソロ公演で歌いたいって思いがまず強くって。(『MUSIC JAPAN Presents 水樹奈々 in Asia』)

その後は、
初の平安神宮奉納公演(蒼月之宴)
初のシンガポール公演(FLIGHT+)
初の武道館7days公演(GATE最終日)といった、
「初」を冠するタイミングで歌われる曲になっていったのでした。

【結論】

①『深愛』は本来、
「WHITE ALBUM」色が
強く押し出された

②しかし、
第60回NHK紅白歌合戦での
「袖振り」で、亡きお父様の
魂を呼び寄せた

③今ではさらに、
「水樹奈々初」の場面で
歌われるメモリアルな曲になった

これからも、お奈々さんがシャーマンとして、ファンと魂のやり取りをする人であり続けて欲しいと、強く願います。

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