アイスリボン横浜文化体育館大会FINALの感想(その⑥)

第8試合 ICEx∞選手権試合 30分1本勝負

結果から言ってしまえば、新チャンピオン誕生である。

鈴季すずの戴冠には何の文句もない。明るく前向きな性格に、17歳という若さも携え、まさにアイスリボンの未来、アイコンとなるに相応しい人間だ。

ただ、それでも私は負けた雪妃真矢に思いを寄せてしまった。


王者の皮肉な運命

反逆と称し、ヒールターンをして以来、雪妃は事あるごとに選手達に向けて、挑発的なコメントを投げ掛けてきた。そして、そのどれもが一理ある真っ当な批判だった。そこには選手達の発奮を促す、雪妃なりの愛情が込められていた様に思われる。

中でも、鈴季すずとの関係は特別だ。先輩として、ベルトを争うライバルとして、彼女を育てなければならない。だが、とはいえ彼女はまだ17歳の少女でもある。他の選手と同じ様に負荷ばかり掛けていたら、どこかで壊れてしまうかもしれない。

そんな心配もあったのだろう。6月のタイトルマッチでは珍しく試合後に、雪妃がすずに寄り添う様なコメントを送った。

やりたいが、やらなきゃいけないになっちゃって、その責任感はとてもありがたいことだし、立派なことなんだけど、それに潰されてちゃベルトは巻けないですよ。自分の変化を自分で楽しめるようになった時に、リボーンした自分を自分が認めて自分が楽しめるように、前の自分と比べたりとかそういうことをしない。今の自分を自分で好きなところ、楽しめるようになったらもう一度成敗しに来てよ、後輩!

自らへの重圧で雁字搦めになった、すずの心情を解きほぐし、更なる変化を求めた。

このコメントを受けてかは不明だが、すずのコスチュームが新しくなっていた事は象徴的だ。本当の意味でリボーンする為には、まず一旦死な(負け)なければならない。そして、新コスチュームと共に、すずは生まれ変わったのである。

かくして、雪妃の狙い通りに、すずは成長を果たした。だが、それは同時に雪妃自身が成敗される事も意味している。対戦相手を自分で育て、その相手に倒される…王者という立場は、こうも難儀なものなのか。そんな雪妃の心情を想像すると、憐憫の目を向けざるを得なかった。

文字通りの、巻き返しを期待したい。


王者に必要な資格

すずの試合後のコメントを聞いていると、「鈴季すずのこと、認めて下さいましたか?」という言葉が印象的だった。あれだけ「憎い憎い」と言っておきながら、すずが求めていたのは雪妃からの承認だったのかと。

だが、それも理解出来る気がする。この日のすずの戦いぶりからは、雪妃に対するリスペクトを感じられたからだ。

勝敗の行方を大きく分けたのは、終盤の雪妃のスノウトーンボム失敗だろう。だが、それ以前にも、この日のすずは要所要所で雪妃の攻撃を回避していた。そして、蹴りの威力を削ぐ為か、右足への執拗なピンポイント攻撃も決行している。

こうした研究と戦略は6月の試合では見られなかったものである。憎しみという感情だけで、ここまで真摯に相手と向き合う事が出来るのだろうか?やはり、そこには尊敬の念もあったのだろう。

雪妃が自分の事だけでなく、相手の事も考えて行動している様に、すずもまた自分だけでなく、相手の事も考えられるレスラーへと成長を果たした。それこそが、団体を引っ張っていく王者に必要な資格なのかもしれない。


『すずと雪の女王』

最後に与太話を一つ。
私はこの雪妃真矢と鈴季すずの物語を、映画『アナと雪の女王』に重ね合わせて見てきた。言うならば、『すずと雪の女王』である。

両者は考えれば、考える程に似ている。例えば、エルザ。

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まず、金髪でクールな性格という設定が、雪妃真矢のキャラクターと重なる。

エルザは強大な魔力を持ち、それ故に抑圧的な生活を余儀なくされてきた。だが、魔力を暴走させてしまい、雪の塔で1人で生きる事を決める。ありのままの自分で生きていく為に。

この辺は、元々は銀行員だったという雪妃の出自であったり、チャンピオンとして強すぎるがあまり、孤立していくところとも重なってくるだろう。それに何より、ありのままの自分を表現をする事は、(すずにも説教していた様に)雪妃にとって大切な信念の様に思える。


次にアナだ。

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まず、赤毛で明るい性格という設定が、鈴季すず、そのものである。

アナはエルザを城に連れ戻そうとするが、エルザの魔力を食らって瀕死の状態になる。そして、オラフに「愛とは自分のことよりも相手のことを考えることだ」と教わると、愛の力でエルザを変えて城に連れ戻すのである。

瀕死の状態とは前回の敗北で、愛の力は文体での雪妃対策と考えてみてはどうだろう。そして、試合後の事を思い出して欲しい。すずは控え室に戻る雪妃を呼び止め、最後の挨拶の輪に加えていたではないか。

私はこの『すずと雪の女王』を思いついて以来、すずが勝つ為には憎しみではなく、愛が必要になると思っていた。なので、最後にすずが「文体!愛してま~す!」と文体の中心で愛を叫ぶ姿にも、一人得心していたのである。笑


勿論、これはただの妄想、お遊びに過ぎない。だが、こうしたアナロジーを読み解く事で、見えなかったものが見えてくることもある。

例えば、雪妃とすずは正反対の性格で、表向きはライバル関係に見えるだろう。しかし、すずにアドバイスを送る雪妃は姉の様にも見えるし、雪妃の後を追いかけ続ける、すずは妹の様にも見える。まるでエルザとアナの姉妹の様に。

そう考えると、孤高を選んだエルザと融和を選んだアナは、それぞれのチャンピオンとしての生き方を示唆しているのかもしれない。雪妃を輪に加えた様に、すずはどんな対戦相手も輪に加え、アイスリボンの輪を広げていく…そんなチャンピオンになるのではないだろうか。彼女の愛が文体を越えて、どこまで届くのか楽しみである。


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