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うたの日 一首鑑賞3 膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺 (工藤吉生)

うたの日では題に対して一つだけハートを送ることができる。この短歌には、ハートを一つしか送れなくて残念だみたいなことを思ったし、実際そう評を書いた。

http://utanohi.everyday.jp/open.php?no=470c&id=27

暴力が描かれている。やられている時はほんとうに嫌なものだ。この描写、お腹を蹴られていそうだし呼吸に来るような攻撃はなにも考えられなくなる。

なにも考えられなくなる。それにもっと言うなら数日はネガティブに落ち込むかもしれない。

だから後半の、世界で一番すばらしい俺、という思いはこの"俺"が今やられながら考えていることではない。いや、たとえば蹴られながら、「俺はすばらしい俺はすばらしいぞ」と唱えていても別にかまわないが、それを描いてはいないんじゃないか。

じゃあ何か神様的なものに認定されているのかというとそれも違う。結局これはひどい出来事に対するカウンターとしてのポジティブシンキングではなく、宗教的な救済でもなく、すばらしいというただの事実を書いているんじゃないかな。

ほんとうにごくありきたりの事実。

それは、人生をどう選択しようと変わらずに、ただただ存在する俺はすばらしいという事実だ。

膝蹴りを払ってはくれないし、光もささないが、それは詩歌になった時にだけ明確に"思い出せる"、そういうたぐいのことだ。

現実には完全に無力で、それでも最上位の価値を持つものがあなたの中にある。そんなことを一瞬思い出させる、力のある短歌。

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