台本公開「幽霊のゆかりさんに気を許してしまった」
こちらの動画の台本です。
ゆかり「あら……」
ゆかり「こんばんは、いい天気ですね」
ゆかり「どうしたんですか? こんな夜中に公園のベンチに一人で座って……」
ゆかり「……、なるほど」
ゆかり「お仕事で少々疲れてしまったと」
ゆかり「だからってこんな寒空の下、真っ暗な公園にいたら危ないですよ……」
ゆかり「ふふっ、私も危ない……ですか?」
ゆかり「ご心配いただいてありがたいのですが、私は大丈夫なんですよ、」
ゆかり「……危ないというのは、別に悪い方々に狙われるとか、不審者に襲われるとかではないんですよ」
ゆかり「この公園では夜になるとよく女の幽霊が出るって噂されてるんです」
ゆかり「どうでしょう? 怖くなってきましたか?」
ゆかり「『怖くなんてない……』、なるほど」
ゆかり「うーん、それじゃあ」
ゆかり「この私がその幽霊さんだって言ったら……どうですか?」
ゆかり「え、冗談じゃないですよ?」
ゆかり「私、もう幽霊さんなんです」
ゆかり「ほら」
ゆかり「手があなたを胸を突き抜けちゃいましたね」
ゆかり「この世の物には触れないんですねー」
ゆかり「だからちょっと浮いてます、ふわふわー」
ゆかり「……、こほん」
ゆかり「そういうわけで私は幽霊さんなんです、信じてくれましたか?」
ゆかり「……、流石にわかってくれましたね」
ゆかり「それで、そのー、ちょっとお願いがあるんですが」
ゆかり「お仕事で疲れているところ悪いのですけど……、その」
ゆかり「幽霊とは気楽なものなのですが、食事も出来ないというのが寂しくてですね」
ゆかり「あなたの身体を少し借りて……、いわゆる憑依ってやつですね」
ゆかり「それで、あったかーいご飯でも食べさせてもらえないかなぁ……と」
ゆかり「あ、もちろんお礼はしますよ」
ゆかり「なにぶん自由な生き物……いや死に物?なので、」
ゆかり「出来る範囲の事はなんだってしますよ」
ゆかり「どうでしょうか?」
ゆかり「受けてくれますか!」
ゆかり「ありがとうございます!」
ゆかり「ああ、そういえば名前を言ってませんでしたね。
私は結月ゆかり。享年29歳です」
ゆかり「それじゃあ早速、御身体いただきます」
ゆかり「えいっと」
***
ゆかり「いやー、久々に食べると食パンだけでも美味しいものなんですね」
ゆかり「それにしてもあなた……お昼ご飯がパン一枚って、本当に余裕の無い労働をしているんですね」
ゆかり「はぁ……、御身体を借りる条件として『代わりに少しだけ働く』って言われた時は驚きましたが」
ゆかり「それ以上にあなたの労働環境に驚きましたね」
ゆかり「最近はホワイト企業が増えていると聞いていたのに、随分とまぁ過酷なことで」
ゆかり「『代わってくれてありがとう』……、いえ、こちらこそ久々に生身の体を味わえてよかったです」
ゆかり「やっぱりいいものですね……、生き物って」
ゆかり「あなたも簡単にこんな風になったらいけませんよー?」
ゆかり「……、それでその、あなたがよろしければなんですけど」
ゆかり「またこうやって御身体を少し借りてもいいでしょうか?」
ゆかり「はい、オーケーいただきましたー」
ゆかり「それじゃあよろしくお願いしますね」
ゆかり「ね……?」
***
ゆかり「いやあ、もうこの公園であなたと会って3ヶ月目ですか」
ゆかり「あなたのお陰で中々美味しい物を食べさせてもらえましたね」
ゆかり「やっぱり甘い物が一番良かったですね……、甘味は精神の栄養です」
ゆかり「……ほんとはお風呂とかも入りたいんですけど、流石に殿方の裸を見るのは……ほらぁ、あるじゃないですか」
ゆかり「あはは……」
ゆかり「はい?
『ゆかりさんの仕事ぶりが良くて助かる』……、ですか?」
ゆかり「まぁ、生前はキャリキャリのウーマンでしたからね」
ゆかり「なんだかんだ働くのは楽しいですねー」
ゆかり「……まぁ働きすぎたんですが」
ゆかり「ずーっと仕事に夢中で突っ走っていたら、気がついた時にはもう周りに誰もいなくて」
ゆかり「それで寂しくなって一人でやけ酒しながら、
公園走り回って雪で滑って頭打って、
それでこうなったんですよね……」
ゆかり「そんなに哀れんでる目をしなくても……」
ゆかり「ま、まぁお陰で気楽な死に物になれたと思えば……」
ゆかり「いや、でもやっぱり、寂しいものは寂しい……ですかね」
ゆかり「……」
ゆかり「まぁ今はあなたがいますから寂しくなんてありませんよ」
ゆかり「……なーんて」
ゆかり「あ、ちょっとは効きましたか?」
ゆかり「ま、半分は本当なんですけどね」
ゆかり「幽霊さんになった私を見つけられる人ってあんまりいませんし……」
ゆかり「……」
ゆかり「そうだよね……」
ゆかり「この人が……唯一かも……」
ゆかり「え? いやいや、なんでもありませんよー」
ゆかり「それじゃ、明日も御身体借りますねー」
ゆかり「ニコッ」
***
ゆかり「……こんばんは」
ゆかり「あれ、どうしたんですか?」
ゆかり「少し顔色が悪く見えますけど」
ゆかり「それじゃあそっちが幽霊みたいですよー」
ゆかり「『俺の体で何を言った?』、ああー、それですか」
ゆかり「ただ単純に会社の皆さんに牽制しただけですよ、……紫髪で美人さんな彼女がいるんだぜーって」
ゆかり「あ、安心してください。私の生前の写真探してきて、ちゃんと御両親にも送っておいたので」
ゆかり「いやー、実在しない彼女が出来て精神をやられたと思われたら大変ですしねー」
ゆかり「『どうしてこんな事をするんだ』……、って言ったじゃないですか」
ゆかり「牽制ですよ」
ゆかり「あなたが独り身のままだと勘違いした女性が寄ってくるかもしれない、御両親は心配して見合いなんて用意してしまうかもしれない」
ゆかり「そうなったら困りますからね」
ゆかり「……、だって、あなたが私から離れていったら困るじゃないですか」
ゆかり「私、幽霊になってから、いやなる前からずーっと、一人だったんですよ?」
ゆかり「ずっと、です。」
ゆかり「……、手放したくない……」
ゆかり「あ、逃げようなんてしないでください」
ゆかり「そんな事しようとしたら、すぐにその身体乗っ取って、近くの交番にでも駆け込んで大暴れしちゃいますから」
ゆかり「もうあなたの身体の事なんてぜーんぶ知ってます」
ゆかり「……、そんなに怖がらないでくださいよ」
ゆかり「ただただ、私のそばにいてくれたらそれだけでいいんですから……」
ゆかり「あ、もしかして結婚願望とかありましたか?」
ゆかり「それならその辺に歩いてる女性を私が乗っ取っちゃって……」
ゆかり「『そういうことじゃない』……?」
ゆかり「なーんだそれなら良かった」
ゆかり「どうせなら、『私』を、この姿を愛してほしいですからね」
ゆかり「ねぇ、あなた」
ゆかり「……一緒に住みませんか?」
ゆかり「これまでは、ちょっと遠慮してたんですけど」
ゆかり「もうそんなことする必要ないですもんね?」
ゆかり「……怖がらないでください」
ゆかり「ただ、『はい』って言ってくれたら、それだけでいいんですよ?」
ゆかり「ね、それだけなんです」
ゆかり「言いましょう?」
ゆかり「早く」
ゆかり「……はいっ、よく言ってくれましたね!」
ゆかり「それじゃあ……今から早速帰りましょうか。わ、私達の家に」
ゆかり「ふふっ、」
ゆかり「これから死ぬまで……、いえ、死んでも一緒にいましょうね……?」
ゆかり「あなた……」