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藤林聖子、悲恋を紡ぐ。

かみなりひめです。

愛とか恋とかいう言葉から遠ざかって久しい私。
寒くなると人肌恋しくなります。
こんな時期に聴きたいのは、失恋ソング

お奈々さんの失恋ソングって、やたらとですよね。

水樹奈々の "失恋ソング"
といえば、何でしょう?

定番の『Tears' Night』?
雪がちらつく『Crystal Letter』?
粉雪が舞う『Orchestral Fantasia』?
まさかの『フリースタイル』?笑

今回のお題は
『undercover』です。

女性奈々クラの悲鳴にも近い叫び声が聞こえそう。笑
アンカバ好きな人、多いですよね。
実際、NANA WINTER FESTA 2014では、「あなたが選ぶ奈々ソン」18位という結果でした。
正直、歌詞を見ると、なぜこの曲が好きなのか……??? と思うことは少なくないです。

『undercover』は
浮気をする彼氏を
手放すことができず
他者に救済を求める
女性の物語だからです。

ちょいと歌詞を追いかけてみましょう。

何かあること
あなたと彼女
そんなことずっと気がついてる
やがて晴れ渡る にわか雨なら
待てると思うだけ
疑いも持たない程
穢れのない 私が好き?
きっとそうね 演じながら
側にいるわ

この歌詞における「私」は、自分の恋人が別の女性と「何かあること」に気づいています
ところが、いずれは自分のもとに「あなた」が帰ってくると思い、「穢れのない」姿を演じているのです。
(「やがて晴れ渡る にわか雨」というのは、今の状態もいつかは元通りになるという意を含んでいます)

でも、やられっぱなしではありません。

過ごした時間分の
私を守るため
愛しながら 傷つけたい
冷たく熱い Love & Hate

あくまでも、「あなた」と過ごした時間が無駄になるのが嫌だという理由で、「愛する」「傷つける」とを同時にやりたいという心情になっています。
このような、相反する感情が交錯する様子は、「触れているのに 冷たく遠く」にも現れていますね。

ところが、上の願望は実現不可能だったのです。

取り乱し 想いをぶつけて
すべてを壊したい
二度と元に 戻れぬほど
愚かに 失なってみたい
安らかなその吐息
誰にも渡せない
愛しながら 傷つけたい
泣き方を教えて

破壊、喪失に関する部分は「たい」という願望の助動詞があることに注目しましょう。
「やりたい!と願う」ことは、「未だ実現していない」ことを意味しています。実現できていないから、願うのですよね。

一方で、「安らかなその吐息 誰にも渡せない」には、願望の意はありません。ただの現在形です。
つまり、現実問題として「あなた」を誰かに渡すつもりはないという、占有の宣言です。

以上からは、
「あなた」との関係を壊したいが、「あなた」とこれからも一緒にいることを強く願っている「私」の姿が見えるでしょう。

だから、「泣き方を教えて」と他者にすがるのです。
この愛憎入り交じった感情を、どうすることもできないからでしょう。

というわけで、

『undercover』は
浮気をする彼氏を
手放すことができず
他者に救済を求める
女性の物語なのです。

さて、そんな『undercover』。
ものすごく似ている曲があるのはご存じですか?

それこそ、

『アンティークナハトムジーク』。

ともに、ノンタイアップバラード。
そして、作詞はあの藤林聖子さん。
特撮界隈では、預言者と崇められる存在です。笑
最初の方の台本しか読んでいない状態での作詞でも、物語の展開に沿った詞をお書きになるとか。

ここまでお読みになった察しのいい人。
それだけじゃない!」と感じたことでしょう。

そう、思い出してください。
LIVE FLIGHT 2014のあの日のことを――。

14曲目『undercover』
15曲目『アンティークナハトムジーク』
だったのです。

セットリストの同じ枠にはまっているということは、お奈々さんも何かしら共通項を感じているということです。

さて、この曲は「違和感」の塊です。

運命-Fatale- 赤い口唇 あなたを呼ぶの
途切れた時間 知りもせず
Moonlight Moonlight
みずうみ咲く 月を見てた
忘れられた恋の Prima donna
消え行く面影と 踊り続け
風が啼くような 儚い歌声 今
あなたを探している 悲しい旋律 Nachtmusik

雑然とした歌詞の羅列ではありません。
「fatale」はフランス語
「Moonlight」は英語
「Prima donna」はもとイタリア語
「nachtmusik」はドイツ語になっています。

そう、欧米言語が種類豊富に使われています。
これらがめくるめく登場を果たすので、「あれ何語だったっけ……?」という感覚に襲われます。

そして、変拍子であることがこの違和感に拍車をかけます。Aメロは3拍子、Bメロで5拍子に変わり、サビでは4拍子
かの坂本竜太さんも困りに困ったでしょう。笑

ここまで見てくると、こんな違和感の塊と『undercover』とに共通項なんてあるのか? と思いますよね。笑

あるんです、これが。

次の歌詞に注目しましょう。

おとぎ話信じた Prima donna
止まることも出来ず 踊り続け
初めて愛し 初めて愛されたの ただ
運命の人だった 止まない憶いのNachtmusik
Larme, Je t'aime Larme, Je t'aime
永遠 回るオルゴール
誰か止めて

「Prima donna」(ゆえに、主体は女性)は、「消え行く面影」と「止まることも出来ず」に踊り続けているのです。
この「Prima donna」には、「忘れられた恋の」という形容があることから、元カレの影を拭いきれないでいる女性の姿を、孤独のステージで踊り続けているプリマドンナに喩えた、ということが分かります。
そして、「誰か止めて」の一言。

『アンティークナハトムジーク』は
恋人の影を払いきれない女性が
他者に救済を求める物語なのです。

このような主体としての女性は、
『undercover』とも共通します。

『undercover』は、別れる前。
別れたいけど、彼を離したくないという迷い。
『アンティークナハトムジーク』は、別れた後。
別れた彼への未練に悩まされている状態。

ここから、ひとつの仮説が導けます。

藤林聖子の
悲恋バラードは、
ひとつの物語としても
読めるのでは?

ひょっとしたらお奈々さんも、そのような点を認めていて、セットリストで隣り合う枠を当てているのではないでしょうか?

また、『undercover』も『アンティークナハトムジーク』も、LIVE GRACEに映えるという類似点があります。それは、過去にお奈々さんが認めています。

──次の「アンティークナハトムジーク」は、5拍子から始まってBメロで3拍子になってサビは4拍子、という非常に複雑な展開で。さらに音像的には、フルオケ公演「LIVE GRACE」をあらかじめ意識したかのような。

水樹「デモを聴いたときに『うわあ!フルオケで歌ったらめちゃめちゃカッコいいだろうなあ』と思って“一耳惚れ”した1曲です。実はこれが今回のアルバムで最初に出会った楽曲で、『Vitalization』や『愛の星』よりも先だったんです。」
(音楽ナタリー『水樹奈々 未来へつながる“歌謡曲”の力』)

実際、
LIVE GRACE 2011では『undercover』が、LIVE GRACE 2019 -OPUS.Ⅲ-では『アンティークナハトムジーク』が歌われておりました。

では、
LIVE GRACE 2013 OPUS.Ⅱにおける、
藤林聖子作詞のバラードは?

察しのいい人、もう分かりましたね?

この悲恋の物語は
『undercover』
『理想論』
『アンティークナハトムジーク』
と続いていくのです。

『理想論』は「恋の幕切れ」を歌う曲。
リリース順に並べると、恋が終わっていく様を眺めることができるのです。

これだけの悲恋物語を
紡ぐことができる
作詞家・藤林聖子さん。

女性奈々クラが
これらの歌に惹かれる理由は
緻密に紡がれている
物語性にあるのかもしれません。

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