アイスリボン横浜文化体育館大会FINALの感想(その⑤)

第7試合 インターナショナルリボンタッグ選手権試合 30分1本勝負

つくしと柊くるみの間にあった確執は、いつの間にか団体内NGになる程の大きな溝になってしまった。その溝を修復すべく、つっかはベルトを賭けて2人を向き合わせるのだが…。

個人的には前日の記者会見からして、涙なしでは見れなかった。

くるみの諦念、つくしの苦悩、つっかの覚悟。
誰もが正しくて、誰も間違っていないからこそ、3人の前には答えの出ない問題だけが横たわっている。

くるみの立場から考えると、人間、生きていれば、どうしても合わない人間がいるものではないだろうか?例え、「狭量だ」「子供だ」と諭されても、どうしても許せない人間がいるものではないだろうか?そうした、くるみの心情は個人的には理解出来る。

つくしの立場から考えると、過去の過ちをいつまでも持ち出される辛さがあるだろう。自分から距離を縮めようにも、立場的にそれが出来ない歯痒さもある。雁字搦めで何も出来ない事が、つくしの大きな苦しみなのかもしれない。

そんな2人が「距離を取る」という関係性に落ち着くのは、自然の成り行きであり、それ自体は別に悪い事ではない。全ての人間が仲良くする必要はないし、2人がアイスリボンという団体で共存していく上で、これが最も平和的な解決策だったに過ぎない。

そんな2人を無理矢理に向き合わせ、関係の修復を求めるのは、ある種、傲慢な行為の様にも思える。これまでの均衡状態を崩し、瘡蓋になった傷跡を再び開き、衆目の前に全てを晒す。当然そこにはリスクも孕むし、少なからず2人を傷つけてしまう部分もあるだろう。それだけに、つっかも無傷ではいられないはずだ。


やるせないエルボー合戦

いざ試合になると、つっかがくるみを足蹴にして、執拗に挑発する姿が印象的だった。そこには(つくしとの対戦を拒否する)くるみを引っ張り出す狙いがあったのだろう。もっと言えば、くるみの閉ざされた感情を引き出し、何かが起こる事を期待していたのかもしれない。

その成果もあってから、くるみを怒らせ、つくしと戦わせる事にも成功するが、今度はつっかが足蹴にされ、ボロボロにされてしまう。これだけの汚れ仕事を買って出た、つっかの想いは痛い程に伝わってきた。

そして、つくしが登場してからは、最後まで両者ノータッチ。つくしの華麗なテクニックと、くるみの重厚なパワー、それぞれの持ち味を存分にぶつけ合った。中でも熱くさせられたのは、やはりエルボーの打ち合いだろう。特に後半の互いの左手を握り合ってのエルボー合戦は、この試合のハイライトと言っていい。

とても言語化は出来ない気持ちを、ひたすらに相手に打ち込む。こんなにも、やるせないエルボー合戦がかつてあっただろうか?


結果としては、くるみが3カウントを奪い、勝利。宮城もちと共に、インターナショナルリボンタッグのベルトを戴冠した。

「中堅が燻ってる」と揶揄され続けてきた、フランクシスターズだったが、その原因は成功体験の少なさによるものだろう。この勝利を自信に、もう一皮も二皮も剥けて欲しいものである。

そして、くるみとつくしの関係に関しては、残念ながら修復する事はならなかった。当然だろう。プロレスをしただけで全ての問題が解決するなど、そんな都合の良い事が起こったら、逆に興醒めである。

それでも、試合後のくるみの発言には、つくしを認める部分もあり、多少は距離が縮まった様子を匂わせた。くるみにとっては僅かな一歩かもしれないが、つくしにとっては大きな一歩になったはずである。


つくしの贖罪

「なにも分かってない」
くるみにそう言われた以上、これからも、つくしの贖罪は続く。
だが、彼女はこれから一体何をすれば良いのだろう?

常に自罰的に、下を見ながら生きればいいのか?
一瞬でも過去の過ちから逃れる事は、許されない事なのか?
そんな事はくるみも望んでいないはずである。

真の贖罪とは、やはり真っ当に生きる事、それに尽きるのではないだろうか。つくしの場合は、レスラーとしてキャリアを着実に積み重ねていく事。くるみもキャリアリセット後のつくしの頑張りは認めていた事だし、それはファンが望んでいる事でもあるだろう。

誰に恥じる事もなく、誰もが認めるレスラーへと成長する事。それこそ、くるみも認めざるを得ない程のレスラーになれば良い。そして、くるみを信じ、和解を諦めない事。これまでプロレスを続けてきた様に、これからもプロレスを続けて欲しいものである。


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