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ディレーティングについて(概要)

宇宙機・衛星では、非常にたくさんの種類と量の機器や部品を適用しております。ある機器が動作しない事態となってしまった場合でも、もう一つ搭載していた正常な機器に切り替えて運用する冗長設計など、1つの部品や機器が壊れても、基本的には、衛星システムの動作に影響が無いよう設計を行なっています。しかし、冗長設計では、全く同じ機器を搭載することが前提となるため、その機器が壊れやすい設計となっている場合は、冗長設計を行なってもあまり意味がありません。そのため、衛星に搭載する機器や部品は、軌道上においてストレスがかからないような条件で動作させることで、壊れにくい設計を行なっています。このような考え方をディレーティングと呼んでおります。ここでは、そのディレーティング設計について説明します。

1,ディレーティングとは

ディレーティングとは、部品を適用するにあたり、部品の許容範囲(定格条件)に、さらにマージンを確保した使い方をすることで、部品の信頼性の向上と部品の長寿命化することを意味しています。部品それぞれの許容範囲(定格条件)は部品メーカーによって決定されており、部品メーカーそれぞれの設計思想に基づき、部品が壊れないように、一定のマージンも含まれています。そのため、基本的には許容範囲(定格条件)で部品を適用していれば、その部品は壊れません。ただし、部品メーカーでは衛星の寿命期間である10年や15年等、長時間の動作については保証はしていません。そのため、衛星メーカーや宇宙機器メーカーでは、衛星の寿命期間においても搭載している部品が壊れないように、独自の設計マージンを考慮して設計を行う必要があるのです。適切にディレーティングを確保することで、長寿命化とする目的の他、瞬間的な電流電圧の上昇など、予期せぬ事態に対しても、場合により、耐えうる設計となる点でメリットにもなりえます。

2,ディレーティング基準(NASA/ESA)

上記で説明した通り、ディレーティングを用いた設計をすることで、長寿命化することはわかりましたが、どの程度のディレーティングであれば寿命に対して適切か、を部品それぞれで決めることは、非常に困難です。それぞれの部品に寿命試験を行い、検証する必要があるからです。そのため、宇宙機器メーカーでは、長寿命化を目的として、主に以下のいずれか、または両方のディレーティング基準を満足する設計としています。

・EEE-INST-002:Instructions for EEE Parts Selection, Screening,Qualification, and Derating
・ECSS-Q-ST-30-11:Space product assurance Derating - EEE components

EEE-INST-002はNASAが制定した基準であり、ECSS-Q-ST-30-11はESAが制定した基準です。それぞれ試験や実績で得た情報を基に、宇宙機で部品を適用する上での適切なディレーティングを示しています。国内海外問わず、様々なプロジェクトで、上記のいずれかの規定を満足する設計とすることを要求しています。上記の規定では、部品それぞれで守るべきパラメーターが異なっており、部品の故障モードに着目した考え方で規定されていることがわかります。

例えば、抵抗器は温度と電力がパラメーターとして指定されていますが、これは、抵抗器が過負荷、高温にて発生しうる抵抗体変質という故障を想定しての基準です。一方、キャパシタでは、温度と電圧がパラメーターとして指定されていますが、これは、高温に加え、高い電圧を起因とした絶縁破壊によるショート故障を想定した基準となっています。このように、部品の種類とその故障モードに着目した基準が設定されているのです。

3,その他ディレーティング基準

2章に代表的なディレーティングの基準を示し、大半の部品については、EEE -INST-002、またはECSS-Q-ST-11-30にて、ディレーティングが示してあります。その他、ディレーティング基準としては、ワイヤの束線に対し、明確に規定している以下の基準です。

JERG-2-212 ワイヤディレーティング設計標準

この基準は、JAXAが規定している基準であり、EEE -INST-002、またはECSS-Q-ST-11-30にも指定されていない束線に対する基準が設けられています。

以上、紹介した基準は、Webで公開されている資料ですので、興味があればぜひ検索してみてください。

4,最後に

以上、宇宙機に対するディレーティングの考え方と代表的な基準について説明しました。宇宙機・衛星という部品が故障しても交換ができない、且つ、長寿命であるが故に、このようなディレーティングという考え方が必要であり、様々な知見から得た共通した基準を基に、国内国外問わずに、様々なプロジェクトでディレーティング設計が行われています。各ディレーティング基準の詳細な内容までの説明は割愛させていただきましたが、それら基準では、その故障モードに基づいた定量的な指標を示しており、非常に考えられた基準であることがわかると思います。高い信頼性が求められる大型衛星に限らず、小型衛星においても、基準に基づいた設計を行うことで信頼性の高い設計となりますので、多くの方にディレーティングを理解いただければと思っています。

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