アイスリボン横浜文化体育館大会FINALの感想(その④)

第6試合 FantastICE初代王者決定戦 時間無制限1本勝負

王者が自由に試合形式を決められる、FantastICE。
その初代王者と決める戦いは、お互いにデスマッチを志向する者同士という事もあり、オンリー3カウントによるデスマッチ形式に決まった。

セコンドがデスマッチ用のツナギに着替え、試合開始前から異様な雰囲気が画面越しからも伝わってくる。そんな空気の中で始まった試合は、山下が豊田真奈美のバイクを使ったり、世羅のイスへの自爆攻撃があったりと、序盤こそユーモアを感じさせる場面があったものの、蛍光灯による山下の流血で一気にヒートアップしていく。


2人だけの世界

2人がやっている事自体は凄惨でショッキングなものだった。だが、やってる当の本人達からは悲壮感は感じられない。むしろ、2人の間には喜びや充足感の様なものが流れていたと、そう感じたのは私だけだろうか?

試合後のインタビューで世羅は、こう語っている。

正直、プロレス人生で一番嬉しい。山下って世羅にとってすごく特別で。多分、自分がプロレスを始めて、初めて思いっきりぶつかることの楽しさを教えてくれたんです。そんな奴とシングルを何度も重ねさせてもらって、対戦させてもらって、すごい成長してきたと思います。後輩に成長させられるって先輩としてどうなんだよって思いますけど、なんかもう後輩とかそういう次元じゃない。山下は山下。ライバル。永遠の。

また、山下もインタビューで、こう語っている。

多分、デスマッチとかハードコアとかしたい女子、口に出していないだけで、いると思うんですよ。チャンピオンに挑戦しづらかったら、『まずは山下でいいや』、それくらいでいいですよ。誰でもかかってこいよ。ノンタイトルでいくらでもやってやるよ。

以前のインタビューでも、山下は「デスマッチをやる女子レスラーは少ない」という事を言っていたが、理解者が少ない世界の中で、お互いに理解し合える存在と出会えた喜びは相当なものだろう。例えるなら、無人島に1人でいたところに、もう1人が漂流してくる様なものだ。

「自分を理解してくれる」「相手を理解出来る」という喜びは、恋愛のそれにも似ている。
理想のプロレスをぶつけ合うという行為は、恋人達が相互理解を深めるプロセスの様にも見て取れる。

そして、恋人達が愛の交歓の末に子供を儲ける様に、世羅と山下は痛みの交歓の末にFantastICEというベルトを産み出したのである。


それにしても、山下りなだ。

試合を振り返って見ると、世羅の方は要所要所で攻撃を回避し、大ダメージを食らっているのは、ほとんど山下の方だった。彼女は自ら蛍光灯を割るパフォーマンスなども見せており、彼女がいなければ、この試合がこれ程に盛り上がる事はなかっただろう。

しかし、これだけ試合に貢献し、体をボロボロにしても、負けたら何も残らないとは…。改めて、勝負の残酷さを痛感させられた。月並みな表現になるが、記録に残らない代わりに、記憶に残していく事が、彼女に対する、せめてもの報いになるだろう。あの試合を見た人間なら、山下りなの凄さは伝わったはずだ。

世羅と山下のDNAが刻まれたFantastICEのベルトには、2人の様な孤高の魂に寄り添い、記録よりも記憶に残る戦いを期待したい。


ちなみに、山下はこの試合の翌日にPURE-Jの大会に出場し、ベルトを戴冠したとの事。

化物か。笑

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