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風変わりなブリーダーズカップ観戦記

今日は、週末に行われたブリーダーズカップの観戦記を投稿してみようと思います。

「風変りな……」と枕詞を付けたのは、おそらく一般的な受け止めとは違う視点からの観戦記であると考えたから。ことさらに特殊性を強調するつもりはないのですけれど、投稿を読み進めていくうちに、読者のみなさんが「なんだ、こりゃ!」ってなったらイヤだなって。なので、蛇足を承知で枕詞を付けておいたのですが、そこはあんまり気にしないでください(笑)。


さて、最初にごくごく一般的な所感を書いておくと、ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌの勝利には私も純粋に酔いしれました。

長年、競馬を身近に感じてきた者として、アメリカ競馬の最高峰、ブリーダーズカップの舞台で日本馬が勝つ日がやってくるなんて、かつては夢にも思わなかったわけですし、画面を通じてではあるものの、その偉業達成の瞬間を自分の眼で確かめられたことはなんとも感慨深かったですね。

ではここから、ブリーダーズカップフィリー&メアターフのレースと、ブリーダーズカップディスタフのレースを順に振り返っていきたいと思います。

ブリーダーズカップフィリー&メアターフ


ここは、ラヴズオンリーユーが勝ったという結果だけでも、思わず手が震えちゃうんですけど、それ以上に胸を打たれたのは、やはり川田J渾身の騎乗でした。長年、日本馬を応援しつつ海外競馬を見続けてきた身として、いや~、もう、思わずもらい泣きしてしまいましたよ。それくらい、魂のこもった神騎乗だったと思います。

何が凄かったかって、このレース、ラヴに騎乗していたムーアJが、ラヴズオンリーユーを徹底マークしてきたわけですが、それを正面から跳ね返して正々堂々と勝ち切ったこと。道中でお互いが壮絶に削り合い、非常にストレスの多い競馬になった中にあって、最後まで愛馬の脚を残すことができた川田Jのエスコートは、これまでの日本人ジョッキーの殻を完全に破る本当に見事なものでした。


レースを詳細に振り返ってみると、まず最初の3コーナーまでにラヴズオンリーユーを外に張ろうという明確な意図を持ち、ラヴをゲートから積極的に出してきたムーアJでしたが、ここは川田Jが冷静に対処。走行妨害にならないギリギリのラインで馬体を内に寄せ、ムーアJに手綱を引かせたところは見事な立ち回りだったと思います。

ただ、ムーアJとて、当然、黙ってはいませんよね。正面スタンド前ではラヴを馬群の外目に導き、外からラヴズオンリーユーにプレッシャーをかけてきました。固有名詞を出して非常に申し訳ないのですけど、私がこれまで見てきた海外競馬では、このパターンにハマった武豊Jなどの日本人ジョッキーは、総じて外から外国人ジョッキーにフタをされてしまい、動くに動けないポジションに追いやられていたんですよ。

ところが、川田Jは違った。ムーアJの動きにしっかりと反応し、1コーナーの入りのところでやや馬体と外へと持ち出して、ラヴを外に張ってフタをされないように対処してきました。この対応は、ラヴズオンリーユー自身にも負荷をかけることになるので、かなりリスクのある対処方法だとは思うのですが、おそらく川田Jは、事前にこのようなプレッシャーを受けることを想定していたのでしょう。この大舞台で、迷うことなくこれをやってのけたんですから、川田Jって、マジでスゲーな、と。


が、しかし、ムーアJのプレッシャーは、それで終わりにはなりませんでした。向正面に入っても、終始、外からラヴズオンリーユーにプレッシャーをかけ続けてきたばかりか、内からはギュイヨンJが隙あらば開いたスペースを突いてインから進出しようとする姿勢を見せてきたんですから、かなりヒヤヒヤしましたけど、このあたりの攻防は実に見応えがありましたね。

その時、川田Jが取った対応は、驚くほどに冷静かつ合理的なものでした。向正面に入ると、再びラヴズオンリーユーを馬の後ろに入れてギュイヨンJにスペースを与えず、ラヴを外に張る手を休め、脚を溜めることを優先したんですよね。まさに、このあたりは世界の頂点を争う超ハイレベルな駆け引きでしたし、そこで一歩も引かずに冷静に対処した川田Jは、完全に神っていたと思います。

実を言うと、日本でデゼルやグレナディアガーズに騎乗した時の川田Jを知っている身としては、ここでさらにムーアJに対して抵抗を続け、終いに脚を残せないんじゃないかと心配しながらレースを観ていたんですよ。ところが川田Jはそれをやらず、一旦、矛を収めた。結果的にこの判断により脚がうまく溜まって、偉業達成に大きく寄与したのだと私は見ています。それくらい、冷静でクレバーな判断だったな、と。


その結果、ラヴへのプレッシャーが緩み、3コーナー手前から一気に外をマクられる形にはなりましたけど、相手には、前半からラヴズオンリーユーを抑え込むために無理を重ねた負荷が蓄積していましたから、ゴールまで脚を持続するスタミナはさすがに残っていませんでした。それでもラヴは無茶苦茶強い馬でしたけど、ムーアJとの攻防を制してこの馬を抑え込んだことには、ものすごい大きな価値があるんじゃないでしょうか。

しかも最終的に、漁夫の利的に後方から一気に脚を使ってきたマイシスターナットとウォーライクゴッデスの間を割ってキッチリと差し切ってしまったのですから、これはもう、単なるブリーダーズカップ1勝以上の価値があるレースだったと言えるでしょう。厳しいレースを耐え抜いて勝ち切ったラヴズオンリーユーも見事でしたが、これまでやりたい放題にやられていた外国人ジョッキーに、川田Jが見事ひと泡吹かせたという意味では、間違いなく歴史に残るインパクトの大きい勝利でした。

川田Jの普段の騎乗スタイルを見ていると、自然体の武豊スタイルでは、外国人ジョッキー相手にはまったく通用しないのだと強く意識していることを窺わせます。その意味でも、本人にとって非常に感慨深い勝利になったのではないでしょうか。あのゴール後の小さなガッツポーズと大粒の涙には、「日本人ジョッキーにだってやれるんだぞ!」という彼の強い反骨心が見て取れますね。

なにはさておき、昨日は川田将雅という孤高の努力家が、正真正銘の日本人NO.1ジョッキーになった日。そう言っても過言ではないでしょう。

ブリーダーズカップディスタフ


今度は、ブリーダーズカップディスタフを振り返ります。

勝ったマルシュロレーヌは、戦前はさほど高い評価を受けていませんでしたし、実際にブックメーカーのオッズでもまったくの人気薄でしたが、矢作調教師がレース後に話していたとおり、アメリカのダートに高い適性があったことは間違いないと思います。その意味で、さすがは日本のトップトレーナーだなと思いますし、ラヴズオンリーユーの勝利と併せて、これまでの努力が報われて本当によかったな、と。



ただ、あくまでも個人的な見解を言えば、アメリカの一線級相手でも、マルシュロレーヌならソコソコやれるんじゃないかとは思っていたんですよね。もちろん、それを裏付けるデータは存在していて、その根拠と言えるレースこそが、昨年9月に小倉で行われた桜島ステークス。

当時、この桜島ステークスが初ダート戦だったマルシュロレーヌですが、前の残りの流れを一頭だけ違う脚を使って豪快に差し切ってしまったんです。小倉のダートでレースの上がり3ハロンが12.1 - 11.7 - 12.0のところ、4角8番手からスコーンと突き抜けてしまうシーンなんて、私の長い競馬人生の中でも初めて観る衝撃の光景でしたから。

そうそう、芝でも走れるこの馬が、軽いダートで異次元の末脚を使ったところに、時計の速いアメリカダートへの適性の高さを感じさせたのですよ。


一般的に今回の快挙が、門別のブリーダーズゴールドカップからの臨戦で本場のブリーダーズカップを勝っちゃったとか、中央の重賞勝利もなかった馬がいきなりダートの本場アメリカのGⅠ勝ったみたいな感じで伝えられているのは、正直なところかなり気に入らないですね(笑)。

多くの国内メディアや競馬評論家が、まるで奇跡が起こったかのような伝え方をしていますが、現地の関係者はともかくとしても、少なくとも玄人を自称する日本の競馬関係者なら、桜島ステークスにおけるマルシュロレーヌの末脚に触れずして、ブリーダーズカップディスタフの勝因を語るのはあまりに情けない。そう思います。

だって、この桜島ステークスこそが、マルシュロレーヌにとってのこれまでのベストレースだったのは明らかですし、相手があることなので勝ち負けまでは断言できないとしても、当時のレース内容をしっかりと吟味していれば、善戦以上の期待を持ってレースを観てもいいことくらい、事前に競馬ファンにしっかりと伝えられたんじゃないか、と。


ちょっと愚痴っぽくなっちゃいましたけど、私がここで皆さんに伝えたいのは、日本の競馬メディアや評論家は、各馬の馬場適性という部分に関して、あまりに軽視しすぎなんじゃないかということです。

スプリントに出走したマテラスカイにしたって、日本では「飛び抜けた感はないけど、普通に強いダート馬」という程度の評価ですが、海外のレースでの実績は、日本調教の短距離馬として過去に例を見ない好成績を残していますよね。

つまりこれは、マテラスカイにとって最も適性の高い馬場が日本には存在せず、たとえ相手が数段強力になったとしても、自身にとって適性の高い馬場で戦ったほうがよりよい成績を残すことができる。そういうことなんだと思います。


翻って、マルシュロレーヌが、前走後に急激に力を付けたのかと言えば、おそらくそんなことはないでしょう。だから、次走で地方交流競走に出走してきたとしても、頭鉄板と言えるほどの存在ではない。逆の見方をすれば、そうとも言えます。

つまり適性の低い舞台での戦いを強いられることになれば、いかに世界最高峰のレースを勝った馬であっても、簡単に負けることがある。これが競馬でもあるんですよね。


ところで、この「本気の競馬力向上研究所」における投稿において、私は常に「適性」という言葉を連打している自覚があるのですが、今回のマルシュロレーヌの快挙は、この「適性」というファクターの大事さをしっかりと代弁してくれた。そのようにも思っています。

もう一度、レースを見直してもらえるとわかるのですけど、桜島ステークスで見せた最後の直線の末脚と、ブリーダーズカップディスタフで見せた3コーナーからの一気のマクリ脚。その凄味には、明らかな共通点を見いだすことができます。

皆さんには是非、こんな視点を持って、ブリーダーズカップディスタフのレースを再視聴してほしいですね。そして川田Jのアクションだけに注目して、ブリーダーズカップフィリー&メアターフのレースも再度観てほしい。これをやることで、若干手前みそではありますが、さらなる競馬の奥深さに必ず触れることができる。そう思います。

以上、是非、参考にしてくださいませ。

(2021.11.11 誤字脱字等一部修正)

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